前回新聞の写真をアップしましたが、

読みやすいよう、文章にて掲載いたします。

是非皆様ご覧下さいませ。


レコンキスタ 第358号 平成21年3月1日付


第91回 一水会フォーラム 講演録

『最新 北東アジア情勢と我が国の決意』
青木理先生(ジャーナリスト・元共同通信記者) 3/3



○【周辺四大国】に生きる者として日本人は覚醒すべき


 さて、先ほどもお話ししましたが、僕は通信社の特派員として

五年近く韓国に暮らしました。日韓両国の歴史認識問題等々において

僕は、どちらかというと韓国の立場に近い考えを持っているのですが、
そんな僕でも韓国に居る間には辟易する事がありました。
例えば竹島(韓国名・独島)問題にしても、日韓の間で騒ぎが起こると、
韓国の有力テレビ局は竹島上空にヘリコプターを飛ばして、
「ご覧下さい。我が独島には太極旗が翻っています。
ここがまごう事なき韓国の土地である証明ではないでしょうか、皆さん!」
なんて事を記者が絶叫調でレポートしている。バカバカしい、と思いつつも、
扇情的なナショナリズムなどというものは、

どの国でもメディアが煽るものだな、と思いました。


 しかし、日韓両国の間がきくしゃくするのは、両国関係の上に置いても、
また地域の安全保障という観点から言っても、決して好ましくない。
かつて日韓関係がおかしくなった時には、
これを調整するためにパイプが両国間には今よりも存在していました。
是非は別として、金大中政権まで韓国の大統領は皆

日本語を話す事ができ、大統領はいずれも「日本通」でした。

また、韓国が軍事独裁政権の時代には、日本の保守政界、フィクサーと

呼ばれるような暗部と太いパイプがあった。
これは「癒着」でもあり、大いに問題を孕んでましたが、

それもなくなってしまった。

そして今、問題が起きても落とし所が見つけられないためにお互いに

感情的になって亀裂が拡大し、収拾がつかなくなっている部分もある。

日韓両国は何とかして、もっと政治的なパイプを作らねばなりません。


 僕も多くの韓国人の友人、知人を持っています。

また余談かも知れませんが、僕の父は植民地支配下の韓国で

幼少期を過ごしました。祖父が農水省の役人で、

韓国南部の港町、麗水(ヨス)というところの水産研究所に

勤務していたためです。その父が私の韓国駐在中、

幼い頃を過ごした研究所や官舎を見たいと言い出し、
一緒に現地まで行ったことがあります。


 しかし、「植民地支配した国の役人の息子が、

かつて暮らした土地に行きたがっている」

などと言えば、韓国の人は良い思いはしないでしょう。

僕は少々憂鬱な気分で、しかし親孝行という気持ちもあり、
ダメ元で麗水の市役所に行ったのですが、

市役所の人たちは実に親切に対応してくれ、
一生懸命に水産研究所や官舎のあった場所を探してくれました。
最後は車まで出してくれて、目的の土地まで行く事ができました。
幼少期を過ごした官舎や研究所の跡地を見つけ出し、

涙ぐんでいた父に対し、市役所の方々もうれしそうに

「良かったですね」と言ってくれた。
本当に恐縮すると共に感激しました。そんな思い出があります。


 北朝鮮もそうです。ここであまり詳しい話をすることができないのは

残念なのですが、取材で北朝鮮に入ったとき、

現地で何人もの温かい人たちに接しました。
当たり前の話ですが、独裁政権の圧政に苦しみながらも、

ナマの人間が暮らしているのです。
そんな人々が生を紡ぐ地に、二度と惨禍をもたらすわけにはいかない。


 その朝鮮半島では、金大中と廬武鉉・両大統領期の韓国が

南北対話・対北融和政策を取り、

日本ではこれを「左翼政権による親北政策」だという

見方が罷り通っていました。もちろん、そうした面がないとはいいませんが、

韓国に住んでいた僕から見れば、「親北左翼」というよりむしろ、

「生活保守」的な色彩が強かったのではないかと思います。


 今や韓国は先進国並みの繁栄を享受しています。その韓国にとって、
南北間で有事が起きることは言うまでもなく、
北朝鮮が急激に不安定化することすらも絶対に避けたい事態です。
韓国の試算によれば、いま北が崩壊して南北統一することになれば、
韓国の経済は完全に破綻するだろうと見られています。


 しかし、いずれ北朝鮮が崩壊するのは避けられないでしょう。
ならば韓国の人にとって選べる手段は限定される。

北朝鮮と対話・交流を続けながら、できるだけ穏やかに改革・開放とへと導き、
最終的には何としても軟着陸させたいーー
それが対話路線を支持する韓国世論の根底にあるのではないでしょうか。
逆に日本で勇ましく「北朝鮮に圧力をかけろ」「金正日政権を崩壊させと」と
言っている方が、よっぽど「進歩派」といいますが、
ひどい「過激派」に見えてくるのです。


 私たちはもっと冷静に、

そして複眼的な視座から物事を見るべきだと思います。
例えば『月刊日本』の昨年八月号には、

早期に日朝国交正常化を目指すべきだという特集が載っていました。 


 僕も日朝の国交正常化は早期に成し遂げるべきだと思いますし、
幣会の木村代表も「戦略的思考としての日朝国交樹立」という優れた論文を
寄稿されてましたが、この特集の中で『月刊日本』の山浦嘉久論説委員が
「旧宗主国としての覚醒を」という記事を書いています。
僕はこの「旧宗主国」という観点に加えて、

「大国としての覚醒」と付け加えたいと思います。


 韓国のメディア報道や論文を読むと、

「周辺四大国」という言葉が頻繁に出てきます。
四大国とは即ち日本、中国、アメリカ、ロシアです。
日本側から朝鮮半島側を眺めますと、目の前に韓国、そして北朝鮮があり、
背後にロシア、中国が控えているという図式になりますが、
一方で朝鮮半島から見るならば、周辺を日・中・米・露という四大国に
取り囲まれている絵図になるのです。


 この四大国のパワーゲームの結節点となる位置に

朝鮮半島は置かれてきました。そのパワーゲームの当事者として

日本か過去に朝鮮半島を植民にし、その後には米ソ冷戦の最前線として

半島全土が廃墟となるような戦争まで繰り広げられたわけです。


 現在も朝鮮半島から見れば、日本は間違いなく強大な「大国」です。
周辺を取り囲む「周辺四大国」の一つなのです。
そして、かつて半島を植民支配した「大国」に暮らす我々は、

半島の地に暮らす人たち -僕の友人や知人はもちろんですが-に、
二度と凄惨な厄災をもたらせたいよう必死で知恵を絞り、
真摯に振る舞う責務があるのではないでしょうか。


 日本と韓国の二国間関係を見れば、

政治体制や社会的な価値観を同じくする両国は、
貿易相手としても切っても切れない仲にある。
「嫌韓」などというバカなことを言っている場合ではないのです。
傲慢な意味でなく、我々は「大国」に暮らす者としもっと鷹揚に、
そしてもっと真摯に朝鮮半島に向き合わねばならないと思うのです(了)