AIにより作られ世界最高峰の写真展でグランプリをとった作品は、わざわざ古典的手法で撮ったかのように作られ、受賞を拒否した作者は、現在の写真の世界に一石を投じようとしたのは明らかである。今後出版される写真の歴史本に、この作品に、一項を設けることになるだろう。〝レンズを外側に向けず、眉間に当てる念写が理想”の私は長い間、実行しているつもりでいたが、人形にまるでそこに居るかのような陰影を与え、それは所詮外の世界の模倣に過ぎなかった。一度だけ、どれだけ実写に見えるか古今亭志ん生で試した事がある。結果私はただの撮影者となり、挙句に「これは私が作った人形です。こんな老人がこんな物担げる訳ないじゃないですか?」2度とすまいと。 写真から陰影を無くせば、光の呪縛から解放され、写真や西洋画になく、東洋画や浮世絵にある自由を獲得できるのではないか?その頃買い物の帰り道、光源のない頭の中のイメージには陰影がないことに気付いてスーパーの袋を落としそうになったのを覚えている。これは私の感慨だが、件の一石が投じられる前に、今の表現に至っていたのは何よりだと思う。今後さらにそう思うことになる気がする。