フィリピンは長期間にわたる政情不安のため経済成長から見放され、アジアの病人と呼ばれていました。

 

ところが、Benigno Aquino lll大統領任期中の2012年から、コロナウイルス感染症の拡大期間を除き、年率6%以上の経済成長を続けています。

 

今やThe Asian Tigers(香港、シンガポール、韓国、台湾)に続くTiger Club Economiesの有力メンバーです。

 

フィリピンの経済成長率(Trading Economics/PSA資料)


 

日本の経済成長期に抱いた高揚感が今でも鮮明に私の記憶に残っています。

 

経済成長は国民に夢と幸福感を与えることができるのです。

しかし、そのチャンスは各国に一回、それも限られた期間だけ与えられています。

 

私は幸運にも、フィリピン移住によって人生二度目の経済成長を経験しています。


写真は国立公文書より

 

経済成長を支える要件の一つは人口ボーナス期です。

 

人口ボーナス期とは、総人口に占める生産年齢人口(15歳以上65歳未満)比率の上昇が続く、もしくは絶対的に多い時期、従属人口(15歳未満の若年人口と65歳以上の老齢人口の総数)比率の低下が続く、もしくは絶対的に少ない時期と定義されています。

 

労働人口が増加すると労働供給力が高まると同時に消費支出の増加が見込まれ、従属人口の比率が低いと社会保障費などが抑制されて、いずれも経済成長に寄与することになります。

 

日本の人口ボーナス期は2005年に終了し、フィリピンの人口ボーナス期は2062年まで続きます。


 

多くの新興国は、国内産業を工業化して雇用を創出すると同時に輸出を促進する経済成長モデルを追求していますが、フィリピンはマルコス独裁政権など長期間にわたる政情不安によりそのチャンスを逸してしまいました。

 

GDPの産業別構成は農林水産業1割、製造業3割、サービス業6割と、先進国型の構成比になっており、現在はこの割合を保ちながら経済成長しています。

 

 

製造業の主要輸出品目は半導体・電子部品、輸送用機器などです。

 

サービス業ではITーBPO(情報技術と業務外部委託)産業が2000年以降に急速に成長して、インドに次ぐ世界的な立地として注目されています。

先進国企業が顧客となるため、高い所得レベルの雇用を生み出すと同時に、外貨獲得とサービス貿易の黒字化に貢献しています。

 

ITーBPO産業の収益(単位:10億ドル)(JLL資料)

 

経済成長していますが、増加する労働人口に対する雇用の創出は十分ではありせん。

 

2012年以降、失業率は8%から5%程度に、不完全雇用率は20%から15%程度に低下しましたが、未だに不完全雇用率の高さが目立ちます。

 

フィリピンの失業率、不完全雇用率(%)(ABS-CBN News/PSA資料)


 

国内の雇用機会の不足を補っているのが海外雇用です。

毎年200万人以上の海外雇用労働者(陸上・海上ベース)が出国し、海外で働くフリピン人の総数は人口の1割に達しています。

 

2022年の海外雇用労働者の国内送金額は3,614億ドルで、世界経済の影響を殆ど受けず毎年増加しています。

これはGDPの8.9%、国家予算の40.0%に相当する額で、フィリピンの貴重な外貨収入にもなっています。

 

 

海外雇用労働者:Photo by Philstar

 

フィリピンはGDPの産業別構成だけでなく、GDPの支出別構成も先進国型となっています。

 

家計最終消費支出の割合は73%に達し、消費により世界経済を牽引していると言われるアメリカの68%を上回っています。

 

フィリピン国民の旺盛な消費意欲と海外雇用労働者の国内送金にも支えられた家計最終消費支出がフィリピン経済を牽引しているのです。

 

 

産業の工業化の波に乗り遅れたため未だに不完全雇用率が高く、雇用の場を海外に求めざるを得ないなど国民にとって不幸な面はありますが、輸出に過度に依存しない個人消費主導の強靭な経済が構築されています。

 

その結果、多くの国がコロナウイルス感染症による不況からの脱出に苦しんでいる中で、フィリピンはいち早く成長軌道に復帰することができました。

 

フィリピンのGDPは2035年には世界第22位、1950年には19位、1975年には14位となって日本と肩を並べる経済大国となると予測されています。

 

コロナウイルス感染症パンデミック前後の経済成長率(%)(PSA資料)


 

世界の経済大国の推移(ゴールドマン・サックス資料)