日本では多くの野生の植物は一年のうち特定の季節に開花、結実します。

温帯では植物は日長と気温の変化から、季節の移り変わりを感知してしていることが解明されています。

 

春に咲く花の多くは、冬の低温と春になって日長が伸びることが引き金となっており,夏から秋にかけて咲く花の多くは,短日が引き金となっています。


桜川市観光協会より

 

熱帯のフィリピンでは日長の年変化は1ー2時間(日本は5時間)、平均気温の年変化も4−5度(日本は20度)で、変化というほど大きくはありません。

 

熱帯の植物は何を感知して開花、結実しているのでしょうか?


フィリピンの熱帯雨林:Explore Travellerより

 

British Ecological SocietyのJournal of Ecology(2004年1月)に掲載された論文によると、フィリピンの亜山地熱帯雨林(ネグロス島の北部森林保護区)の5,800本の樹木について、4年間にわたって開花と結実の観察を行い、熱帯の樹木の季節学的な特性を次の項目について統計的に明らかにしています。

 

1、開花と結実の季節学的パターン

2、開花と結実の時期と期間の顕著なパターン

3、開花と結実の時期と期間の原因となる気候要因


Northern Negros National Park:Google Mapより


Northern Negros National Park:Google Mapより

 

1、開花と結実の季節学的パターン

規則的な季節学的パターンに分類される種が65%、不規則・連続繁殖する種が35%であった。

 

観察地では日長の年変化は1時間、平均気温の年変化は4度で、乾季にも雨季の40%程度の月平均降水量があるため、不規則・連続繁殖も可能であると推察されている。

 

(1)1年生:34種(60%)

(2)超1年生:3種(5%)

(3)不規則繁殖:7種(12%)

(4)連続繁殖:13種(23%)


熱帯雨林:Britannicaより

 

2、開花と結実の時期と期間の顕著なパターン

全ての種を横断的に考察すると、開花と結実の時期と期間に次のような顕著なパターンがあることが判明した。

 

(1)多くの種に定期的な開花と結実の年間パターンがあり、開花から果実が熟成するまでの期間は 3 か月であった。

 

(2)年の前半に開花した種が後半よりは多く、その中でも2月と 5月に開花した種が最多であった。

 

(3)果実の熟成時期は、2月と 3月、および 8月と 9月に 2回の顕著な凝集が見られた。

 

(4)開花日から果実が熟成するまでの期間は、12月から4月に開花する種は約1ヶ月と短く、 5月から6月に開花する種は約3か月かかり、9月頃にピークを迎えた。

 

開花と結実の日付と期間

註)a:一年生、s:超一年生、 i:不規則繁殖、 c:連続繁殖

     外円周上の大文字:月、同心円:イベントの期間を月単位で表す

 

3、開花と結実の時期と期間の原因となる気候要因

観察地の熱帯雨林では乾季と雨季、4月と9月に最大となる日射量、台風シーズンなどが開花と結実の時期と期間の原因となる気候要因となっていると判断された。

 

(1)開花した種が最多であった2月と5月は乾季の初めと終わりである。

 

(2)果実の熟成時期の顕著な凝集が見られる2月と3月は乾季、8月と9月は日射量が最大となる月である。

 

(3)2月と3月に果実が熟成すれば、雨季になって発芽した苗木に最初の乾季を生き抜くために必要な根系を発達させる最大限の時間が与えられる。

 

(4)液果を付ける樹種は日射量が最大となる4月の初めに開花し終わりに果実が熟成するか、4月中に開花し同じく日射量が最大となる9月に果実が熟成する。

 

(5)風散布と重力散布樹種の種子の落下時期は、台風シーズン(7月ー11月)と一致している。

 

(6)観察期間中に発生したエルニーニョ・ラニーニャ現象による気候の年間変動が、果実の生産量には影響を与えたが、開花と結実のタイミングは変わっていないことから、ほとんどの種が支配的な内部季節リズムを持っていることが示唆された。

 

観察地に近いSilay市の気候(世界気候データベース)

註)破線:月平均最高気温、点線:月平均最低気温、

                                                       実線:正午の天頂からの太陽の角度

                                                       棒グラフ:月間平均降水量

 

この調査はわずか4年間の観察結果を統計的に処理しただけですが、熱帯雨林の全ての樹種が子孫の生存に最適な気候条件を選択して開花、結実していることが明らかにされています。

 

人類の飽くなき欲望が地球環境を破壊し、地球上に生存する870万種の生物は最近の6億年で6回目となる大規模な絶滅に向かいつつあります。

 

自ら破壊した地球環境だけでなく、自ら構築した社会環境にすら適応できない人類に生存の可能性は残されているのでしょうか?

 

世界人口と二酸化炭素排出量の推移(1750ー2015年)(国連)


 

森林火災:NASAの衛星写真より

 

引用文献:”Flowering and fruiting phenology of a Philippine submontane rain forest: Climatic factors as proximate and ultimate causes” Journal of Ecology 07 January 2004、British Ecological Society