「はじめの四年間」

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

谷口由美子:訳

ガース・ウィリアムズ:画

岩波少年文庫

 

 

1800年代後半の大開拓時代のアメリカ。家族と共に大自然の中で逞しく生きた女性ローラ・インガルス・ワイルダーの自伝的小説「インガルス一家の物語」シリーズの第9巻。

 

18歳でマンリー(アルマンゾ・ワイルダー)と結婚したローラは、実家に近いマンリーの農地の家で暮らし始める。

ローラ18歳から22歳まで、農家の妻となった4年間の日々を描いた物語。

 

 

 

 

 

 

★★★〈自分が読んだ動機〉★★★

子どもの頃に読んだ「大草原の小さな家」を、大人になってからもう一度読みたいと思い、全シリーズを購入しました。

 

 

★★★〈こんな人におすすめ〉★★★

・自給自足の生活を読みたい人。

・1800年代後半のアメリカの農家の暮らしに興味がある人。

 

 

★★★〈登場人物〉★★★

ローラ:主人公。活発で行動力のある女性。インガルス家の次女。

 

マンリー(アルマンゾ):ローラの夫。小麦や家畜を育てる農夫。ローラはマンリーと呼んでいる。自作農地を所有しており、また樹木農地(木を植えるよう定められた土地)の取得を申請中で、二つの農地を切り回している。

 

ローズ:ローラとアルマンゾの一人娘。

 

 

★★★〈あらすじ〉★★★

 

・序章

 

 

1・最初の一年

8月最後の週、ローラとマンリーは結婚し、マンリーが樹木農地に建てた家で二人の生活を始めた。

結婚して翌日、マンリーは脱穀の手伝いへ、さらにその翌日には脱穀人たちが大勢やってきて、ローラは一人で大人数の昼食を用意したが、パイに砂糖を入れ忘れるなどいろいろと失敗してしまった。

マンリーは畑を耕し、ローラは家で料理やパン・バター作り、掃除、洗濯、アイロンかけ、繕い物、編み物に勤しむ日々。休みの日には2人で乗馬を楽しみ、ローラの妊娠も分かり、忙しくも幸せな日々を送った。

しかし小麦の収穫の直前に雹が降り、小麦は台無しになってしまった。

 

 

2・二年目

8月、2人は樹木農地から自作農地に建てた家に引っ越し、冬に備えて2人で干し草を作った。家畜の餌にするだけではなく、干し草は売ってお金に換えた。

12月に娘ローズが産まれた。

4月の種まきの時期に猛吹雪が襲ってきた。一家は無事だったが、旅人で死者が出ていた。

家事、菜園の仕事、ローズを連れて軽馬車でドライブと、たちまち夏は過ぎ、夏が終わると2人で干し草を作った。

乾燥した天気が続いたため、穀物の収穫は思ったほどではなかった。

 

 

3・三年目

ローラはマンリーへのクリスマスプレゼントに、細くて柔らかい毛糸で長袖の下着を編んだ。

冬、ローラとマンリーはジフテリアにかかってしまう。ローズはローラのかあさんが預かってくれ、マンリーの兄ロイヤルが2人の世話をしてくれた

2人は回復したが、マンリーは体に麻痺が残ってしまった。

マンリーの健康状態では自作農地と樹木農地を切り回すことはできない。そのため自作農地を売却し、早春に再び樹木農地の家に戻ることになった。

夏、いとこのピーターと一緒に百頭の羊を買った。羊を買うお金は、子馬を売って工面した。

小麦が熟す前に熱い風が吹き、小麦はからからに乾いて硬くなり、収穫できなくなって

しまった。乾いた小麦を干し草や穀物の代わりに家畜に食べさせることになり、そのあとすぐ干し草づくりをはじめた

 

 

4・恵みの年

農耕用の牛を買ったので、秋の耕作と開墾はらくに終わった。

冬のある日、雪嵐の中でオオカミの遠吠えが聞こえた。ローラは、オオカミがいたら追い払おうと五つ又の熊手を持って牧羊場を見に行くが、牧羊場は無事だった。

 

春の種まきのあとに強い風が吹き、埃が激しく舞い上がった。視界のきかない埃混じりの暴風の中、マンリーとピーターは羊たちを400メートル離れた牧羊場へ連れていくのに1時間以上もかかってしまった。

近くの大草原では火事が起きたが、マンリーとピーターが火を消し止めたため、一家に被害はなかった。しかしせっかく蒔いた種は吹き飛ばされてしまい、種まきはやり直しになった。

種まきの後には羊の毛を刈り取って売り、利益を上げた。

 

夏が近づくと雨が降らなくなり、麦や樹木農地の木々が枯れてしまった。木を育てたと証明しなければ、樹木農地を取得することはできない。そのため先売権を取って土地を申請するという方法をとった。6カ月後に200ドル払うことになるが、土地を手放さずに済む方法はそれ以外になかった。

 

8月、ローラは男の子を出産したが、産まれてすぐにけいれんの発作を起こして死んでしまった。その後、ストーブから燃え広がった火で火事になり、家が焼けてしまった。

ローラは近所の家で家政婦をすることになり、マンリーとピーターは新しい小屋を建てて、9月に引っ越し、一家はゼロから新しい生活をやり直すことになった。

 

2人の農業は成功だったのかというローラに、マンリーは「要は、自分がそれをどう見るかにかかっているんだよ」と言った。悪天候で収穫は思わしくなかったけど、2人には馬・牛・羊がたくさんいる。来年こそはきっと豊作になる。

その言葉を聞いたローラも、「時がくれば、なんでも公平にならされる」と、勇気が湧いてくるのだった。

 

 

★★★〈ローラの遺品から見つかった物語〉★★★

「はじめの四年間」は、ローラに死後に発見・出版された原稿です。

「大きな森の小さな家」から「この楽しき日々」までの8冊は、ローラの書いた物語に、作家・ジャーナリストの娘ローズがアドバイスして修正を加えて作り上げた、いわば母娘の共同執筆でした。しかしローラの遺品の中から見つかった本作は、ローズの手が入っていない、100%ローラの文章です。

そのため前作までとは文章も雰囲気も全く違い、登場人物の印象も異なります。文体も、物語というより、事実を並べていく記録や回顧録のような印象です。ローラがアルマンゾを「マンリー」と呼んでいたことも、前の8冊にはなかったことです。

(あとがきによると、アルマンゾはローラのことを、ローラのミドルネームのエリザベスから、ベシーと呼んでいたそうです。)

 

 

★★★〈農家の主婦の仕事に奮闘する若き主婦ローラ〉★★★

料理やパン・バター作り、掃除、洗濯、アイロンかけ、繕い物、編み物。脱穀人たちの大量の食事の用意。畜殺した豚でラードやソーセージなどの保存食作り。マンリーと一緒に行う干し草づくり。菜園の世話。

農家の主婦の仕事はとても多く、結婚前はかあさんと一緒にこなしていたことも、結婚後はローラ一人でしなければなりません。さらにローズが産まれると、ローズの世話も加わります。

ローラはまだ18歳という若い新米主婦。大量の仕事うんざりして途方に暮れることもありましたが、ローラは懸命に働き、家を支えます。

ローラからは、たった一人で家のことを担う大変さと責任感、それをやり遂げることの誇りが伝わってきて、当時の農家の主婦の生き方と苦労がよく分かります。

 

 

★★★〈苦難続きの四年間〉★★★

結婚してからローラはすっかり料理上手になり、乗馬を覚えます。乗馬やそり・軽馬車のドライブを楽しんだり、自分たちのためにクリスマスプレゼントを買ったり、家畜を増やして利益を出すなど良いこともありましたが、初めの四年間は苦難続きでした。

雹や熱風による作物の損失、ジフテリアによるマンリーの身体の麻痺、生まれて間もない長男の死、家の火事。加えて吹雪や竜巻、大草原の火事などの大自然の驚異はもはや当たり前。

そんな中で一番の、というか唯一明るい兆しの見える希望は、一人娘のローズの誕生でした。

 

 

★★★〈農業一本で生計を立てることの難しさ〉★★★

4年間の農地の収穫は、天候に恵まれず決して良いものではありませんでした。

利益が出なくても、農業には耕作用のすきや荷馬車などの道具類や種の購入費がかかり、さらに家を建てた時の借金もあり、借金とその利息・税金の捻出を、ローラはいつも不安に思っています。

雹や熱風で小麦の収穫が台無しになった時には干し草を売って稼ぎ、どうしてもお金を用意できない時は農地を抵当に入れてお金を借りたり、農地を売ってお金を工面します。

 

農業は結果が出ないと収入がないのに、農業を続けるため、生きていくためにはお金がかかる。そして商人は、農家が苦労して育てた作物に勝手に値段をつけて利益を上げる。農家と町の人を比べると、まったく不公平だ、とローラは言います。

一方マンリーは、農民が一番独立した自由な存在だと思っています。

農民が作物を売らなかったら商品の商売は成り立たない。稼ぎたかったらもっと耕せばよい。農場で懸命に働いて手入れを良くすれば町の人よりもっと稼げる。農民は自分が何をしたいかですべてが決まる、と。

 

2人の言い分はどちらも正しいと思います。

農民の一番の課題は、収穫をあげること。収穫が無ければ、生活していくことも難しく、その収穫量は天候に大きく左右されます。商人など町で働く人達と比べ、天候という自分達ではどうすることもできない問題で結果が出ないリスクが大きい代わりに、うまくいけば大きく稼ぐことが出来る。

農業一本でやっていくことの大きなリスクとリターン、農地を運営していく難しさが物語全体から伝わってきます。

 

 

★★★〈決して希望を失わない開拓者娘ローラ〉★★★

この物語で強調されているのは、ローラの逞しい開拓者精神です。

ローラの祖先と家族は、新しい土地を求め西へ西へと移住を繰り返しました。

一方で農民は、自分たちの蒔いた種が何年も先に収穫をあげることを待ちます。

開拓者も農民も、「先へ進めばいいことがある」と思いながら、大自然の中で精一杯の努力をしている。時が来ればなんでも公平にならされる。農業をやっていくという闘いを前に、開拓娘のローラには勇気がわいてくる。という場面で物語は終わります。

 

どんな困難にぶち当たっても、自分たちの努力がいつか結果を出すことを信じて、自分たちのできることを頑張っていく。これくらいの辛抱強さとガッツがなければ、農民としてやっていくことはできなかったのでしょう。

 

何かを成功させるためには、ローラ達のように試行錯誤しながら前向きに頑張る強さが必要となるのは、今も同じ。のちに農場経営で成功したことを知っているとなおさら、苦難の中でも希望を持って頑張り続けた若い2人の姿が眩しく思えます。

 

 

★★★〈終わりに〉★★★

農家の主婦となったローラ。どんなことがあっても決して諦めず、前向きに頑張る若い新米主婦ローラの物語です。

 

 

★★★〈ガース・ウィリアムズの挿絵がついたシリーズ一覧〉★★★

多くの出版社から刊行されている「インガルス一家の物語」シリーズで、私が一番物語に合ってえると思う挿絵、ガース・ウィリアムズの素朴で写実的な挿絵がついているのは以下のとおりです。

 

1・大きな森の小さな家

2・大草原の小さな家

3・プラム・クリークの土手で

4・シルバー・レイクの岸辺で

5・農場の少年

 

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

ガース・ウィリアムズ:画

恩地三保子:訳

福音館書店

 

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6・長い冬

7・大草原の小さな町

8・この楽しき日々

9・はじめの四年間

 

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

ガース・ウィリアムズ:画

岩波少年文庫

谷口由美子:訳

 

 

★★★〈番外編・ローラのその後を描いた本〉★★★

「わが家への道」

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

ガース・ウィリアムズ:画

谷口由美子:訳

岩波少年文庫

 

 

「ようこそ ローラのキッチンへ ロッキーリッジの暮らしと料理」

ローラ・インガルス・ワイルダー:レシピ

ウィリアム・アンダーソン:文

レスリー・A・ケリー:写真

谷口由美子:訳

求龍堂