「衣食足りて礼節を知る。」ということわざがあります。
その語源は中国の春秋時代の政治家である管仲(紀元前723ー645年)の思想を記した『管子」の一文で、日本では『続日本書紀」(797年)にその記述が見られます。
彼が政治の要諦として述べたもので、「国民の生活が豊かになって初めて、社会の秩序を保つための行動を期待することができるようになる。」と解釈されています。
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英国の団体Transparency Internationalは、世界180か国の公務員と政治家がどの程度汚職していると認識できるかの度合いをCorruption Perception Index(腐敗認識指数)として表し、国際的な順位づけをしています。
ASEAN各国の一人当たりGDPと腐敗認識指数を一つの表に纏めてみると、「衣食足りて礼節を知る。」のことわざ通りになっているのは驚くばかりです。
そのほかにも、汚職に対する制裁制度、公正な司法制度、法のもとでの平等な扱いが腐敗認識指数と相関関係にあることを同報告書は指摘しています。
日本も決して例外ではなく、戦後の新聞には公務員、政治家の汚職事件が絶え間なく報じられていたのを記憶しています。
1970年代の後半にギリシャの貨物船にカーゴ・スーパーバイザーとして乗船していたとき、ギリシャ人船長が入港手続きのために来船した日本の税関職員にアメリカのタバコ”マルボロ”のカートンを投げて渡したのを目撃し、衝撃を受けました。
途上国航路に就航する商船では各国での入国手続きを円滑に進めるため、免税で買えるマルボロやジョニー・ウオーカー赤ラベルを接待品として大量に積み込んでいましたが、彼は投げて渡すほど接待品を要求する税関職員を蔑んでいたということなのです。
Weblioより
2023年の日本の一人当たりGDPは33,824ドル、腐敗認識指数のスコアは73、順位は17位でした。
豊かになって公務員、政治家の汚職は減ったにも拘らず、最近は自民党派閥の政治資金報告書の虚偽記載、大企業の検査不正や品質データ偽装などが次々と明らかになり、政治家や企業人の倫理観が問われています。
この問題が深刻なのは、これは氷山の一角で、問われているのは日本人の倫理観ではないかと推察されることです。
豊かさは日本人の倫理観を高めることはできなかったのです。
高度経済成長期に「エコノミック・アニマル」と呼ばれた前歴もあります。
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希薄な愛国心、国旗・国歌への敬意の欠如、学校におけるいじめの増加など子供達の問題が指摘される度に、日本の首相は安易に道徳教育を強化しようとします。
しかし、それは対象が間違っています。
襟を正すべきは、強者には逆らえず、弱者を蔑ろにする、倫理観の欠如した大人なのです。
子供は大人と大人が作った社会と国家の下で育つからです。
政治家、企業人、そして私たち全てが、それぞれの立場で職業倫理、社会倫理をたゆまず追求して初めて、子供達が誇りに思う社会と国家を実現できるのだと信じています。