フィリピンには行政の最小単位であるバランガイ(Barangay)が現在42,001あります。

 

各バランガイにはバランガイ評議会(Sanggunian Barangay)と青年評議会(Sanggunian Kabataan)(18−24歳)があり、それぞれ議長1、評議員7で構成され、任期は3年です。

 

選挙は2020年5月に予定されていたのですが、コロナウイルス感染症パンデミックのため2度延期され、今年の10月30日が投票日となりました。


両親の地元Kamanga (人口4,223人)のバランガイ・ホール

 

私の地元San Isidro (人口64,948人)のバランガイ・ホール

 

総議席数672,016を全国一斉に選ぶ壮大な選挙で、8月28日ー9月2日の受付期間に届け出た立候補者は1,444,487人に上ります。

 

選挙運動期間は10月19日ー28日の10日間です。

 

立候補者がバイク、トライシクル、SUV、ピックアップのキャラバンを仕立て、スピーカーで彼らの名前を連呼しながら、バランガイ内を練り歩く様はバランガイ選挙ならではです。

 

2023年のバランガイ選挙

 

 

 

 

パートナーLaiの母親はBarangay Kamangaの評議会議長(バランガイ・キャプテン)に選任されており、今回の選挙では最終3期目の当選を目指して、志を同じくする15名と名を連ねて立候補しています。

 

選挙運動初日の10月19日、手伝いに行くLaiに私も激励のため同行しました。

 

午前9時ごろ両親の家に到着すると、立候補者と選挙運動員合わせて数十名が既に集結していました。


 


 

フィリピンの行事は食事から始まります。

 

スピーカーから流される立候補者16名の名前を聞きながら、10時のメリエンダと昼食を摂って団結の儀式を終えると、キャラバンは丘陵地の土着民集落へと出発しました。


 


 

国道から7km入った標高360mのところにあるLibas集落の小学校が最初の集会開催地です。

 

集会の開始を知らせる軽快な音楽がスピーカーから流れ、若者のダンスが始まりました。

踊っているのは青年評議会の立候補者8名です。

 


 

 

 

青年評議会は青少年対象の政策や活動の推進と開発に携わり、青年評議会議長はバランガイ評議会の評議員としても活動します。

 

地域行政に青少年の意見を反映すると共に、青少年が公共サービスのスキルを磨くためのプラットフォームしても機能するフィリピン特有の制度です。

 

Photo from NYC

 

ダンスが終わると、集まった集落の人たちにビーフン焼きそば、パン・デ・サル、飲み物が振る舞われます。

 

集会に焼きそば、パンなどが用意されるのはフィリピンでは通常の行為で、選挙違反には当たりません。


 


 

Laiの母親がスピーチで強調したのは次のような最近の実績です。

 

1、この集落から5km奥にある標高400mのLamlangil集落に、次男が役員を務めるメイスンの地方組織が小学校を寄贈

2、水道も井戸もない丘陵地住民のために最寄りの場所に深井戸を掘削すると同時に、各集落に有料給水ステーションを設置(これも次男のプロジェクト)

3、医療施設のないKamangaに、ファミリーの土地1,000mを寄付して国の医療施設を誘致(看護師のLaiが情報を入手して保健省の出先に提案)

 

両親の家系はマギンダナオ王国以来のイスラム教徒で、代々地域の発展に貢献してきました。

 

Lamlangil小学校の起工式

 

選挙運動は順調に進み、住民の良好な反応を得て10日間を終えました。

終盤になって対立候補がネガティブ・キャンペーンを始めたので、母親は勝利を確信したようです。

 

しかし、最後まで気は抜けません。

10月30日の投票日には、7箇所の投票所と開票作業が行われる小学校に各10名の監視員が配置されました。

 

彼らに届ける食事の用意も着々と進んでいます。


 


 

開票所の監視員から、バランガイ評議員候補1名を除く15名の当選確実の第一報がもたらされたのは午後10時半でした。

各立候補者は早々と開票作業が行われている小学校に向かい、開票作業の終了を待ちます。

 

全ての開票・集計作業が終わり、選挙管理委員会の職員が立候補者に当選認定の宣言を行ったのは翌日の午前3時前で、結果は第一報通りでした。


バランガイ評議会の当選者認定宣言

 


青年評議会の当選者認定宣言

 

バランガイ・キャプテンには僅かな手当が支給されるだけですが、地域行政の執行・統括と地域振興の重責を担っています。

 

ミンダナオ島、特に農村部の貧困率は全国平均(18.1%)を大きく上回っていますが、フィリピンの社会保障制度は貧弱です。

Kamanga(人口4,223人)のような農村部の小バランガイのキャプテンは住民の駆け込み寺の役目も果たさざるを得ません。

 

暮らしに困ることもある住民のために、両親の家にはいつも米袋が積んであります。


 

今回のバランガイ選挙の投票率は76%でした。

フィリピン国民の政治意識は高く、国政レベル選挙でも投票率が70%を下回ることはありません。

 

フィリピンにはスペイン、アメリカと独立戦争を戦い、日本軍にはゲリラ戦で抵抗し、マルコス独裁政権を民衆革命で倒した歴史があります。

 

バランガイ選挙狂想曲の底流には政治は自分たちのもの、国は自らが築くものというフィリピン国民の熱い想いが流れていることに気づかされました。

 

EDSA革命:写真はTatlerより