ゴールドマン・サックスは2022年12月に世界経済論文、”The Path to 2075ーSlower Global Growth, But Convergence Remains Intact"(2075年への道ー世界経済の成長は鈍化するが、新興国の収束は続く)を発表しました。

 

同論文では、中国が2035年頃に米国経済を追い越して最大の経済大国となり、2075年頃にはインドが米国を追い越すと予測しています。

 

主要国のGDP推移(単位:兆ドル)(GS資料)

 

今後の50年間、世界経済はどのように変動するのでしょうか?

前記論文の世界経済の長期予測に関する章を要約すると、次の通りです。

 

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今回の予測で、世界経済の4つの主要なテーマが特定された。

 

テーマ#1:人口増加の鈍化に伴う世界の潜在成長率の鈍化

世界の経済成長率は、世界金融危機前10年間の年平均3.6%から、新型コロナ感染症パンデミック前10年間の年平均3.2%に減速した。

 

今回の予測は、世界の潜在成長率の最高水準点を超えたことを示唆しており、2024年から2029年までの世界の成長率は2.8%で、その後は緩やかな減少傾向にある。

 

この予測される減速のほとんどは人口動態によるものである。

世界の人口増加率は過去50年間で年間約2%から1%未満へと半減しており、国連の人口予測では2075年までに人口増加率がゼロ近くに減少することが示されている。

 

世界経済成長率の推移(%)(GS資料)

 

世界人口の推移(単位:10億人)(国連資料)

 

世界の人口・労働人口増加率の推移(国連資料)

 

テーマ#2:アジアの強国が主導する新興国の収束は損なわれていない

実質GDP成長率は先進国と新興国の両方で鈍化しているが、相対的に見ると新興国経済の成長率は先進国経済の成長率を上回っている。

 

これは世界のGDPに占める新興国の割合が時間の経過とともに増加することを意味し、彼らの収入はゆっくりと先進経済水準に向かって収束していく。

 

そして世界の所得分配は、この成長する「中所得」経済グループに向けてシフトすることになる。

 

先進国と新興国の経済成長率の推移(GS資料)

 

各国の1人あたりGDPの増加率と絶対額の対米国比率(GS資料)

 

テーマ#3:米国のアウトパーフォーマンスの10年が繰り返される可能性は低い

先進経済大国の中で唯一、米国は当社の長期実質GDP成長率予測(過去10年間)をわずかに上回った。

さらに、ドルもこの期間に急激に上昇したため、米国のGDPの相対的なドル価値は当社の予想を大幅に上回った。

 

しかし、このアウトパーフォーマンスが今後10年間にわたって繰り返される可能性は低いと考えられる。

 

米国の潜在成長率は、中国やインドを含む新興大国と比べて依然として大幅に低い。

さらに、近年の米ドルの異常な強さにより、米ドルは購買力平価ベースの公正価格を大幅に上回っており、この乖離は今後10年間で米ドルが下落する可能性が高いことを示唆している。

 

各国の経済成長率の予測(GS資料)

 

テーマ#4:世界的な不平等が減り、国内の不平等が拡大する

20年間にわたる新興国の収束により、世界の所得はより平等に分配されるようになった。

 

これは、過去20−25年間にわたってグローバリゼーションの恩恵として過小評価されてきたが、今回の予測はそれが今後も続くことを示唆している。

 

しかし、国家間の所得格差は縮小する一方で、国内の所得格差は拡大している。

政府は国内の発展に責任を負っているため、地球規模の視点は政治的に十分に顧慮されず、グローバリゼーションのプロセスにとって大きな課題となっている。

 

世界ローレンツ曲線(各国に所得格差が存在しない場合は45度線と一致)(GS資料)

 

主要国のジニ係数(国内所得格差の大小:100−0)(GS資料)

 

そして、これら4つの主要テーマがもたらす経済大国の変遷は次の通りです。

 

現在覇権を争っている米中のGDPは2035年頃に逆転し、2075年頃にはインドが2位に浮上して首位を窺い、5大経済大国に名を残す先進国はアメリカだけとなります。

 

日本とフィリピンはどのあたりにいるのでしょう?

人口ボーナスの恩恵を受けるフィリピンは14位に浮上し、人口減少により停滞する12位の日本と肩を並べます。

 

世界の経済大国の変遷(GS資料)

 

引用文献:

”The Path to 2075ーSlower Global Growth, But Conversion Remains Intact"

Goldman Sachs, 6 December 2022