「ようこそ ローラのキッチンへ・・・・・・ロッキーリッジの暮らしと料理・・・・・・」
ローラ・インガルス・ワイルダー:レシピ
ウィリアム・アンダーソン:文
レスリー・A・ケリー:写真
谷口由美子:訳
求龍堂
1800年代後半の大開拓時代のアメリカ。家族と共に大自然の中で逞しく生きた女性ローラ・インガルス・ワイルダーの自伝的小説「インガルス一家の物語」シリーズのその後、ローラ達はどう生きたのか。
ローラ27歳の時、一家でミズーリ州へ移住しマンスフィールドの町の近くに土地を購入して「ロッキーリッジ農場」をひらく。その場所で60年余りを過ごし、ローラは90歳、アルマンゾは92歳の天寿をまっとうした。
ロッキーリッジでローラが書きためたレシピと、ロッキーリッジでの一家の生活の様子を収めたローラのレシピ本。
★★★〈自分が読んだ動機〉★★★
子どもの頃に読んだ「大草原の小さな家」を、大人になってからもう一度読みたいと思い、全シリーズを購入しました。シリーズ最終巻を読んだ後、ローラ達がその後どんな人生を送ったのか知りたくて、番外編といえる本書を読みました。
★★★〈こんな人におすすめ〉★★★
・「インガルス一家の物語」シリーズの、ローラ一家のその後を知りたい人。
★★★〈本の概要〉★★★
ローラ・アルマンゾ・ローズがその後どんな人生を送ったのか、一家のその後を知る読み物として購入しました。
本の内容は、レシピ半分、ロッキーリッジでの生活を書いた文章が半分といったところ。レシピ本としても、一家の歴史を辿る読み物としても、十分読み応えのある情報量です。
ワイルダー一家のその後を、簡単にまとめました。
★★★〈ローラのその後:田舎の農場の暮らしを愛した活動的な主婦〉★★★
ローラは農家の主婦を職業と思っていました。
ごみごみした都会の暮らしに比べ、農家の暮らしは素晴らしい。公園のように美しい広い庭、美しい自然がある。そして田舎に暮らしていても都会に暮らしている人と同じものを得ることは可能だ。彼女はそう考えていました。
アルマンゾと共に土地を開墾し、農作業や家畜の世話をする農家の主婦として働きながら、彼女の活動は家の中だけにとどまりませんでした。
田舎の女性いつも汚れた格好で働いて、孤立して世の中の動きに疎くなっているというイメージを払拭するため、また田舎暮らしで近所づきあいがなくなるのを防ぐために、社交の場や文化的な集まりを持つことを農家の人たちに提案しました。
ロッキーリッジ農場は、お茶を飲んだりテニスをしたり、スケート大会、裁縫クラブや読書クラブといった社交場として人気となりました。
また一時期は農業ローン協会の記録係兼会計係としてローンを貸し付ける仕事についており、銀行審査官が感心するほど正確な仕事ぶりを発揮しました。
農家の主婦、ビジネスウーマン、クラブで活動する女性、田舎の女性活動家としてローラの活躍は地元新聞で紹介され、50代の頃にはローラは地元の有名人になっていました。
★★★〈ローラ、作家への道〉★★★
ニワトリの飼育がとても上手だったローラには、その技術を披露してほしいという依頼が来るようになりました。そして彼女の講演文を読んでローラの文才に気付いた新聞記者が、新聞に原稿を書いてくれるよう依頼し、ローラは農業新聞に農家の暮らしについての記事を書くようになります。1911年.ローラ44歳の時、作家としてスタートします。
自分の開拓時代の思い出を書きたいと思っていたローラは、1932年、65歳で「大きな森の小さな家」を発表。その後も次々に「インガルス一家の物語」シリーズを発表し、ベストセラーとなりました。
★★★〈ローズのその後:著名な作家・ジャーナリスト〉★★★
ローラとアルマンゾの一人娘のローズは、聡明で独立心が強く野心に溢れ、平凡な農家の主婦に収まる女性ではありませんでした。
17歳で電信技手として働きはじめたのを皮切りに各地を転々とし、カリフォルニアで最初の女性不動業者のひとりとして成功をおさめます。その後記者となり、のちに全国に名を知られる作家・ジャーナリストとなり、世界中を旅するようになります。
★★★〈アルマンゾのその後:有能な農夫〉★★★
ローラとローズが文筆の世界で有名になる一方、アルマンゾは有能な農夫として有名になりました。
購入した土地をローラと一緒に開墾し、はじめのうちこそ貧しかったものの、石ころだらけの不毛な土地を開拓し、様々な作物・穀物・果実・家畜を育て、農畜産業品評会で家畜・穀物の賞を取りまくるようになりました。彼の農場の成功談は、何度も地元の新聞記事になりました。
★★★〈成功を収めたワイルダー一家〉★★★
農家の主婦でベストセラー作家のローラ。有能な農夫アルマンゾ。作家・ジャーナリストのローズ。ワイルダー一家は三人とも成功を収めました。
本書で、三人ともそれぞれの分野で努力して結果を出した、とても賢く有能な人物だったことを知りました。
「新聞で、女性がやっと自立するようになってきた、などとまことしやかな見出しを見ると、なんだかおかしくなります。農家の女性はいつだって、ビジネスウーマンだったからです。ただ、それに気がつかなかっただけなのです。」(84ページ)
物語のローラは賢く行動力のある少女として描かれていましたが、大人になってから主婦として、仕事人として、そして作家として素晴らしい力を発揮したローラのスーパーウーマンぶりに驚きました。
発表された物語はローラ22歳の時までですが、それ以降の物語も書いてほしかったです・・・
★★★〈料理上手なスーパー主婦。ローラが残した多彩なレシピ。〉★★★
そしてローラは料理上手でした。
自宅や様々な集まりで振舞った手料理は、みんなに喜ばれました。
ローラが残したレシピを見ると、「スイス風ステーキ」・「アイリッシュシチュー」・「キャンザス風コーングラタン」など異国風・他の州の料理も多く、様々なメニューに興味を持っていたようです。
また「ドイツのサワー・クリーム・トゥイスト100個くらい」・「50人分のアイスコーヒー」など大容量!のレシピからは、多くの客人を招いていた生活が思い浮かびます。
「あなたは私の料理をほめ過ぎる」とローラはアルマンゾに言ったそうです。
都会に何年か住んで農場へ帰ってきたローズは、母が用意した食事の豊かさに驚いた文章を残しています。
ローズが残した文章にある、ローラが用意した朝食のメニューは
「クリームをたっぷり添えたオートミール、焼きリンゴ、どっさりの卵料理、焼き立てのプチプチいっているハム、溶けたバターと赤砂糖を間に挟んで重ねた何十枚ものパンケーキ、ハッシュト・ブラウン・ポテト、グラハム・パン、白パン、新鮮なバター、蜂蜜、ジャム、ミルク、コーヒー。2杯目のコーヒーと一緒に食べるドーナッツ、ジンジャーブレッド、アップルパイ。」(80ページ)
まるでホテルで出てきそうな豪華なメニューです。
厳しい農作業の為にボリュームある食事が必要だったと思いますが、これだけのメニューを用意するのは決して楽ではなかったでしょう。
毎日おいしい食事を作り続けたローラに、本当に頭が下がります。
★★★〈ローラが大切にしていたこと〉★★★
「家族のために学校のお弁当を作ったり、おいしいご馳走を作ったりすることは、講演をしたり、本を書いたりするのと比べたら、ちっとも重要なこととは思えないかもしれません。でも、わたしはその意見には賛成できないのです。つきつめて考えれば、そういうことこそ、とても重要なことなのですから。」(24ページ)
ローラの言葉から、彼女にとって仕事とは、生活とは別世界のものではなく、生活の延長線上にあったことがわかります。
そして本書に収められた多数のレシピ、「大草原シリーズ」にも多くの料理を登場させたことからも、生活を支えるのは美味しい食事である、という信念が読み取れます。
またローラの本が売れた時、ローズにミンクのコートを買うよう勧められても、「私がミンクのコートを着ていたらこっけいでしょう」と言ったそうです。
ローラのたまの贅沢は、たくさんのお客をもてなすための多種多様な食器を買うことでした。それらは今ロッキーリッジの家に展示されています。
社会的地位を得ても、金銭的に豊かになっても、農業に精を出しておいしい料理やお菓子を作り、多くの友人・客人をもてなす生活スタイルを大きく変えることをしなかったようです。
きっと過度な贅沢も浪費もしない、背伸びをしない人だったのでしょう。
その気になればセレブ生活もできただろうに、あくまで農家の主婦として農場で暮らし続けた、地に足の着いた生活を送ったローラの堅実さに、改めて尊敬と憧れを抱きました。
★★★〈開拓精神と農場生活から見る、自給自足の大切さ〉★★★
第二次世界大戦中に食糧配給が始まった時、野菜と果物はロッキーリッジ農場で自給できたものの、肉や砂糖はなかなか手に入らなくなりました。ローラは配給で買えるものを慎重に検討し、食糧難を乗り切るレシピを集めて乗り切りました。
離れて暮らしていたローズも、配給を受けなくても生活できるよう、野菜や果物を育てて瓶詰を作り、鶏と豚は近くの農場に飼育を頼んで捌いてもらい、砂糖の代わりに配給されない蜂蜜を使って食料を確保していました。
(ローズは、自分の主義を貫くために政府の食糧配給カードを拒否したのですが)
ローラは食卓にのぼるものをほとんど農場で作ることが出来ることにも喜んでいましたが、物資が不足する戦時中ではそれが生命線となりました。こういった事例を見ると、自給自足の重要性がよく分かります。
ローラのかあさんは、「節約、工夫、思い付きのよさをもって、家庭をきりもりし、どんな場所でも家庭を作り、守った」(96ページ)典型的な開拓時代の女性でした。
ローラが切り詰め生活を乗り切れたのも、かあさんを見て育った少女時代から培われた開拓者精神あったことが大きいと思います。
「戦時中の切り詰め生活も、ローラにとってはたいした苦難ではなかった。彼女は生涯を通じて、最もシンプルなものを最大限に活用してきたからである。」(107ページ)
便利な生活に慣れきってしまうと、それが機能しなくなった時に困ってしまう。そんな状況では「必要なものは自分で作り、あるものを上手に活用する」ことが求められるでしょう。開拓時代に育ったローラにその力が身についていたことは、物語の中でも明らかです。
不安定な世界情勢を見ると、自給自足ができる人や国が結局のところ一番強いように思えます。
「インガルス一家の物語」が長く愛されているのは、物の少ない環境で必要なものを自分で作り出す開拓者のアナログな自給自足生活に、憧れと重要性を見出す人が多いからではないか、と思います。
★★★〈ローラが暮らした家・農場の多くの写真を収録〉★★★
本の表紙は、ほぼ20年かけて少しずつ改良・増築して大きくしていったロッキーリッジ農場の家です。
本書にはローラ・アルマンゾ・ローズの写真の他、現在のロッキーリッジ農場と家の写真が数多く収録されています。
現在ロッキーリッジ農場の家は博物館となっていて、家の中には今もそこで生活しているように、一家が使っていた家具や食器・生活用品が置かれています。
私が特に心惹かれたのが、ローラが設計したキッチンです。ローラとアルマンゾが農作業の合間に作業して作り上げたキッチンは、緑色の床に明るい黄色と白の戸棚、明るい花柄の壁紙と、まるでインテリア雑誌に出てくるようなお洒落な空間。そしてとにかく広い! まるでレストランの厨房のような広さです。
キッチンは普段の料理の他、バターやパンや保存食づくり、家畜の餌づくりなどを行う場所でもあり、まさにローラの仕事場でした。
ローラに合わせて作られた、これほど広くてお洒落なキッチンなら、きっと仕事もはかどったのではと思います。
ローラが愛用していたキッチン用品の写真も載っており、カントリーインテリアやアンティーク雑貨が好きな人にはたまらない魅力です。
★★★〈終わりに〉★★★
本に書かれていない苦労も多くあったと思いますが、ワイルダー一家の生活ぶりを読む限り、経済的・社会的に成功し友人達に恵まれた、とても満ち足りた人生だったようです。
「大草原の少女」ローラは、エネルギッシュで魅力的で、素晴らしい女性であったことを教えてくれた本です。
ローラ一家が幸せな人生を送ったことも分かり、「大草原シリーズ」がますます好きになりました。
★★★〈ガース・ウィリアムズの挿絵がついたシリーズ一覧〉★★★
多くの出版社から刊行されている「インガルス一家の物語」シリーズで、私が一番物語に合ってえると思う挿絵、ガース・ウィリアムズの素朴で写実的な挿絵がついているのは以下のとおりです。
1・大きな森の小さな家
2・大草原の小さな家
3・プラム・クリークの土手で
4・シルバー・レイクの岸辺で
5・農場の少年
ローラ・インガルス・ワイルダー:作
ガース・ウィリアムズ:画
恩地三保子:訳
福音館書店
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6・長い冬
7・大草原の小さな町
8・この楽しき日々
9・はじめの四年間
ローラ・インガルス・ワイルダー:作
ガース・ウィリアムズ:画
岩波少年文庫
谷口由美子:訳
★★★〈番外編・ローラのその後を描いた本〉★★★
「わが家への道」
ローラ・インガルス・ワイルダー:作
ガース・ウィリアムズ:画
谷口由美子:訳
岩波少年文庫
「ようこそ ローラのキッチンへ ロッキーリッジの暮らしと料理」
ローラ・インガルス・ワイルダー:レシピ
ウィリアム・アンダーソン:文
レスリー・A・ケリー:写真
谷口由美子:訳
求龍堂