近頃は私の頭に浮かんだ程度のものはそのまま作品になるようになった。私にとって作るということは頭に浮かんだイメージを可視化して気のせいでなく「やっぱり在った」と確認する行為である。私としては満足していて不満もない。なので作品がつまらなければ私の頭に浮かんだイメージ自体がつまらないということである。またどんな巨匠の作品だろうと私にはよその家の芝生でしかない。 満足したら終わりだ、というけれど、満足していないものを人に見せたり販売出来るほど神経が太くない。終わらないのは、鮫の歯のように作るものが縦列に順番を待っているからで、脳科学者によると人は頭に浮かんだ物 を作るように出来ているという。この仕組みのせいで、いちいち形にしなければならない。好きでやってるから良いようなものの。
虚無への供物 中井英夫