先日浮かんだ暗い室内の陰影の中に浮かぶ松尾芭蕉、蝋燭一本又は油に灯芯の灯りに飛び回る蛾。シャッターを押したように瞬間に浮んだ。それは良いのだが、ここから構図など変更出来ないのが玉に瑕である。この後にいくら工夫してもファーストインプレッションを超えることはない。超えられないのなら、すぐに浮かぶのなら結構なことかもしれないが、私もスケッチブックにああだこうだ、と試行錯誤をして生み出したいのである。しかし、最初のイメージを超えられずに苦しむことになる。紙に何気なく悪戯描きをし、結局それ以上の物が浮かばず、ゴミ箱をあさって以来、もうスケッチなど止めた。いくら試行錯誤しても落ちてきたボタ餅には絶対勝てない。このせいで、個展会場では、熟考の末こうなりました、という見栄を張ってしまうのである。 しかし、さすがに人形と違ってそうは行かないのが芭蕉庵の制作である。飲み仲間には、大手ゼネコンの元部長もいる。いくらでも知恵は借りられるだろう。しかし高層ビルの工法を取り入れる訳にもいかないので、く例によって、人にはとても見せられない非合理なやり方で挑むことになるのであろう。そういえば昔、建築事務所に入って結局、挫折した友人がいる。彼くらいに知恵を借りて程よいかも知れない。