「キャリー」

スティーヴン・キング・著

永井淳・訳

新潮文庫

 

 

スクールカースト最底辺、いじめられっ子の少女が引き起こした惨劇。

 

 

 

 

 

 

★★★〈自分が読んだ動機〉★★★

You Tubeで映画の予告編を見て、面白そうだと思って原作を読みました。

 

 

★★★〈こんな人におすすめ〉★★★

・超能力を持った主人公の物語が好きな人。

・いじめられっ子の女の子が主人公の話を読みたい人。

・破壊と殺戮が繰り広げられる惨劇を読みたい人。

 

 

★★★〈あらすじ〉★★★

アメリカのチェンバレンのハイスクールに通うキャリーは、幼いころからいじめられっ子だった。学校では常にいじめの標的にされて、友達もいない。

 

キャリーと一緒に暮らす母親は狂信的なキリスト教徒で、シャワーを浴びることもキャンプに参加することも、派手な服を着ることも性行為も「罪深いこと」だから禁止。キャリーが初潮を迎えたことも、彼女が罪を犯して血の呪いが訪れた、と主張する母は、他人から見れば「信心きちがい」の「変わり者」で、彼女がキャリーに自分の価値観を押し付ける様はただの虐待だった。

しかし母親と暮らす以上逃れることができず、キャリーもまた「変わり者」と扱われ、幼いころから常にいじめの標的にされていた。

 

この状況をなんとかして変えたい、普通の女の子になりたい、でもどうすればよいのかわからない。鬱々とした気持ちで生活する中で、キャリーの記憶が蘇り、自分が念力をもっていることを思い出す。

 

卒業が近づいたある日、キャリーを虐めたことを後悔したスーは恋人のトミーに、プロム(ハイスクール卒業の年に開かれるダンスパーティー)にキャリーを誘うよう頼む。

 

スーは根っからのいじめっ子ではなく、その場のノリでキャリーを虐めてしまったことを後悔していたので、贖罪の気持ちと、キャリーが自分の殻を割って外にでられることを期待して、恋人のトミーにキャリーを誘うよう頼んだのだった。

 

トミーもまたキャリーに対する悪意は全く持っておらず、キャリーに対してとても優しい青年だった。

ハンサムで勉強もスポーツも優秀なトミーからプロムに誘われたキャリーは心をときめかせ、得意の裁縫の腕を振るい美しいドレスを縫い上げる。

母親の反対を押し切ってプロムに参加したキャリーは美しく、トミーは彼女を素敵だと思う。

 

一方、キャリーを虐めたことでプロムへの参加を禁止されたクリスは、彼女への報復のためプロムの会場に罠を仕掛けていた。

プロム当日、クリスの仕掛けた罠がキャリーに直撃したとき、抑圧され続けた彼女の心はとうとう爆発する。キャリーは念力を使って無差別に暴れ始め、チェンバレンの街は火の海と化す。

 

 

★★★〈ハイスクールの少年少女の、細やかな心理描写〉★★★

ジャンルはホラーに分類されるかもしれませんが、キャリーをはじめ登場するハイスクールの生徒達の心理描写がとても細やかです。

プロムの惨劇までを描いた前半が青春物語、後半がホラーといったところです。

 

 

★★★〈普通の女の子になりたかった、いじめられっ子の女の子〉★★★

キャリーは何とかして自分と、自分の置かれている状況を変えたいと思っていました。

変わり者と言われたくない、髪をきれいに整えておしゃれをして、みんなと同じ「普通の女の子」になりたい・・・

 

そのチャンスが訪れたのが、トミーからプロムに誘われたことです。

ドレスアップしたキャリーは普段の姿からは信じられない程美しく変身していて、トミーもまた彼女に好感を抱き、もしかするとプロムをきっかけに2人は恋人になっていたかもしれません。緊張しながらもプロムで輝くキャリーは、物語の前半の青春物語のハイライトだと思います。

 

しかしキャリーには何の救いもありませんでした。

クリスがプロム会場に仕掛けた罠、おそらく今までのいじめの中で一番ひどいものがキャリーを襲った時、とうとう彼女の精神のバランスが崩壊します。

 

自分を変えたいと思うこと、そしてそれができるかもしれないという期待が粉々に砕かれた時の気持ちは、覚えのある人も多いと思います。

そういったキャリーの心理がうまく描かれており、読み進めていくうちにどんどんキャリーに感情移入していきました。

 

 

★★★〈念力で破壊の限りを尽くすキャリー〉★★★

キャリーが普通の女の子と違っていたのは、念力を持っていたこと。

結局何も変わることができなかったという絶望とトミーを巻き込んでしまった後悔で、完全に精神のタガが外れた彼女は念力を滅茶苦茶に駆使し、学校も町も人も手当たり次第に破壊します。

前半部分とは打って変わり、とにかく人が死んでいく破壊と殺戮の描写は圧巻です。

 

衝動のまま暴れ狂うキャリーはまさにモンスターですが、彼女がモンスターとなってしまった原因は、周囲からのいじめや母親の圧力です。

環境が違えばキャリーもごく普通の女の子で、念力を持っていることを隠したまま、もしかすると念力を持っていることに気づかないまま、普通の生活の中で幸せを手にすることができたかもしれません。

ただ「普通の女の子になりたかった」だけなのに、自分の力だけではどうすることもできない理由で追い詰められ、報われないまま終わったキャリーはただ哀れに思えてしまいます。

 

 

★★★〈終わりに〉★★★

10代の若者特有の青い感情、それらがもたらした惨劇を描いた本書は、いじめられっ子キャリーの復讐劇と言えますが、読み終わった後に救いのないもの悲しさが残ります。

ただ恐ろしいだけではない、切なさのあるホラー小説です。