「大草原の小さな家」

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

恩地三保子:訳

ガース・ウィリアムズ:画

福音館書店

 

 

1800年代後半の大開拓時代のアメリカ。家族と共に大自然の中で逞しく生きた女性ローラ・インガルス・ワイルダーの自伝的小説「インガルス一家の物語」シリーズの第2巻。

 

新しい土地を求め、インガルス一家はウィスコンシン州の大きな森から西部の大草原へ旅立ちます。一家は幌馬車で何日も走り続けいくつもの州を越え、辿り着いた大草原に丸太小屋を建てて暮らし始める。

一軒の家も見えない見渡す限りの大草原には、インガルス一家のような開拓者が何人か住んでいて、一緒に井戸を掘ったりクリスマスディナーに招くなど交流するようになる。

 

しかし大草原はインディアンの土地だった。開拓者の為に開放されるときいて移住した一家でしたが、移住から一年後、政府はインディアン・テリトリイから白人移住者は立ち退かせることを決める。インガルス一家は再び幌馬車に乗り、新しい土地を求めて大草原を後にする。

 

ローラ6歳から7歳まで、アメリカ西部のインディアン・テリトリイの大草原での生活を描いた物語。

 

 

 

 

 

★★★〈自分が読んだ動機〉★★★

子どもの頃に読んだ「大草原の小さな家」を、大人になってからもう一度読みたいと思い、全シリーズを購入しました。

 

 

★★★〈こんな人におすすめ〉★★★

・自給自足の生活を読みたい人。

・1800年代後半のアメリカの暮らしに興味がある人。

・何もないところに家を建て、暮らしを作り上げる様子を読みたい人。

・DIY・ハンドメイドが好きな人。

 

 

★★★〈登場人物〉★★★

ローラ:主人公。活発で行動力のある、インガルス家の次女。

メアリー:長女。

キャリー:三女

とうさん(チャールズ)

かあさん(キャロライン)

ジャック:賢いブルドッグ

 

 

 

★★★〈あらすじ〉★★★

第1章:西部への旅

新しい土地を求めて大きな森を後にした一家。凍った湖を渡り、いくつもの州を越える長い長い旅の始まり。

 

第2章:クリークをわたる

幌馬車でクリークを渡ることに。しかし予想より水かさが多く、とうさんが水に入って馬を引っ張り、かあさんが手綱を取ることでようやく渡りきることができたが、ジャックが流されて行方不明になってしまう。

 

第3章:大草原高地でのキャンプ

大草原の地面に火を起こし、コーヒーを淹れ、ひきわりトウモロコシのパンと塩漬けの豚肉を焼いた夕食のあと、行方不明になっていたジャックが一家の元に辿り着く。

 

第4章:大草原の一日

朝食後。とうさんは大草原の探索へ。かあさんは洗濯とアイロンがけ。ローラとメアリーも探検に出かける。

 

第5章:大草原の家

とうさんがたくさんの丸太を切り出し、かあさんと丸太小屋を作り始めるが、かあさんの足の上に丸太が落ちて怪我をしてしまう。

その後近くにエドワーズさんという男の人が住んでいることが分かり、エドワーズさんが家づくりを手伝ってくれることになった。

エドワーズさんを招いた夕食に、かあさんは特別上等なごちそうを作る。

 

第6章:引越し

出来上がった丸太小屋。屋根も床もドアも、ベッド・テーブルもまだ無いけれど、頑丈な壁の中へ引っ越し。

 

第7章:オオカミの群れ

第8章:二枚のじょうぶな扉

馬に乗って大草原の様子を見にでかけたとうさんは、大草原のあちこちで住み着き始めた開拓者と出会う。その帰り道、とうさんは大型のオオカミの群れに出遭う。

とうさんは無事に家に帰ってきたが、その晩家の周りはオオカミに囲まれてしまう。

 

オオカミや馬泥棒がきても大丈夫なよう、とうさんは家と家畜小屋に頑丈な扉を作る。

 

第9章:炉に火が入る

第10章:屋根と床

とうさんが暖炉と煙突を作り、料理も食事も家の中でできるようになった。さらにとうさんは丸太を何本も運び、家の屋根と床を作った。

 

第11章:インディアンが家にはいってきた

とうさんが狩りに出かけているとき、2人のインディアンが家に来た。ローラが初めて見るインディアンは、パンを食べてとうさんの煙草を持って行った。

とうさんは、インディアンとは絶対に争いごとをしないこと、と言った。

 

第12章:新鮮な飲み水

とうさんがベッドを作り、かあさんは草原の枯れ草でわらぶとん作り。

そしてとうさんは隣人のスコットさんと井戸を掘る。

 

第13章:テキサスの長角牛

家の近くに牛の群れを連れたカウボーイ達が来た。とうさんは牛を追うのを手伝い、お礼に牛肉と牝牛と子牛を手に入れる。

 

第14章:インディアンのキャンプ

とうさんに連れて行ってもらったインディアンのキャンプ跡地で、ローラとメアリーはきれいなかざり玉を拾う。

 

第15章:おこり熱

ローラはかあさんと毎日クリーク床でブラックベリー摘み。

ある日、家族全員がおこり熱にかかる。通りがかった医者ドクター・タンとスコットおばさんの手当で一家は無事回復する。

本調子ではないとうさんは、かあさんのゆり椅子を作る。

 

第16章:煙突の火事

煙突の上の方が燃えてしまい、かあさんとローラが火を消し止める。

 

第17章:とうさん町へいく

冬が来る前に必要なものを買いに、とうさんは40マイル離れた町インディペンダンスへ。

 

第18章:背の高いインディアン

背の高いインディアンがやってきて、とうさんと一緒に食事をする。

 

第19章:エドワーズさん、サンタクロースに出会う

クリスマスディナーに招待したエドワーズさんが、家に来る途中サンタクロースに会い、メアリーとローラへのプレゼントを預かってきてくれた。

 

第20章:夜中の悲鳴

ある晩、夜中に鋭い悲鳴が聞こえた。それは悲鳴ではなく、ヒョウの鳴き声だった。

 

第21章:インディアンの大宴会

大勢のインディアンが集まって、拍子を取って声を上げているのが聞こえた。とうさんは、インディアンが宴会みたいなものをやっている、と言った。

 

第22章:大草原の火事

大草原の火事が起きた。とうさんとかあさんは家の周りに溝を掘って迎え火を放ち、火事から家を守り抜く。

 

第23章:インディアンのときの声

家の近くにインディアンが増え、夜には太鼓が鳴り響き猛々しい叫び声が聞こえる。

とうさんは話の通じるインディアンから、オーセイジ族以外のインディアンの全部族が、白人の移住者を殺すことに決めたが、オーセイジ族がそれをやめさせたと聞いた。「偉大な勇者」の意味の名前を持つオーセイジ族の酋長が、他の部族を説得してまわったのだという。

 

第24章:インディアンの行列

大勢のインディアンが、家のそばを通って西へと移動していった。長い長い行列の先頭はオーセイジ族の酋長。一家は家の戸口に立って行列を見送った。

 

第25章:わるいしらせ

政府がインディアン・テリトリイの境界線を越えた移住者を追い出すことを決めたという。

インガルス一家やエドワーズさん、スコットさんも、この土地を出て行くことになった。

 

第26章:大草原をあとに

再び幌馬車に荷物を積み、新しい土地を探して大草原の小さな家を後にする。

 

 

★★★〈ゼロから作り上げていく大草原の生活〉★★★

本作の一番の見所はなんといっても、ゼロから生活を作り上げていくことです。

何もない大草原に丸太小屋を建て、井戸・暖炉・ベッド・テーブル等の家具と何でも作ってしまうとうさんと、不便なキャンプ生活でも見事に家事をこなすかあさん。重労働に違いありませんが、家族全員がとうさんとかあさんに全幅の信頼を寄せていて、大きな森で暮らしていた時と変わらない幸せな生活を築き上げます。

 

どんな困難なことがあっても、強靭な精神力と行動力で乗り越えていく、笑顔の絶えないインガルス一家は、本当に理想的な家族の姿だと思います。

 

 

★★★〈前作より質素な、大草原での食事〉★★★

シリーズの魅力である食事についてですが、大草原の食事は「大きな森の小さな家」とは様変わりします。ひきわりトウモロコシのパンと野生動物の肉がメインで、あとは店で買った豚肉の塩漬けや糖みつ、野生の果樹などです。

 

特別な食事も、例えばエドワーズさんを招いた特別上等の夕食は、

「小麦粉のむしだんご、たっぷり肉汁をそえたウサギ肉のシチュー、ベーコンの脂で香りをつけたトウモロコシパンと糖みつ」。

クリスマスディナーは、

「ウサギのシチュー、ひきわりトウモロコシのマッシュ、七面鳥のロースト、焼いたサツマイモ、小麦粉で作った塩でふくらませたパン、干しブラックベリーの煮たの、小さなお菓子」。

 

移住したばかりで畑の作物もなかったために食材の種類が少なく、現代の食事と比べるととても質素なものですが、それでもとてもおいしそうなメニューです。

家族や隣人と食卓を囲む場面はいつも幸せに満ちていて、贅沢なものがなくても贅沢はできるのだなと思います。

 

 

★★★〈何もなくても生き生きとした大草原での暮らし〉★★★

大自然の中で、何もかも自分たちで作り上げて暮らすことは現代人には到底真似できません。しかし大草原を生き生きと駆け回る姿を見ると、テレビもスマホも高い建物も車もない、見渡す限りの大草原で、太陽と風を肌で感じて生きることには強い憧れを感じてしまいます。

貧しくとも幸せに生きるインガルス一家を見ると、生きていくのに必要なものは、実はそれほど多くないのでは、と思ってしまうのです。

 

家族で力を合わせて働き、居心地のいい家庭を築き、隣人とも助け合って生きていくこと。食卓を囲んでおいしい食事をとること。

人間が生きていくうえで一番大事なことが、大草原での生活に詰まっています。

 

 

★★★〈インディアンの迫害の歴史〉★★★

しかし美談だけで済まないのが「大草原の小さな家」です。本作には、白人に侵略・迫害され続けた民族、インディアンが多く登場します。

 

2018年、差別表現が含まれているという理由で、児童文学賞で「ローラ・インガルス・ワイルダー賞」から名前が外され、「児童文学遺産賞」と名称が変更されたそうです。

 

確かに、かあさんはや隣人達はインディアンが嫌いで、露骨に態度に表します。

隣人のスコットおばさんは「条約がどうあろうと、土地はそれを耕す者たちのものですよ。それが常識っていうもので、正しいさばきでしょうが」(259ページ)と狩猟民族の生き方を否定して自分たちの価値観を押し付ける侵略者の理論を展開します。

そして蔑むと同時に恐れてもいました。白人に抵抗して戦ったインディアン達がいたからです。

 

一方でとうさんはインディアンに対して友好的で、良好な関係を築こうとします。

しかし友好的であってもとうさんは、政府がインディアンを立ち退かせた土地を手に入れようとしました。それを白人入植者の当然の権利だと思っていたのか、インディアンに対し負い目を感じていたかは分かりませんが、自分の利益のために時代の流れに乗ってインディアンの土地を奪ったともいえるでしょう。

 

しかし「大虐殺」という言葉も歴史も知らない幼いローラは、インディアンを怖がることはあっても野蛮人扱いはしません。インディアンの女の子のように、服を着ずに思い切り太陽と風を肌に浴びて子馬に乗ってみたいと思い、インディアンの酋長を「誇り高い、静かな顔」をしていると思うローラには、差別感情は見当たらず、「自分たちと人種・文化の違う人達」という認識です。何も知らない故に先入観を持たない、中立な立場であるといえます。

 

本作には確かにインディアンに対する差別的な表現がありますが、当時はそれが「普通の感覚」だったのでしょう。差別を助長・正当化するのではなく、あくまで当時の様子をありのままに描いただけという印象です。

自分の土地を持つという夢をもって懸命に生きた開拓民の物語の裏側で、土地を奪われた民族がいたという事実。良い面も悪い面も、どちらもアメリカの歴史です。本書のあとがきにはインディアンの歴史についての解説があり、物語では語られなかった悲惨で血生臭い歴史が綴られています。

 

アメリカの後ろ暗い歴史を突き付ける本作は、人種差別に向き合うことを否応なく考えさせられる、シリーズの中でも最も暗い影のある物語だと思います。

 

 

★★★〈ガース・ウィリアムズの挿絵がついたシリーズ一覧〉★★★

多くの出版社から刊行されている「インガルス一家の物語」シリーズで、私が一番物語に合っていると思う挿絵、ガース・ウィリアムズの素朴で写実的な挿絵がついているのは以下のとおりです。

 

1・大きな森の小さな家

2・大草原の小さな家

3・プラム・クリークの土手で

4・シルバー・レイクの岸辺で

5・農場の少年

 

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

ガース・ウィリアムズ:画

福音館書店

恩地三保子:訳

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6・長い冬

7・大草原の小さな町

8・この楽しき日々

9・はじめの四年間

 

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

ガース・ウィリアムズ:画

岩波少年文庫

谷口由美子:訳

 

 

★★★〈番外編・ローラのその後を描いた本〉★★★

「わが家への道」

ローラ・インガルス・ワイルダー:作

ガース・ウィリアムズ:画

谷口由美子:訳

岩波少年文庫

 

 

「ようこそ ローラのキッチンへ ロッキーリッジの暮らしと料理」

ローラ・インガルス・ワイルダー:レシピ

ウィリアム・アンダーソン:文

レスリー・A・ケリー:写真

谷口由美子:訳

求龍堂