2022年7月の参議院選挙では、選挙区によって議員一人当たりの有権者数に最大3.03倍の格差があり、二つの弁護士グループが「投票価値の平等に反し、憲法に違反する」として、選挙の無効を求める訴えを全国で起こしました。

 

全国の高裁・高裁支部はいずれも選挙の無効は認めませんせしたが、憲法判断については次のように分かれました。

 

高裁・高裁支部の憲法判断

*憲法違反:1件

*違憲状態:8件

*合憲:7件

 

そして、最高裁が下した判決は「合憲」でした。

 

国政選挙における一票の格差をめぐる最高裁判決(社会実情データ図録)


 

なぜこのようなことが起きるのでしょうか?

 

日本国憲法第14条第1項には、「すべて国民は、法のもとに平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と規定されています。

 

「法のもとの平等」とは条文通り「差別されない」こと、即ち絶対的平等が原則ですが、政府は相対的平等を原則とする解釈をしており、最高裁も一貫してその解釈を支持する判決を下しています。

 

相対的平等の下では、社会通念からみて合理的である限り、その取扱上の違いは平等違反ではないとされています。

しかし、その取扱上の違いが社会通念から見て合理的であると判断できる基準を政府や最高裁が示したことはありません。


最高裁判所:裁判所ホームページより

 

明確な基準がないまま運用される相対的平等の最大の犠牲者は女性です。

 

例えば、憲法第14条により性別による差別が禁止され、労働基準法第4条に男女同一賃金の原則が規定され、男女雇用機会均等法が制定されているにも拘らず、女性の平均賃金は未だに男性の7割で、しかも「合憲」です。

 

男女格差は平等権、自由権、社会権、参政権と基本的人権の全分野に及び、女性の人権問題と言えるでしょう。

 

スイスの世界的な非営利団体である世界経済フォーラムは毎年「Global Gendar Gap Report」を発表しています。

 

同レポートは経済、教育、医療、政治の4分野における男女格差を調査したもので、2023年の日本の順位は146カ国中125位でした。


 


 

政府に長い間、放置されていたのが「子どもの権利条約」です。

 

18歳未満の全ての人の基本的人権を尊重することを目指す「子どもの権利条約」は1989年の国連総会で採択され、日本は1994年に158番目の国家として批准しました。

 

批准後も国連から何度も指摘を受けながら国内法は整備されず、「子ども家庭庁」が発足し、「子ども基本法」が施行されたのは2023年です。

 

子どもは独立した人格と尊厳を持つ権利主体ですが、意見を政治に反映させる手段は持たないため、自由に意見を表明し、反映させる権利が保障されなくては、子どもの基本的人権を守ることはできません。

 

国連総会で採択されて以来34年間も放置した結果、招来しているのが次のような現状です。

 

(1)子どもの自殺(小中高、2022年):514人

(2)児童虐待(相談対応件数、2022年):219,170件

(3)教員などによる体罰(小中高、2020年):871人

(4)不登校(小中、2022年):299,048人

(5)いじめ(小中高、2022年):681,948人

(6)子どもの性被害(2022年):1,461人


読売新聞より

 

憲法第14条1項は年齢による差別を禁止しておらず、この点に関する最高裁の判例は次の通りです。

 

「明示されていない年齢を理由とする別異取扱にも、合理的な理由がなければ憲法14条1項の趣旨を反映した公序違反として差別となりうる。」

 

しかし、最高裁判例は、年齢を基準とした取扱いの合理性・合憲性を繰り返し肯定しています。

 

労働基準法も、国籍、信条および社会的身分による差別と男女賃金差別を禁止していますが、年齢による差別を禁止する文言は含んでいません。

 

そこで、日本的雇用慣行である定年制には合理性があるとして、定年後の再雇用に際しては雇用条件を大幅に引き下げることが公然と行われています。

 

年齢区分ごとの平均年収(2022年)(人事政策研究所・厚労省)


 

同一労働同一賃金の目標を掲げて、2020年4月1日(中小企業は2021年)にパートタイム・有期雇用労働法が施行されました。

 

しかし、同法は不合理な待遇差を禁止するのみで、合理的な待遇差は容認するという相対的平等を原則としており、非正規雇用労働者の待遇差を正当化する方向に機能しています。

 

 

憲法第11条には、「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられる。」と規定されています。

 

「子どもの権利条約」の放置は明らかに子どもの基本的人権の軽視ですが、明確な基準もなく運用される相対的平等がもたらしている多くの格差もまた、「侵すことのできない永久の権利」である基本的人権の侵害となっています。

 

 

参考資料:

(1)「法の下の平等」に関する基礎的資料 衆議院憲法調査会

(2)「子供に人権」日本で理解進まないのはなぜ? 東京新聞(柚木まり、川上義則)