息子のNormanが大学卒業後もアルバイトをしながら自宅にいるのをいいことに、パートナーのLaiは彼を運転手のごとく使っていました。

 

彼女の看護師としての不規則な勤務、買い物、用足し、45km離れたMaasimに住む両親訪問、同じくMaasimに買った農場への往復と、かなりの仕事量です。

 

 

ところが、想像だにしなかった事態が発生しました。

 

仮想通貨取引に熱中しているNormanは、オンライン仮想通貨取引セミナーを受講していました。

 

彼の成績を評価したスウェーデン人講師がスウェーデンの資産運用会社に紹介してくれ、彼は三次にわたる試験と面接を経てトレーダーとして採用されたのです。

勤務地のマニラで、間も無く8週間の訓練が始まります。

 

Photo from Investpedis

 

Laiは運転手を失うだけでなく、最愛の息子と別れることになります。

それも多分、ずっと。

 

シングル・マザーとして10数年NormanとDianneを育ててきて、別れる準備などできてはいなかったのです。

 

 

Normanのことを口ではボロクソに言っていても、ショックは隠しきれません。

「それは怪しい会社じゃないの?」とまで言いだす始末です。

 

どうすればいいのか?

 

現実的に対応するしか方法はありません。

Normanが自立していったように、Laiを自立させるのです。

 

 

まず、車の運転です。

 

彼女は若いときに運転免許は取得しているので、何度か運転しようとしたのですが、いずれも途中で投げ出してしまいました。

 

交通信号もない狭い道路を車だけでなく、トライシクルやモーターバイクが縦横無尽に走るので、運転環境は最悪です。

 

その上、彼女は市立病院手術部の主任看護師として、毎日のように交通事故負傷者の手術に立ち会っており、事故の危険性を身にしみて感じているのです。

 

 

2年前、郊外の家に引っ越すことになったとき、彼女の通勤用としてコンパクトSUVを買う予定でした。

 

気が進まない彼女を無理矢理MG Motorの販売店へ連れて行き、赤のMG ZSに決めて、翌日に代金を払い込みました。

 

引き渡しは4日後です。

 

 

 

まず、モンテーロで運転再開です。

モンテーロに慣れれば、MG ZSは子供サイズです。

 

初日は、「教え方が悪い!」と文句たらたらでどうなることかと思ったのですが、終ったときに、「次は早朝練習しよう」と言ったので、一安心しました。

 

 

二日目以降の練習もなんとか終え、引き渡しの日がやって来ました。

モンテーロで販売店まで行き、帰りはそれぞれが運転することになります。

 

LaiはMG ZSで少し練習したのち、私に先導されながら無事に自宅に辿り着きました。

 

 

 

翌日、Laiの病院への往復は私が同乗しました。

 

彼女は運転しやすいMG ZSに安心したようで、もう一人でも大丈夫だと言います。

 

 

そして、Laiが一人で運転する日がやってきました。

制服に身を包み、彼女は運転席に乗り込みます。

 

遠ざかる車を見つめながら、私は少し胸が熱くなりました。

十数年間のシングル・マザーの呪縛から、解き放たれていく彼女を見たように思ったのです。