「ZOO1」・「ZOO2」

乙一

集英社文庫

 

 

ミステリー・ホラー・切ない人間ドラマ・コメディ等、乙一のあらゆる魅力が凝縮された短編集。

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★〈自分が読んだ動機〉★★★

乙一さんの作品が好きで手に取った本です。

 

 

★★★〈こんな人におすすめ〉★★★

・乙一さんの作品が好きな人。

・同じ作家が書く、様々なジャンルの物語を読みたい人。

・悲しみ・孤独・恐怖といった、暗さのある物語を読みたい人。

・乙一さんの作品を読んでみたいと思っている人。乙一作品の最初の一冊として最適です。

 

 

★★★〈あらすじ〉★★★

ZOO1:「カザリとヨーコ」 

中学2年の私とカザリは一卵性の双子だ。だけどママが可愛がるのはカザリだけ。ママは私の食事を作らないし、何かと難癖をつけて折檻してくる。カザリは誰からも愛される明るい性格で、私に食べ残しの食事をくれる天使のような存在だ。

ある日迷い犬を家に連れて行ったことがきっかけで、飼い主のスズキさんというおばあちゃんと仲良くなり、スズキさんの家に通うようになった。

初めて心を許せる人ができたと思っていた矢先、カザリがママのノートパソコンに誤って花瓶の水をぶちまけてしまう事件が起きる。

 

 

ZOO1:「SEVEN ROOMS」 

僕と姉が目を覚ますと、見知らぬ部屋にいた。

コンクリート壁の狭い部屋で、部屋の真ん中には溝があり、汚水が流れている。鉄製の扉は鍵がかかって開かない。毎日扉の下の隙間から、誰かが水と食パンを差し込んでくる。

ここはどこなのか、僕たちは何のために閉じ込められているのか、どうすれば脱出できるのか。体の小さい僕は、溝の中を潜って部屋の外がどうなっているのか確かめに行くことにする。

 

 

ZOO1:「SO-far そ・ふぁー」 

僕が幼稚園の時の話だ。父と母とアパートで暮らしていたある日、父には母の姿が、母には父の姿が見えなくなった。姿だけではなく声も聞こえない。けど僕には2人の姿が見えるし、声も聞こえる。

父は母が死んだと言った。母は父が死んだと言った。父と母のどちらかが死んでしまい、だから2人はお互いの姿が見えなくなったのだった。

 

 

ZOO1:「陽だまりの詩」 

目を覚ますと、部屋の中には私を作った男性がいた。

この世界は病原菌によってほとんどの人間が死に絶えていた。彼は叔父と共に山の中にあるこの別荘に引っ越してきたが、叔父は病原菌に感染して死に、それからずっと一人で暮らしてきたという。しかし彼も感染していることが分かり、自分の世話と、自分の死体を叔父の墓の横に埋葬するために私を作ったのだった。

山の中の家で、私と彼との生活が始まった。

 

 

ZOO1:「ZOO」 

彼女はある日姿を消した。そして俺のアパートの郵便受けに毎日、段々と腐敗していく彼女の死体の写真が投函されるようになった。

彼女を殺した犯人を必ず見つけだすことを決心した俺は会社を辞め、一人で犯人を捜し始める。

しかしそれは全て演技だった。恋人を殺されて一人で犯人を捜し続ける悲劇の主人公を演じているだけだ。彼女を殺したのは俺なのだから。

 

 

ZOO2:「血液を探せ!」 

2人目の妻・最初の妻との間にできた息子達・主治医と共に別荘に来ていたワシ(64歳)が朝目覚めると、右脇腹に包丁が刺さっていた。

主治医(95歳)が輸血用の血液を持ってきていたはずだったが、耄碌しかけたジジイは血液の入った鞄をどこかに忘れてきてしまっていた。

出血多量で段々と死が近づいてくる中で、皆は鞄を探し始める。血液はどこに行ったのか、そして誰がどうやってワシを刺したのだろうか。

 

 

ZOO2:「冷たい森の白い家」 

伯父と伯母の畑にある馬小屋に住んで、馬糞の処理をしていた。

やがて畑は他人に売り払われ、馬小屋の隅で存在を忘れ去られた。馬小屋に隠れて生きていたが、叔母に見つかり追い出された。

何年も森を歩き続け、森の中に家を建てようと思った。人を殺して死体を集め、死体の服を脱がせて積み上げて家を作った。死体の体は白く、白い家が出来上がった。

 

 

ZOO2:「Closet」 

ミキは夫イチロウの実家に来ていた。家にいるのは夫の両親・弟・妹。

実家についてすぐ、ミキは義理の弟リュウジの部屋へ行った。リュウジは、ミキが友人と車に乗っていた時に中学生の女の子をひき逃げした過去を偶然知った、とミキに告げる。

三分後。

頭を殴られて死んだリュウジの遺体の前で、ミキの手から血の付いた重い灰座が滑り落ちた。ミキはリュウジの死体を、部屋のクローゼットの中に隠した。

姿を見せないリュウジを皆訝しんだ。リュウジの妹フミコはミキを疑い始める。

 

 

ZOO2:「神の言葉」 

僕の声には力があった。力を込めて「枯れろ」と言えば朝顔は枯れた。「服従しろ」と言えば吠えていた犬は従順になった。「指よ、外れろ」と言えば指はポロポロと落ちた。

しかしその力のことは誰も知らない。

周囲の人間から見た僕は、「愛想のいい」「さわやかで明るい好青年」だ。

しかし本当の僕は、嫌われたくない、周りから良く思われたい一心で、愛想笑いを貼り付け期待される人物を演じているだけだ。実際僕の内面は暗く、嫌われることを恐れる小心者だ。

弟だけはそれに気づいて、僕に軽蔑の眼差しを向けてくる。

嫌われるのも見下されるのも軽蔑されることも苦痛だった。その苦痛から逃れたい、誰もいない世界に行きたいと思った。

ある日、気づくと勉強机に、彫刻刀で堀られた一本の傷があった。自分で掘った記憶はない。

日を追うごとに机の傷は増えていく。しかし自分で掘った記憶は全く残っていない。

そして勉強机からは腐臭が漂っていた。

 

 

ZOO2:「落ちる飛行機の中で」 

高校生の頃に私を酷い目に合わせた男の居場所が分かり、復讐のため飛び乗った飛行機が男にハイジャックされた。T大学へ飛行機を突っ込ませ、乗客を道連れに死のうとしている男だった。

隣の席のセールスマンに、墜落死は苦しいだろうからと安楽死の薬を買わないかとも持ち掛けられる。安楽死の薬を買うか、墜落しない未来に賭けるか、私は悩む。

 

 

ZOO2:「むかし夕日の公園で」 

小学生の時、公園の砂場はどれくらい深いのか、手を突っ込んでみた。肩まで砂に入れても砂場の底に手は届かなかった。

そんな遊びを何回も繰り返していたある時、指先に何か当たる感触がした。

 

 

★★★〈あらゆるジャンルを網羅した短編集〉★★★

本書は帯に「ジャンル分け不能」と書かれているとおり、収録されている作品はミステリー・ホラー・コメディ・SF・切ない人間ドラマ・ジャンルは何なの?といった作品まで、実に多様です。

コメディ物語には、騒がしい場面で冷静にツッコミを入れる面白さがあり、ホラーなど暗い物語には、どこかゾクッとする静かな怖さ・不気味さがあります。

 

 

★★★〈透明感のある美しい文章〉★★★

文章が一番好きな作家は誰か、と聞かれると、私は迷いなく乙一さんと答えます。

透明な水が静かに流れていくような冷静な語り口で、殺人や死体、いじめや暴力など残酷でおどろおどろしい場面でも、乙一さんが書くとさらさらと流れていく。

難しい言葉を使わず簡潔でとても分かりやすい、それでいて繊細な、透明感のある美しい文章の作家さんです。

様々なジャンルの物語が収められた本作では、怖いものからクスっと笑ってしまうものまで、乙一さんの文章のあらゆる魅力を堪能できます。

 

 

★★★〈一番のおすすめは「SEVEN ROOMS」〉★★★

中でも私が一番好きな物語は、「SEVEN ROOMS」です。

何者かによって部屋に閉じ込められた少年と姉が、何とか脱出しようと模索します。ひときわ存在感が際立っているのが、主人公の姉です。

状況が分からない中で死が迫ってくる恐怖の中、姉は冷静に状況を把握し、自分たちを閉じ込めた人間と戦う決意をします。非力な子ども故に彼女が選んだ戦い方は、ハッピーエンドでもバッドエンドでもない、戦慄と切なさを残す結末を迎えます。彼女の覚悟の強さと優しさを感じる「SEVEN ROOMS」は、ぜひ読んでほしい物語です。

 

 

★★★〈孤独な人間の感情描写が見事〉★★★

本作に限らず、乙一さんの作品には孤独感を抱えた人物が多く登場します。

寂しさ・悲しさ・他者への恐怖などの感情の描写がとてもリアルで繊細で、言葉で表現しづらい感情をさらりと描写してみせる。それも乙一さんの魅力だと思います。

 

 

★★★〈終わりに〉★★★

あらゆるジャンルを網羅した本作は、「こういう作品です」と短く紹介することが難しいです。

乙一さんが好きな人はもちろん、乙一さんの作品を読んだことのない人にすすめる最初の一冊としても最適だと思います。