2021年にフィリピン人のFrancisca Montes Susanoが124歳で亡くなりました。

彼女は1897年生まれで、地区のカトリック教会が作成した古い出生証明書の信憑性が確認されると、世界の長寿記録を2歳更新したことになります。

 

14人の子供に恵まれて、101歳の娘を筆頭に8人は生存しており、曽孫の数は500人を超えています。

 

Photo from Kabankalan City

 

彼女は夫とともに農業と養蜂を営み、収穫物を中心とする食生活で健康な一生を送りました。

 

死亡する前年まで、よく話し、歩き、毎朝ハーモニカを吹いていたといいます。

 

Photo from GMA

 

Photo from Kabankalan City

 

東京大学定量生命科学研究所の小林武彦教授は、次の理由からヒトの本来の寿命は55歳程度であると推定しています。

 

1、人類と同じ大型霊長類でゲノムが1%しか違わないチンパンジーやゴリラの寿命が60歳を超えない。

2、55歳を過ぎるとがんによる死亡率が急速に上昇する。

 

しかし、動物の自然寿命は環境を整えた飼育下に置くと伸びることが実証されており、ヒトも栄養の改善、衛生環境の向上、医療技術の進歩などによって自然寿命を超えて生きるようになったのです。

 

世界寿命(1770ー2121年)

 

2016年に米国アルバート・アインシュタイン医科大学の研究グループは、世界40カ国の死亡年齢などの統計データによる疫学調査により判明した次の事実から、人の寿命には上限があるとする研究結果を発表しました。

 

研究チームのヤン・ファイブ教授は「ヒトの寿命の限界は115歳くらい」と述べています。

 

1、100歳を超える高齢者の寿命は1980年以降、伸びが止まった。

2、世界最高齢者の死亡年齢も1990年代から上昇していない。

 

 

また、最新のバイオテクノロジーによる研究では、ヒトの最大寿命は120歳から150歳であると推定した論文が2021年に発表されています。

 

シンガポールのGero社などは、UKバイオバンクと米国国民栄養調査による50万人以上のデータを用いて数理モデル・シミュレーションを行い、120歳から150歳で身体の回復力は完全に失われ、死に至ると結論づけました。

 

Photo from Gero Website

 

多くの生き物がプログラムされた寿命できっちり死ぬのとは違い、現代人は「老化」の過程で死にます。

 

老化のメカニズムは徐々に解明されており、幹細胞は分裂の過程でDNAに傷がつくことで老化が促され、結果として個体を死に導いていることが解ってきました。

 

細胞老化:AMED資料

 

そして、2020年にノーベル化学賞を受けた「ゲノム編集」技術が老化制御に突破口を開こうとしています。

 

ゲノム編集とは、ゲノム内の遺伝子情報を担うDNA配列を意図的に切断し、切断されたDNAの修復過程で必要な遺伝子の機能が書き換えられることを狙った技術で、医療分野での応用が進められており、遺伝子治療として用いられて臨床試験や治験の開始が報告されています。

 

ゲノム編集:産総研資料

 

古来より権力や富を手にした者たちは、「不老不死」を求めてあらん限りの手立てを尽くしました。

 

今、老化制御のビジネスが世界中で注目を集め、アメリカを中心にベンチャーの設立が相次いでいます。

 

秦の始皇帝:Copyright (c) en.wikipedia.org

 

ついに人類は不老不死を手にするのでしょうか?

 

技術的な問題は早晩解決されそうですが、ヒトの老化制御に踏み込むには二つの重大な問題がクリアされる必要があります。

 

1、「進化が生き物を作った」とすれば、老化もまた人類が長い歴史の中で「生存するために獲得してきたもの」であり、それを人工的に制御することは人類の生存を脅かす可能性が高い。

2、ヒトに対してゲノム編集を施すことの法的、倫理的な問題。

 

NGK資料

 

全ての問題がクリアされれば、試しに5年ほど若返ってみたいものですが、シリコンバレーのバイオベンチャーが提供を目論んでいる若返りの遺伝子療法の費用は1年につき4万ドルです。

 

残念ながら、年金生活者には手が届きそうにありません。

 

参考文献:

(1)「老化は治療できるか 人は何歳まで生きられるのか」 河合 香織

(2)「生物としての寿命は55歳!」 小林 武彦

(3)「ゲノム編集」 産総研マガジン(2022年8月)