今日は前回撮れなかったカットがあり、一日がかりの撮影になるだろう。しかし天候に対する運の悪さは昨日で断ち切られたようである。中止のところを急遽やることにし、そのフェイントにより肩透かしをくらって土俵下に落ちていった何者かの音を聴いた。昨日とはあきらかに違って爽やかである。
荷物があるということでMさんに車で迎えに来ていただいた。踊りの師匠と師匠仲間の娘役の二人の着付けを待つ。昼夜着物を替えるのだが、前回日中の外での撮影ができなかったので、一日で2回着替えてもらうことになってしまったが、娘にいたっては3回である。おかげで着物に関してすべてお願いしてしまったMさんの奥さんはカーレースのタイヤ交換のような忙しさで、撮影中はちょっとした襟や裾の乱れをチェックしていただいたりして、おかげで撮影だけに集中することができた。 さっそくマンションの中庭に出て、まずは登場シーンである。今回良いのは素人劇団ではあるが顔見知りなので、三人ともよく知っている酔っ払いの話でもしてもらえば、自動的に房総に遊びに来た顔になることである。 次に着物のまま足首あたりまで海に入る。そこで娘の白いふくらはぎを見て河童が『一波上るわ、足許へ。あれと裳(もすそ)を、脛(はぎ)がよれる、裳が揚る、紅い帆が、白百合の船にはらんで、青々と引く波に走るのを見ては、何とも、かとも』。とムラッと来てしまう重要なシーンである。鏡花のいうところの“紅い帆が、白百合の船にはらんで、青々と引く波に走る”様を実見して納得した次第であるが、そんな色っぽい情景も、実際の現場の様子は・・・。これは参加者だけの愉快な思い出としていただこう。 一日様々なことをしていただいて、すべては書き切れないが、私がああだこうだいうよりも、劇団員の皆さんの自主性にお任せしたほうが良い、と丸投げしてしまった河童に化かされ、そして神様を鎮めようと踊るシーンも部屋の内外とも無事に終った。案の定、私が参考に、とメールで送った神楽舞のビデオの予習も充分であった。今だからいうが、私自身はなんとなくしか見ていない。