「大草原の小さな町」

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

谷口由美子:訳

ガース・ウィリアムズ:画

岩波少年文庫

 

 

1800年代後半の大開拓時代のアメリカ。家族と共に大自然の中で逞しく生きた女性ローラ・インガルス・ワイルダーの自伝的小説「インガルス一家の物語」シリーズの第7巻。

 

大草原に新しくできた町デ・スメットには次々に人が移住し、人口も建物も増えていった。

14歳のローラは、メアリが盲人の大学に行く費用を稼ぐため、教員免許を取得できる16歳になったらすぐに免許を取って働けるよう必死に勉強する。

学校に通いながら、暖かい季節は農地に住んで農業を行い、冬は町の家で過ごし、15歳で教員免許を取得するまでの物語。

 

 

 

 

 

★★★〈自分が読んだ動機〉★★★

子どもの頃に読んだ「大草原の小さな家」を、大人になってからもう一度読みたいと思い、全シリーズを購入しました。

 

 

★★★〈こんな人におすすめ〉★★★

・自給自足の生活を読みたい人。

・1800年代後半のアメリカの暮らしに興味がある人。

・DIY・ハンドメイドが好きな人。

・まだ恋愛関係にはなっていない、恋愛の始まりを描いた物語を読みたい人。

 

 

★★★〈登場人物〉★★★

登場人物(インガルス一家)

ローラ:主人公。活発で行動力のある、インガルス家の次女。

メアリ:長女。

キャリー:三女

グレイス:四女

とうさん(チャールズ)

かあさん(キャロライン)

 

アルマンゾ・ワイルダー:町の近くに農地を持ち、兄ロイヤルと飼料店を営む青年。

 

 

★★★〈あらすじ〉★★★

第1章:思いがけないこと

第2章:農地の春

第3章:ネコがほしい

第4章:幸せなとき                                      

春になり、一家は町から農地小屋へ引っ越した。エン麦やトウモロコシの種をまき、菜園で野菜を作り、牛の世話をする毎日。ボーストさんが鶏のヒナをくれることになり、とうさんはネズミ退治のための子猫を一匹手に入れた。来年になれば豚を買えるかもしれない。

農地での生活は何もかも順調で幸せだった。

そんな時、とうさんはローラに、町で働いてみる気はないか、と聞いた。

 

第5章:町で働く

第6章:野バラの月

第7章:九ドル

ローラは町でシャツを縫う仕事に就いた。シャツの注文が減る時期まで6週間働き、9ドル稼いだ。メアリの大学費用の足しにするため、ローラは賃金を全てかあさんに渡した。

 

第8章:七月四日

ローラはとうさんとキャリーと、独立記念日のお祝いをしている町へ出かける。

 

第9章:ブラックバード

ローラとかあさんは、メアリが大学で着るドレス・下着・帽子を作り、長靴下と長手袋を編んだ。

ある日ブラックバードの大群が畑のエン麦とトウモロコシを食べてしまった。収穫は無くなってしまったが、撃ち落としたブラックバードの肉は今まで食べたどの肉よりもおいしかった。

 

第10章:メアリは大学へ

メアリはアイオワ州の盲人の大学に入学した。とうさんとかあさんはメアリと大学へ向かい、ローラ達は一週間留守番をすることに。

 

第11章:ワイルダー先生

学校が始まった。新しい先生は、ワイルダー兄弟の姉だった。新しく来た生徒の中には、プラム・クリークに住んでいた時に知っていたネリー・オルソンがいた。

 

第12章:冬じたく

冬を過ごすため、一家は農地小屋から町の家へ引っ越す。畑の作物を収穫し、ピクルスやプリザーブを作り、荷物も食料もすべて町の家へ運んだ。町中の人が、前年の冬のように汽車が来なくなっても、一冬もつだけの食料や石炭などを貯蔵していた。

 

第13章:学校生活

第14章:学校から返されて

第15章:学校委員の訪問

ワイルダー先生は生徒が悪さをしても何も怒らなかったため、皆好き勝手にふざけて遊ぶようになり、学校は乱れてしまった。

ネリーは相変わらず、皆を田舎者と馬鹿にして、何かとローラに突っかかった。ワイルダー先生はなぜかローラとキャリーに意地悪だった。ネリーはワイルダー先生と仲が良く、ローラの言葉を捻じ曲げて伝えたせいで、ワイルダー先生はローラが問題児だと思い込んだのだった。

 

第16章:名刺

秋学期が終わり、新しい先生が赴任してきた。仕事をしていた上級生の男生徒も学校にもどってきて、その中にキャップ・ガーランドもいた。ネリーはあからさまにキャップにアプローチしていたが、本当に目をつけているのはアルマンゾ・ワイルダーだと言った。

ローラ達女の子は皆サイン帳を持っていたが、ネリーが言うには東部では名刺が流行しているという。女の子達は皆名刺を注文し、ローラも注文した。

学校が始まる前に出来上がった名刺を受け取り、学校へ急いでいると、馬車に乗ったアルマンゾ・ワイルダーに、学校まで送りましょうか、と声をかけられた。

 

第17章:親睦会

第18章:文芸会

第19章:めくるめく愉快な日々

第20章:誕生日のパーティ

第21章:むこうみず時代

教会の婦人援護会が10セント親睦会を開き、ローラは友人と参加した。

毎週金曜日には文芸会が行われるようになり、スペリング大会、ジェスチャー大会、音楽会、蝋人形ショーなど、町の人たちの大きな楽しみになった。

町の教会も完成し、日曜の礼拝と日曜学校も始まり、大がかりな感謝祭の夕食会も開かれた。

ローラは一緒に学校に通うベンの誕生日パーティーに招待され、パーティがきっかけで男生徒と女生徒は仲良くなった。

 

第22章:四月に思いがけなく

学校が終わった後、一家は町から農地へと引っ越す。教員免許をとるため、ローラはひたすら勉強した。4月、思いがけない猛吹雪が来て、2人の男が亡くなった。

 

第23章:また学校がはじまった

第24章:学習発表会

夏が過ぎ、秋になると学校が再開した。毎週教会での集会や親睦会などの行事があり、町の生活はとても面白かった。

教会で開かれた信仰復興集会の帰り、アルマンゾがローラを家まで送ってくれた。それは一週間続いた集会の間、毎晩続いた。

学習発表会では、ローラは素晴らしい発表をして拍手喝さいを浴びる。その帰り道もアルマンゾはローラを家まで送り、ローラをそりのドライブに誘った。

 

第25章:十二月に思いがけなく

ボーストさんが、教師を探しているブルースターさんという男性を連れてきて、ローラを教師に推薦した。教師になる意志があることをローラが伝えると、群教育長を家に呼んだ。ローラとの受け答えと、昨日の学習発表会の内容から、群教育長はローラに教員の3級免許状を発行した。

 

★★★〈学生ローラの青春物語〉★★★

新しい町デ・スメットは人口が増え続け、新しい家や店が日増しに増え、様々な行事が行われるようになり、一家が暮らす環境は急激に変化していきます。

 

この物語は、14歳のローラの青春物語です。

今までローラは家族単位で行動していて、どこかへ行ったり、誰かと会ったりするのは、いつも家族と一緒でした。

しかし14歳に成長したローラには学校で友人ができ、人口の増えた町では様々な行事が開かれるようになり、ローラは友人とパーティに参加するなど、活動範囲が一気に広がります。サイン帳や名刺の交換といった流行を楽しんだり、男子生徒と女子生徒と一緒にそりや雪投げで遊んだり、いつの時代も変わらない若い娘らしい学校生活を送ります。

青春を謳歌しながら、他人との軋轢も失敗も経験し、将来の目標を定めて懸命に勉強し大人へ近づいていく少女ローラの物語です。

 

 

★★★〈人間関係の悩み。ネリーとの対立〉★★★

交友関係が広がり楽しいことが増えた一方、厄介なことも増えます。

それはプラム・クリークに住んでいた時に知り合ったネリー・オルソンがデ・スメットにやってきたことです。

 

ネリーの性格は変わっておらず、自分の白い肌や東部にいたことを自慢して注目を集めたがり、日焼けした肌の女の子を見下し、人気者の男性に鬱陶しいほど熱心にアプローチするという、高慢なレディに進化してしまっています。

学校や職場にいるよねこんな女性・・・という同性から嫌われるタイプで、ローラとは徹底的にそりが合いません。

 

気の強いローラは強気に言い返すのですが、そのせいでネリーとぶつかり、ネリーがワイルダー先生にローラの悪口を吹き込んだせいで、ローラとキャリーは先生から嫌がらせを受けてあやうく学校に通えなくなってしまうところでした。

ワイルダー先生の性格の悪さも問題ですが、そもそも原因がネリーなので、ローラにとってネリーが一番の厄災といえるでしょう。

 

そんな人間は相手にしないのが一番。熱くなって反発した結果失敗したことで、ローラはまともにネリーの相手をしなくなります。

それでも無抵抗で我慢し続けることはなく、「お行儀のいい優等生」のまま、誰からも咎められない反撃を返すローラは見事です。友人達も皆ローラの味方なのでネリーに反撃して友人達から称賛される場面は実に痛快です。

 

 

★★★〈教師を目指して勉強に励む〉★★★

青春を謳歌する一方でローラは16歳で教員免許を取得するために必死で勉強します。

教師になる目的は、メアリの盲人用の大学の学費を稼ぐため。夢を追うのではなく、稼ぐ手段を得るという現実的な目標を定めて努力するローラは一番の成績を維持し、友人達からも一目置かれる賢いしっかり者です。

 

ネリーとまともに取合う必要は全くないのに、熱くなって反発し失敗することを経験し、その後はネリーを軽く受け流し、時々は冷静に反撃し、自分の勉強もしっかり取り組んで、友人たちと青春を謳歌するローラに成長を感じます。

 

 

★★★〈距離が近づいていくローラとアルマンゾ〉★★★

そしてこの巻から、ローラとアルマンゾの距離が近づいてきます。アルマンゾが積極的にローラにアプローチしてくるのですが、この巻ではローラに恋愛感情は皆無。ローラにとって彼はとうさんの友達で、なぜ自分を家まで送ってくれるのか全く理解していません。

アルマンゾの美しい馬達がひく馬車に乗ってみたいと以前から思っていたものの、興味の対象はあくまで馬の方。そりのドライブに誘われた時も、アルマンゾを狙っているネリーが、ローラが誘われたことを知ったら怒るだろう、と思って喜んでいます。

賢いしっかり者なのに、アルマンゾやとうさん・かあさんの心情を理解しない、まだまだ子どもっぽさが抜けないローラが何だが微笑ましいです。

 

 

★★★〈アメリカの町での暮らしが垣間見える〉★★★

町の様子から当時の暮らしぶりが分かるのも興味深いです。

誰も住んでいなかった土地にできたデ・スメットは人口も増え、立派な町となりました。

礼拝やパーティなど様々な行事が行われるようになり、ローラもそれらに参加します。当初は町で暮らすことに乗り気でなかったローラですが、明るい性格もあって友人たちと過ごすことを心から楽しんでいて、町での暮らしを存分に謳歌しています。

 

物語からは、教会が信仰の場としてだけでなく、様々な催し物を行う交流の場としても機能していたことを知りました。宗教が生活に根付いた生活は日本人には馴染みの薄いものですが、日本と違う様子もまた興味深いです。

自由を愛する精神と信仰心。これがアメリカの原点であると感じました。

 

 

★★★〈裁縫好きにはたまらない、ドレスやファッション小物の手作り〉★★★

料理やDIYなどの描写が少なくなり、町での生活の様子がメインとなる本作ですが、それでも料理やプレゼント、服や帽子を作る描写は健在です。

そしてローラがおしゃれを気にする年頃になり、手作りする布物はドレスや帽子などファッション小物が増えます。

大学に入学したメアリに贈った手作りのクリスマスプレゼントは、「やわらかいふわふわした毛糸で編んだ大きめのスカーフ、一番上等の白い縫い糸で編んだレースの襟、うすいローン地のハンカチ、青いリボンを蝶結びにして白いレースの襟もとにとめられるようにしたもの」。

メアリが大学で着るドレスや肌着も、ローラとかあさんの手作りです。

胸の前にずらりと並ぶボタン、レースやギャザーのついた細い布で飾り、あちこちにステッチをほどこすなど、ドレスづくりや裁縫・編み物の描写は手芸好きにとって創作意欲を駆り立てられる魅力的な場面です。全て手縫いなのが本当にすごいです・・・

 

ガース・ウィリアムズの美しい挿絵からは、当時の髪形や服装がわかります。特にローラをはじめ女性達のドレス姿は美しく、見ているだけで心がときめきます。

できればドレス姿はカラーイラストで見たいな、と思いました。

 

 

★★★〈ガース・ウィリアムズの挿絵がついたシリーズ一覧〉★★★

多くの出版社から刊行されている「インガルス一家の物語」シリーズで、私が一番物語に合ってえると思う挿絵、ガース・ウィリアムズの素朴で写実的な挿絵がついているのは以下のとおりです。

 

1・大きな森の小さな家

2・大草原の小さな家

3・プラム・クリークの土手で

4・シルバー・レイクの岸辺で

5・農場の少年

 

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

ガース・ウィリアムズ:画

福音館書店

恩地三保子:訳

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6・長い冬

7・大草原の小さな町

8・この楽しき日々

9・はじめの四年間

 

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

ガース・ウィリアムズ:画

岩波少年文庫

谷口由美子:訳

 

 

★★★〈番外編・ローラのその後を描いた本〉★★★

「わが家への道」

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

ガース・ウィリアムズ:画

谷口由美子:訳

岩波少年文庫

 

 

「ようこそ ローラのキッチンへ ロッキーリッジの暮らしと料理」

ローラ・インガルス・ワイルダー:レシピ

ウィリアム・アンダーソン:文

レスリー・A・ケリー:写真

谷口由美子:訳

求龍堂