太宰は足元はまだ形にはなっていないが、一カット目はとりあえず足元は必要がない。足元以外の仕上げを進める。後ろ手に縛られ苦悶の表情の三島由紀夫。私はいったい何をやっている?というときにこそ、溢れ出る快感物質。知に侵されぬ肉の持ち主が苦しみもがく姿を幼い頃から夢見る三島。王子様が竜にかみ砕かれ死ぬ絵本をくり返し読むが、そのたび生き返るところが気に食わない。その部分を手で隠して読む幼い三島由紀夫。根っからである。私が彼でありたい三島の願い通り、竜にかみ砕かれる三島も作った。王子の着衣も三島の描写通りにした。怪獣など作ったのは小学生以来であったが、それを屋上で青空背景に撮影しているとき、私は一体何をしている? 実在した人物を制作する場合、作家の想像力にかこつけ、それに乗っかり、思わぬ場面を作ることができる面白さがあり、そういう意味では江戸川乱歩と三島由紀夫は私にとって双璧であろう。ただし、三島はその快楽を提供してくれるのは、豊富な死の場面に限る。三島の文学世界をただ絵にすることなど考えもせず、男の死というモチーフしか思い浮かばない。 それを思うと、私がそのモチーフの殆どを選び制作した初の書き下ろし長編仮面の告白の起筆日、11月25日を最後の日に選んだ三島。自衛隊員の怒号も三島の悲劇の死の演出の一つだと私は思う。仮に隊員の中に一人でも先生私もご一緒します!なんて隊員がいたなら、エンディングが台無しになっていただろう。バルコニーの上から、そんな男を見つけたら、どうすれば良いか。そんなおっちょこちょい対策など当然三島は考えていただろう。見なかったことにして、演説を早く切り上げ、最後の場面を急げば良いだけの話である。実際、予定よりだいぶ早めに切り上げている。