「わが家への道 ローラの旅日記」

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

谷口由美子:訳

岩波少年文庫

 

 

1800年代後半の大開拓時代のアメリカ。家族と共に大自然の中で逞しく生きた女性ローラ・インガルス・ワイルダーの自伝的小説「インガルス一家の物語」シリーズのその後、ローラ達はどう生きたのか。

 

ローラ27歳、ローズ7歳の時に、夫のアルマンゾ・一人娘ローズと3人で、新しい土地を求めてミズーリ州へ旅立つ。幌馬車での約1,000キロの長旅の末、一家はマンスフィールドの町に近い土地を買い、農場をひらく。

 

ローラが旅の間につけていた日記とローズの手記による、当時の一家の生活の記録。

 

 

 

 

 

 

★★★〈自分が読んだ動機〉★★★

子どもの頃に読んだ「大草原の小さな家」を、大人になってからもう一度読みたいと思い、全シリーズを購入しました。シリーズ最終巻の後、ローラ達がどのような人生を送ったのかを知りたくて、番外編といえる本書を読みました。

 

 

★★★〈こんな人におすすめ〉★★★

・インガルス一家の物語」シリーズの、その後のローラ一家がどうなったのかを知りたい人。

 

 

★★★〈本の概要〉★★★

本書は3章で構成されています。

第一章・三章は娘のローズによる文章で、サウス・ダコタ州を出発するまでと、ミズーリ州へ着いてからの一家の暮らしについて書かれた手記です。

第二章が、ミズーリ州へ向かう旅の間にローラがつけていた日記です。

 

 

第一章:出発(ローズ・ワイルダー・レイン文)

サウス・ダコタ州のデ・スメットに住んでいた頃、酷い旱魃が続いて不作が続き、とうとう土地を失ってしまった。その後、世界中で恐慌が訪れた。

一家はミズーリ州の「大きな赤いリンゴの土地」へ行くことになった。その土地へ行った人が、大きな赤いリンゴが沢山なっている写真や、マンスフィールドという町の写真を送ってきたのだ。

アルマンゾはあちこちで日雇いの仕事をして、ローラは仕立て屋で働き、100ドル貯めたところで、一家は幌馬車でミズーリ州へ旅立った。

 

 

第二章:わが家への道 サウス・ダコタ州からミズーリ州マンスフィールドまでのローラの旅日記(1894年)

ミズーリ州への旅のあいだ、ローラが毎日つけていた日記です。

日付は1984年7月17日から8月30日まで。なぜか8月11日だけ日記がつけられていませんが、それ以外は毎日欠かさずに書かれており、マンスフィールドに到着した日で日記は終わっています。

 

冬が来る前に落ち着くために、温度計が40度を超す日もある真夏に、6週間で2つの州を越えてほぼ1000キロを移動するという過酷な旅でした。

日記に書かれていることは、

 

・その日の天気や気温。

・通り過ぎた町や土地の様子。

・キャンプの様子。

・目にした農地の状態や、植えられた作物の種類、どれほどの収穫量があるかという目算。

・土地の値段、農産物の売値。

・旅の途中で買ったものとその値段。

・途中で出会った人から聞いた話の内容。

 

といった内容です。

 

 

第三章:新しい家(ローズ・ワイルダー・レイン文)

マンスフィールドに着いた後、アルマンゾは毎日出かけて土地を探しまわり、町に近い土地を購入した。サウス・ダコタ州から持ってきた100ドルを前金に土地を購入したのだった。

購入した土地にもともと建っていた丸太小屋に引っ越し、ローラとアルマンゾは土地を開墾し、リンゴの苗木を植えた。土地にはリンゴの苗木もついていたのだった。

町から近かったので、ローズは歩いて学校に通った。

 

ローズがそろそろ11歳になる時、ローラとアルマンゾは新しい家の設計をした。

あと2,3年すれば借金も支払える、果樹園が実って良い値で売れて、家畜も増えたら、いよいよ家を建てられる。

材料は全て農場にある。どんな家を建てたいのか、とローラは夢見心地でローズに言うのだった。

 

 

★★★〈物語ではなく、日記と手記によるノンフィクション〉★★★

本書は物語ではありません。旅の間にローラがつけた日記と、ローズが当時のことを記した手記がおさめられたノンフィクションです。

本書で知ることが出来るのは、ローラが27歳から30歳くらいの頃まで。

サウス・ダコタ州から遠く離れたミズーリ州へ移住した経緯と旅立ちまでの様子、旅の途中の出来事、ミズーリ州へ落ち着いてから数年後のことまでです。

 

 

★★★〈ローラの最後の旅〉★★★

ローラ27歳の時、ローラ・アルマンゾ・ローズはミズーリ州へ旅立ちます。

そしてこの旅が、幼い頃から移住を繰り返した開拓娘ローラの最後の旅となります。

ローラとアルマンゾはミズーリ州マンスフィールドの町に近い土地を購入します。「ロッキーリッジ農場」と名付けたその場所が終の棲家となり、以後2人は60年余りをその土地で過ごしました。

 

 

★★★〈遠い土地へ移住する理由〉★★★

ミズーリ州への移住を決めた理由は、旱魃でした。7年間雨が降らず不作が続き、とうとう土地を失います。そして農業に適した「大きな赤いリンゴの土地」がミズーリ州にあると知り、一家はミズーリ州へ行くことになったのでした。

町で農業以外の仕事をしながら暮らしていくことより、農業で生計を立てることを望んだようで、ローラとアルマンゾも農業に適した土地を求めて移住を決意したのです。

 

サウス・ダコタ州では両親・姉妹が近くに住んでいたのに、知人もいない遠い所へなぜ移住したのだろう、と最初は不思議に思いました。

しかしローラのとうさん・かあさんもそうだったように、農業に適した土地を求めて遠い土地に移住する人々が多かったのが開拓時代のアメリカ。日本では、同じ土地に代々住み続ける文化が昔から根強いように思います。広大な国土を持つアメリカとの文化の違いを感じました。

 

 

★★★〈多くの移住者・移民でごった返す当時のアメリカ〉★★★

ローラの日記には、旅の途中で出会った人との交流も記されています。

見つけた一軒家で水や食料を買ったり分けてもらったり、食事に誘われたり。

同じように幌馬車で旅をしている移住者も多く、出会うと「どこから来たのか」「どこへ行くのか」「行く先の土地の作物はどうなのか」と必ず質問されたそうです。

 

ローラ達も同様に土地を観察して情報を集めていたようで、日記には、その土地や気候が農業に適しているか、作物の出来はどうか、どれほどの収穫が見込めるのか、このあたりの土地の値段はどれくらいか、収穫された農産物はどれほどの値段で売れるのか、について詳しく書かれています。

 

一家のように農地を探している移住者はとても多く、幌馬車が何台も列をなして進むときもあります。またドイツ人やロシア人の居住地を見つけることもあり、アメリカ国内には国内からの移住者のほか、外国からの移民も多くいたことが伺えます。

 

 

★★★〈当時の写真〉★★★

本の表紙は、結婚直後に撮られたローラとアルマンゾの写真です。ほかにも写真が多く収録されています。収録されている写真は以下のとおりです。

 

ローラ・アルマンゾ・ローズの顔写真。

ローラのとうさん・かあさんの家。

アルマンゾがローラに贈った手作りの裁縫箱や文具箱。

ローラが住んでいた、デ・スメットの本通り。

ミズーリ州への旅の途中に通り過ぎた町の、当時の写真。

開墾した農場の写真と、農場で撮られたアルマンゾの写真。

農場とローラ達の家の、現在の写真。

 

西部劇に出てきそうな町並みに、古い時代のアメリカを感じます。

ローラ達の写真もあり、彼女たちが架空の人物ではなく、実際に生きていた人間であることを実感しました。

 

 

★★★〈旅の間の食料・お金の事情〉★★★

物語にはお金のことがあまり書かれていませんでしたが、ローラの旅日記には、旅の間に何にいくら使ったのかという支出が細かく書かれています。

 

旅の途中で買ったものは、主に食料です。

旅の食料として、ローラが焼いた長期保存できる堅いパン(乾パンのようなもの)を持っていきましたが、他にも途中で食料を買い足す必要がありました。アルマンゾは新製品の防火マットを1箱持参していて、それを売ったり物々交換することで食料を調達していました。

町や農家でパイ・トウモロコシ・トマト・リンゴなどを調達する。近くでキャンプした他の移住者と食べ物を分け合う。森の中でベリーを摘み、魚を釣る。

仕事を探せない旅の途中の食料・経済事情がわかります。

 

「大草原の小さな町」でもインガルス一家の幌馬車での長旅が書かれていますが、その旅の様子はあまり詳しく描かれていませんでした。きっとローラのとうさん・かあさんも、同じような旅をしていたのだと思います。

 

森でベリーを摘んだり、川辺で水遊びをするローズの様子は、「大草原の小さな家」の頃のローラと全く同じです。ローラとアルマンゾは、当時のとうさん・かあさんと同じ姿だったのでしょう。

 

 

★★★〈ローラとアルマンゾの家は、博物館として現存〉★★★

移住から数年後、一家は新しい家を建てることを決めます。農場で取れる材料を使った、広い台所や、ポンプ付きの井戸、本棚のある居間などがある白い家。いわば2人の夢の家は、現在も管理・保存されており、2人の使っていた家具や道具類が展示されている博物館になっています。

本書には家の写真も載っていますが、1900年代の前半に建てられたとは思えない、まるで現代の建物のようにきれいな白い家です。木々に囲まれた家は外観もとても美しく、いつか行ってみたいと思います。

 

 

★★★〈終わりに〉★★★

「インガルス一家の物語」主人公ローラや家族は、実在した人物なんだと実感しました。

物語とはまた違う、生身のローラを感じられる本です。

 

 

★★★〈ガース・ウィリアムズの挿絵がついたシリーズ一覧〉★★★

多くの出版社から刊行されている「インガルス一家の物語」シリーズで、私が一番物語に合ってえると思う挿絵、ガース・ウィリアムズの素朴で写実的な挿絵がついているのは以下のとおりです。

 

1・大きな森の小さな家

2・大草原の小さな家

3・プラム・クリークの土手で

4・シルバー・レイクの岸辺で

5・農場の少年

 

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

ガース・ウィリアムズ:画

恩地三保子:訳

福音館書店

 

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6・長い冬

7・大草原の小さな町

8・この楽しき日々

9・はじめの四年間

 

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

ガース・ウィリアムズ:画

岩波少年文庫

谷口由美子:訳

 

 

★★★〈番外編・ローラのその後を描いた本〉★★★

「わが家への道」

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

ガース・ウィリアムズ:画

谷口由美子:訳

岩波少年文庫

 

 

「ようこそ ローラのキッチンへ ロッキーリッジの暮らしと料理」

ローラ・インガルス・ワイルダー:レシピ

ウィリアム・アンダーソン:文

レスリー・A・ケリー:写真

谷口由美子:訳

求龍堂