葛城の迷宮 -53ページ目

『ジョゼと虎と魚たち』

監督:犬童一心
出演:妻夫木聡
    池脇千鶴
    上野樹里
    新屋英子
    新井浩文

雀荘でアルバイトをしている大学生の恒夫(妻夫木聡)は、客との話題に出てくる最近この近くで見かける謎の老婆のことについて興味を持った。
その老婆を見かける時は、たいてい決まって夜明け前に乳母車を押しているという。

「けったいなババアやでなぁ・・・」
「あの乳母車、何が乗っとるんやろなぁ・・・?」

孫のミイラを乗せている・・・。
札束を隠している・・・。
ヤクの運び屋をしているらしい…。

麻雀をしながら、そんなことで盛り上がる客たち。


恒夫は雀荘のマスターに頼まれて犬の散歩をしていた明け方、噂の乳母車が坂の上から走ってくるのを目撃する。
その後ろで、坂の向こう側で、「見たって!!」と叫んでいる老婆(新屋英子)。
何とか無事に止まった乳母車に、彼は恐る恐る近づく。
その中から突然包丁を振り回す少女(池脇千鶴)が現れた。
恒夫は間一髪でその包丁を避けて難を逃れる。


それが恒夫と”ジョゼ”と名乗る少女との出会いだった・・・

葛城の迷宮-joze05


彼女は老婆の孫で、原因不明の病で脚が不自由なまま、生まれてから一度も歩いたことがないらしい。
老婆は近所に“こわれもの”である孫の存在を隠して暮らしており、明け方誰もいない時間に、彼女を乳母車に乗せて散歩をしていた。
お礼にと恒夫は二人が住む文化住宅に誘われ、朝食を振舞われる。

「あのぉ、出し巻き、ウマイっす!」
話しかけてみる恒夫。

「・・・あたりまえや、ウチが焼いたんや」
そう答えるジョゼ。
「けど、後でハラこわすかも知れん・・・卵の殻に鳥のフンが付いとった・・・サルモネラや」

葛城の迷宮-joze04


それから、バイトを終えた恒夫は、うまい朝食を食べるためにこの家に通うようになる。
何となく落ち着くこの家と、不思議な魅力のあるジョゼに興味を持つ恒夫。
しかし一方で彼は、大学の同級生の香苗(上野樹里)にも好意を持っており、福祉関係の就職を希望している香苗と話すときも、脚の悪いジョゼの家の中での生活が話題になる。

いつものように朝食を食べるために寄ったジョゼの部屋で、祖母が拾ってきたという本の中に、フランソワーズ・サガンの 『一年ののち』 を見つける。
いつもはそっけない態度の彼女が、その本について熱く語り出す。
本名が“くみ子”である彼女が、その本の登場人物のひとりである“ジョゼ”と名乗るのもその影響らしい。
その本の続編を読んでみたいと願うジョゼだが、祖母がその本をいつ拾って来てくれるかわからない。
恒夫は既に絶版となっていた続篇 『すばらしい雲』 を古本屋で探し出し、彼女にプレゼントする。

香苗の助言で国の補助金を使って家を改築できると知った恒夫は、ジョゼの家の改築工事を依頼する。
完成が迫ったある日、突然、香苗が見学に訪れる。
ジョゼのことを気遣って戸惑う恒夫。
押入れの中に引き籠って二人の会話に耳を澄ませるジョゼ。

その日のもう一度訪ねてきた恒夫に、泣きながら本を投げつけて「帰れ!」と叫ぶジョゼ。
恒夫は祖母に、もう二度と訪ねないでくれと告げられる。


それから数ヵ月後、恒夫は就職活動のため、ジョゼの家を改築工事した現場担当者に会社見学をさせてほしいと訪ねる。
他愛のない話の中で、その担当者からジョゼの祖母が急逝したことを知らされた恒夫。

思い出さないようにしていた記憶が、彼の頭の中を駆け巡っていた。

自分の中にある彼女への想いに気付いた恒夫は、就職活動も放り出してバイクにまたがり、懐かしいあの家へと急ぐ。


ジョゼはひとり、この家で暮らしていた。
恒夫を家に招き入れた彼女は、お葬式の日から今までのことを淡々と語り出す。
恒夫に対して抱き続けてきた感情を抑えながら・・・

葛城の迷宮-joze02


初めて邦画の恋愛映画を
真正面から観たんじゃないだろうか。

今まで避けてきた理由として、
①都合のいいハッピーエンドがキライだから。
②人の恋愛話を近くで見るのが恥ずかしいから。
③なんとなく少女マンガを読んだみたいで照れクサかったから。

 (今は読むけどね)
他にもいろいろあるけど、無理だって思ってた。
この作品を観るまでは・・・


考えても無駄なことは考えないようにしてる。
妻夫木聡が演じる恒夫の考え方。
普通の大学生で、友人もいて、セックスフレンドまでいる。
普通に生きてきたら、出会う事はなかったであろう、身体障害者のジョゼ。
とてつもなく個性的で、ちょっと可愛い。
そんな彼女を見て
「ひとりぼっちにはさせられない、
 そばにいてやれるのはオレだけだ

などと、流れで思いこんでしまうのも、この年頃ならよくあることだ。
(イヤ、年齢関係ないな・・・
 変わったシチュエーションで出会ったら、その相手を好きになりやすいって聞いたことがある。
 ホンマかウソか知らないけど、胸に手を当てるとそうかもって今思ってる。)

葛城の迷宮-joze01


ジョゼを演じる池脇千鶴が素晴らしい、
っていうか愛おしい。


幼さの残った表情。
華奢な身体つきなのに、匂い立つような色香が漂う。
口の悪い関西弁と独特のファッションセンス。
フレンチっぽい小物を飾った畳の部屋と、ぬか床に手を突っ込む姿。
片っぱしから頭に入れた知識とエキセントリックな発言。


ロングスカートで不自由な脚を引きずりながら、腕の力だけで進むジョゼ。
まるで陸の上に現われてしまった人魚だ。
海を思わせるようなホテルや、シャコ貝のベッド。
リュウグウノツカイが周りを泳ぎ漂う。

「ウチ好きや・・・アンタも、アンタのするようなことも・・・」

「アンタとこの世の中で一番エッチなことするために、
 海の底からやってきた・・・」


ギャップの塊のようなキャラクターなのに、本当に体当たりで演じているので説得力がある。


上野樹里も”のだめ”のイメージが強すぎて、最近すべて同じに見えるけど、この作品では彼氏を取られる”お嬢”の役を好演。
「正直アナタのその武器がうらやましいわ!!」
「ホンマにそう思うんやったら、アンタもその脚切ってもうたらええやん。」

ジョゼと香苗のやり取りは、滑稽な修羅場だ。

最近気がつけば良い作品には必ず顔を出す新井浩文。
今回は、ジョゼと幼馴染みのヤンキーだ。
口グセは、「シバくぞ、コラッ!!」

葛城の迷宮-joze03


監督の犬童一心は、童話的な物語とマンガ的なキャラクターに生活感を与えることで、リアリティ溢れる独特の世界観を見せてくれる。
ゆったりと時間は流れるけど、冗長ではないので退屈しない。
美味しそうな料理の見せ方と関西弁のイントネーションへのコダワリは相当のものだ。

やたらとエロティックなシーンが多いのも、リアルな恋愛を感じさせてくれる。
恒夫とジョゼとのキスは、香苗とのキスとは違った。
演技なのか演出なのかは知らないけれど、それだけでドキドキして観てた。


作中の音楽と主題歌を担当したくるりをこの作品で初めて聴いた。
クセのある楽曲をクセのない歌い方で聴かしてくれる。

もし、ぼくと同じように、
日本映画が苦手だ。
恋愛映画が苦手だ。

と思ってる人、観て下さい!
「あぁ、素敵な映画を観た!」って、きっと思うから。





ジョゼと虎と魚たち(通常版) [DVD]/妻夫木聡,池脇千鶴,上野樹里

¥4,935
Amazon.co.jp