明治神宮前の某社を訪問する。社長の体調が悪く、変わりに応対いただいたのはご子息であったが、高校時代に見た私の作品を覚えているということで、様々な方向に話が及びながら、長居してしまった。 そこから目黒のギャラリーコスモス『PICTORIALIST鈴木啓展』へ。萩谷剛さんがおられ、作品について伺った。ほとんど『雑巾がけ』という、プリントに油絵の具を塗り、その拭い去り加減で調子を出して行く作品である。下地がモノクロプリントのせいか、ピグメント印画法のような“絵のような”プリントではない。さらに、多くがプリント時に印画紙を縦や斜めに歪ませ露光してデフォルメをおこなっている。ソフトフォーカスの“ベス単派”ではあるが、実際はソフトなレンズを使用したのではなく、アナスチグマットレンズで撮影し、部分を引き延ばしたことによるボケのようである。 懐かしさを感じる風景だが、多くの場合頬っかむりした農民や、道行く人が入っている。面白かったのが、それら小さな人物の表情は判りようがないが、判然としない分、想像が掻立てられ、会話が聴こえてくるようである。特に図録の最期に載っている『農家裏夕』は、野良仕事でも終えた2人の女性であろうか。じゃれ合いながら帰宅したところに見える。私の仕事柄にもよろうが、後ろ姿の2人のケラケラと楽しそうな声が聴こえる。これはソフトフォーカスの妙味といえるだろう。 その後、萩谷さんのご友人と3人で居酒屋へ。ご友人は元銀行員だというし、何を話して良いやら、と思っていたが、内田百間好きだそうで、漱石の話から酒から様々なことに話は及び、楽しく過ごした。 そういえば、長らくHPのトップには“ピクトリアリスト石塚公昭のHP”と表示していたが、誰にも通じないだろう、といつか消してしまった。今こそ復活させても良いかもしれない。
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