「おこりじぞう」

山口勇子・原作

沼田曜一・語り文

四国五郎・絵

金の星社

 

 

「この世の中でなにがこわいといって、核兵器ほどこわいものはない。男女老人子どもの別なく巨大な電子レンジの中に入れられたように、生きながらに焼き殺される。かろうじて逃れた人も頭髪は抜け落ち歯ぐきから血を流して、やがて死ぬ。(略)これほどこわいことがあろうか。」

(あとがきより)

 

 

 

 

 

★★★〈自分が読んだ動機〉★★★

通っていた小学校に置いてあった絵本です。ふと思い出し、もう一度読んでみたいと思いネットで探しました。

 

 

★★★〈こんな人におすすめ〉★★★

・原爆の惨劇を描いた本を読みたい人。

・原爆とは何か、を子どもに伝えたいと思う人。

 

 

★★★〈あらすじ〉★★★

広島のある横丁に、小さなお地蔵さんがたっていました。お地蔵さんは笑った顔をしていたので、皆から「わらいじぞう」と呼ばれていました。

 

1945年8月6日。真夏の日差しの中、お地蔵さんはいつもと同じように笑って立っていましたが、突然敵の飛行機が現れ、広島の町に原爆を投げつけました。

 

町の全ては吹き飛ばされ、熱い炎に包まれました。

 

お地蔵さんも爆風に吹き飛ばされて熱い砂に埋もれてしまい、笑った顔だけが砂の上にのぞいていました。お地蔵さんの横を、焼けただれた人たちが逃げていきました。

 

焼けただれた幼い女の子がゆらゆらと歩いてきて、お地蔵さんの前で倒れました

うつろな目で、お地蔵さんに「みずがのみたい」と何度も繰り返しました。

しかし焼けた町に水などなく、女の子の声は段々と弱弱しくなっていきました。

 

すると笑っていたお地蔵さんの顔が少しずつ変わり始めました

 

口が真一文字に結ばれ、目は開き、何もかもを睨みつける仁王の顔に変わりました。

そして怒ったお地蔵さんの目から涙が溢れました。

 

 

★★★〈原爆の恐ろしさを伝える絵の力〉★★★

晴れ渡った空の中で原爆を落としたアメリカ軍の飛行機、叫びのたうち回る人、焼けただれて幽霊のようによたよた歩く人、地蔵の前に倒れ込む女の子、怒りの表情に変わったお地蔵さんの顔。

読んだのは20年以上も前なのに、本のタイトルも内容も絵も、はっきりと覚えていました。

 

これほど鮮明に覚えていたのは、内容もさることながら、絵の力が大きいと思います。

 

子どもの頃は、変わり果てた人間の姿が怖いと思った記憶があります。実際大人になった今読み返しても、恐ろしさにぞっとしてしまう絵です。

 

ですが「怖い」だけでなく、子どもながらに何か心に引っかかるものがあったのでしょう。

 

子どもの時には分からなかったけど、年を重ねることで分かるようになる「何か」。

今ならもっと深く考えることができる。そんな年齢になって記憶の底からこの本に呼ばれたのではないか。そんな気がします。

 

 

★★★〈画家について〉★★★

絵を担当された画家の四国五郎さんは広島出身の画家・詩人で、戦争・シベリア抑留・弟の被爆死を経験し、戦争への怒りを絵と詩で訴え続けてこられた方です。

 

本書のあとがき、画家の四国五郎さんの言葉から作品への想いが伝わってきます。

 

「子どもたちに、こわがらないで最後まで見てもらえて、しかもこのうえなくこわい絵本を描くことはむずかしい。こわいものなど書きたくはないのだが、こわいものを地上から無くすためには書かねばならない。」(あとがきより)

 

仁王のようにすべてを睨みつける怒りの表情に変わり、涙を流した「おこりじぞう」。

町を地獄に変えた原爆への怒りと憎しみ。地獄へ落とされた人々の嘆きとやるせなさ。そういった思いが炎のように噴き出しているような、凄みのある絵です。

 

 

★★★〈原爆とはなにか、を伝え続ける絵本〉★★★

戦争とは何か。原爆とは何か。かつて日本で何が起こったのか。

過去を知ることで、悲惨な未来を回避することができるかもしれない。

過去を知らなければまた同じことを繰り返すかもしれない。「歴史は繰り返す」とはよく耳にする言葉です。

 

私の持っている「おこりじぞう」は、「初版:1979年、第74刷発行:2017年」となっており、ロングセラーと言って良いでしょう。

 

私がそうだったように、原爆とは何なのか、歴史を知るきっかけ、知りたいと思うきっかけになり得る絵本です。

子どもにも大人にも読んでほしい、そして時代が変わってもずっと読み継がれてほしい、と願う本です。