【お話】 チュンソクの指南8 | 信義(シンイ)二次小説

信義(シンイ)二次小説

りおのシンイParty☆

  このブログのアメンバーでない方へ
当サイトのアメンバー募集についてはこちらからどうぞ



音ひとつない闇の中に身を置いていた
そこは自分の吐く枯れた息の音だけが、木霊するような沈黙の世界だ
俺は命が尽きるその日が訪れるのを、じっとその場所で待っているだけだった

********

生涯を誓い合ったメヒの死後、俺は女人への興味がぱたりと無くなった
今思えば天界の言葉で言う、一種の虎と馬だったのかもしれぬと思う
自分自身その自覚はまったくなかった
だが七年もの長い間、二十過ぎの若い男が、女に興味が無いというのは尋常じゃない
そう思い返してみれば俺は、やはり虎と馬に囚われていたのだろう
虎と馬が闇の世界へと俺を導いた
俺の心を守っていたのはこの身を覆う闇
しかし闇は闇でも単なる闇ではなく、冷たい氷の世界を包み込むそんな闇だ
そうでもせねば非情な現実を目の当たりにし、己を保つことなど出来ぬだろう
冷たく硬いメヒから伝わったその感覚…
それから逃れるため、俺自身が冷たく固い氷の壁で、この身を覆い逃げ込んだ
そうやって俺自身が凍り寒さから逃れた
だからこうして今日まで、生き長らえてくる事ができたのだろう

俺の眠りを妨げるのは誰だ?
せっかく此処で独り静かに、残りの命が尽きる日を待っていたのに…
風一つ吹かぬ鬱蒼とした静けさの中、あの方のけたたましい声が響き渡った

「漆黒の闇に身を置いた男に、突然陽の光が当たったら何と思うか分かるか?」
チェヨンは頬杖をついて、右に持つ空になった杯をくるりと回しながら問いかけた
「突然、陽の光が…ですか?」
さぁ、どうでしょうかと小首を傾げる
直ぐにはその質問に答えを見つけられないでいると、質問の主が先に口を開いた
「鬱陶しく感じる事だろう。煩わしさに少し身を反らせば、陽がまたあてられる」
変化の無い静寂の世界が一転する
突然の変化は心に戸惑いを生み出す
戸惑いという胸のざわめきは、命尽きる日を待っていた俺には煩わしく思えた
「そういうものでしょうか?」
「さぁな。他の皆は分からぬが…」
薄々気づいてはいたが、チュンソクはそこでその話がチェヨン自身の話だと察す
「もしやご自身の事ですか?」
チェヨンは視線でそうだと目配せし、何かを描くようぼんやり宙を見上げた
「避けても、再びあてられる光。また避けても…そんな事を繰り返しているようで」
「では、そのおっしゃっている陽の光とは、もしやあの方の事ですね?」
チュンソクの問いかけに、小さく頷き、穏やかな微笑みと共にそうだと返した
「眩しすぎて目を背けたくて…」
俺の目に映るイムジャが眩しすぎて、直視することを憚られた
だから目を細め幾度もあの方を、陰からこっそりと覗き見たのだ
「逃れられないんだ」
ある日突然自分に差し向けられた、燦々たる光に俺は戸惑って…
いくらその光から逃れようとしても…頭と心が上手く折り合いがつかず
結局は気づけば釘づけられていた
自分の心を俺自身が計りかねるが、それを越える何かが俺を突き動かした
「差し出がましいですが…」
チュンソクが躊躇いがちに口を挟んだ
「なんだ?」
意義を申し立てる事に多少の躊躇があったチュンソクは、一度座り直し向き直る
「それを鬱陶しく感じる者もおれば、希望を見い出す者もおるのではないですか?」
先程は答えられなかった問いかけに、チュンソクはそこで自分の考えを言葉にする
漆黒の闇に身を置いた男に、ある日突然暖かな陽の光が当てられたら…
鬱陶しく思う者もいるが、その陽の光に希望を見い出す者もいるのではないかと
チュンソクは真っ直ぐ見上げ窺った
「希望を…見い出すか…確かにそうだ。それも間違えては居らぬ。むしろ…」
考え深く鼻からすぅと息を吐いた
闇の中に長く居た男は、だんだん自分がその中に居る事すら忘れていってしまった
何故なら置かれた現実に、無理に抗おうとすれば辛すぎるからだ
目を背けたいならば目を瞑れば済む
そして男はたった独り目を閉じた
つまりそれは同時に心も閉じた事になる
「闇に差し込めた希望の光…」
だが一度その光に目を向け、その世界に飛び込んでしまえば立ち位置は異なる
改めて振り返り後ろに見た闇が、どれ程悍ましく思える事だろうか…
一度知った世界からはもう抜け出せない
気付けば追い求めるのは俺のほうだった
輝かしいあの方の笑顔が見たくて、いつしかイムジャから目が離せなくなってた
此の地に来たことを憂いて、輝きを失いかけた事もあったが…
再び見たあの方の笑顔に敵うものは、もうどこにも存在しなかった
そんな日々がずっと続くと思っていた
俺に新しい世界が開けたはずだった…
だが現実は甘くない。あの日の悪夢
ある日、差し向けられていたはずの光が、突然目の前で消えてなくなった
やっとこの手にしたはずが、全てがまるで夢だったかのように消えていった
だが、俺はもう闇に逃げる事をしなかった
前を向いて陽の当たる世界を探し求めて、再び陽が登る日を強く願って待った
やはり男は光に希望を見たのだろう

「もしもイムジャが色香を漂わせ、男に項垂れ掛かるような女であれば…」
きっと俺の今は無かったはずだ
「ずかずかと平気で、人の心に入りこんでいくような方だから…」
そう言いかけると悪戯におどけた
「不意打ちを食らったのだ」
不変だった静かな闇の突然の変化
「思いもよらぬ行動をされる方なので、守備も十分ではなかったのですね」
チュンソクは不意打ちという言い様が可笑しくて、話を合わせ喉を鳴らし笑う
「奇襲を受けたようなものだ」
そうでなければ俺は、きっと変わることができなかったのではないかと思う
新たな世界が切り開かれると言うのは、往々にしてそんなものではないか
「奇襲とは、これまた人聞きが悪い」
「そうだろ?あんな女がどこにおる」
「おっ、この話を、医仙殿に密告すれば、婚儀も取りやめに…」
「何だと?」
にんまりと不敵に笑うチュンソク
「あ~ならぬ!言ったらどうなるか?お前、やっぱりイルシンの所に行きた…」
「行きたくありません!!」
二人は絡んだ視線に、ぷっと吹き出して、声を大きく上げて笑った
大笑いをしすぎて、目の端に漏れ出た涙を、手の甲で拭い取ると…
「では、内密にする代わりに、婚儀の後はしばし俺に、長の座を明け渡して下さい」
チュンソクはそう交換条件を出した
そしてこうも付け足した
「皆も望んでおります」
これはウダルチ皆の意なのです
「チュンソク…」
「鬼のしごきを受けるよりも、俺の稽古のが幾分ましだと」
提示された条件にはチュンソクを始めウダルチ達の思いが込められていた
その男の意を察して胸が熱くなる
「何日欲しい?」
話を合わせふざけ半分にチェヨンが言うと
「存分に…溺れて下さい」
チュンソクはこみ上げる涙に耐え、皆の思いをはっきりと伝えた
そして、目を合わせて深々と頷いた
チェヨンの目頭が熱くなる
今日まで特段意識もしなかった
しかし、確かにそこに存在していた、もう一つの深い絆があった
あの七年間も俺にとって、あながち悪くはなかったのかもしれない
不毛な日々も無駄ではなかった
チェヨンはチュンソク肩に手を置く
そして大きな掌に、その男や仲間逹への言葉にならない思いをそこに押し込めた


   ブログランキングに参加中。ポチのご協力を何卒宜しくお願いいたします。↓↓↓


にほんブログ村