葛城の迷宮 -46ページ目

『羊たちの沈黙』

監督:ジョナサン・デミ
出演:ジョディ・フォスター
    アンソニー・ホプキンス
    スコット・グレン
    テッド・レヴィン

”苦しみ”
”悶え”
”痛み”を愛せ


FBIアカデミーの訓練生クラリス・スターリング(ジョディ・フォスター)は、行動科学課の上司ジャック・クロフォード(スコット・グレン)に呼び出された。
連続殺人犯バッファロー・ビルの捜査が一向に進展せず、被害者だけが増えていた。
ビルはすでに5人の若い女性、しかも14号のサイズを着る女性を誘拐、皮の一部を剥いで死体を川に流すという犯行を重ねていたのだ。
ジャックは少しでも捜査の手掛かりを引き出したいと考え、彼女にボルティモアにある州立の精神病院を訪ねてある男に会って来るようにと指示を与える。
その男とは、自分の患者9人を殺し、そのうち数人を調理して食したとされる天才精神科医ハンニバル・レクター博士(アンソニー・ホプキンス)。
面会の目的は、レクターにバッファロー・ビルに対する興味を持たせ、その心理状態を読み解かせるためだった。

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クラリスが案内されたその場所は、精神異常犯罪者ばかりを収容した、窓ひとつさえない地下の監禁病棟。
卑猥な言葉をかけてくる連中がいる通路の一番奥に、彼は礼儀正しく立っていた。
「身分証明書の有効期限が一週間で期限切れだ。正規の捜査員ではないな。」
「エヴィアンのスキンクリームを使っているな」
「香水は、レール・デュ・タン。しかし今日はつけていない。」
「君は野心家のようだな。しかし高価なバッグに安物の靴とは野暮な格好だ。」

次々と自分自身のことを言い当てられ、怯むクラリス。
結局何も得るものがないまま帰るところだったが、隣の房にいるミグズが彼女にいたずらを仕掛ける。
「こんな無作法は初めてだ!」
激昂するレクター。
ミグズの非礼の代わりとして、クラリスはレクターから捜査のヒントをひとつ与えられる。

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レクターが自分に対して興味を持っていることに気付いたクラリス。
彼女は自分の過去をレクターに語ることと引き換えに、事件捜査の手掛かりを少しずつ得ることでバッファロー・ビルに近づこうと考える。
しかしレクターも、このバッファロー・ビル事件を利用することで、何らかの行動に出ようという思惑を隠していた。

そんな時、新たな事件が発生する。
マーティン上院議員の愛娘キャサリンが、バッファロー・ビルと思われる者に誘拐されたのだ。
精神病院の院長を務めるチルトン博士は、クラリスとレクターのやり取りを盗聴していた。
彼はレクターを利用して、キャサリン救出の捜査に協力させ、事件を解決させることを思いつく。
メンフィス国際空港へレクターを移送し、上院議員と直接面会させて犯人の情報を聞き出させようと計画する。
全ては自身に世間の注目を集めたいという、チルトンの出世欲によるものだった。

バッファロー・ビル、クラリス、チルトン、この3人の行動の全てが
ハンニバル・レクターという怪物の計算によるものとは知らずに・・・


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言わずと知れたサイコ・スリラーの傑作。
この作品の後、精神異常者が犯人の映画が多数製作されたが、異常さが強調されたり、どんでん返しや理不尽な結末でエンディングを迎える等いろんなアイデアが出てきた。
しかし完成度の高さで本作を超えるものは出ていない。
(最後のモヤモヤ感も含めて)

ジョナサン・デミ監督は今までのホラーやサスペンス映画にあった、
・突然何かが飛び出してきて驚かす
・突然大きな音を出して驚かす
・ショッキングな殺害シーンを見せて驚かす

というセオリーを排して、徹底的に抑えた演出で見せることで観客に不安感を与えることに成功した。

物語は正攻法、とんでもない展開があるわけでもなく、人が殺されるシーンに至っては一度きりだ。
(遺体は数回、犯行現場写真がチラリと出てくるけど・・・)
次々と受賞していった時は、”病んだアメリカの象徴だ”って言われたけど、何回観ても良くできている。
アカデミー監督賞受賞。

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主演のジョディ・フォスターは、知的で野心家のクラリス・スターリングという役を真正面から演じた。
美人だけど気が強く、色気がなくてちょいダサ。
オタクたちからモテる要素満点の、彼女の役作りが素晴らしい!

不幸な幼児体験を抱えて精神的に不安定ながらも、FBIという男性中心の職場で殺人犯を相手に立ち向かう強い女性という役は、今では当たり前になってしまったけど公開当時は画期的だった。
二度目のアカデミー主演女優賞受賞。

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映画史上最も恐ろしいキャラクターとなったハンニバル・レクター役のアンソニー・ホプキンス。
”ハンニバル・ザ・カニバル(人食いハンニバル)”と呼ばれ、使用している化粧品のブランドを言い当てるほどの鋭い嗅覚、自分が興味を持った人間を引きつけるように仕向ける話術、何が本当かわからない謎に満ちた素顔、全てが魅力的な人物だ。
頭髪が薄くて体格の良い中年男性、しかも連続殺人鬼。
白いTシャツに白いジャージの姿は、まるで仲本工事
クラリスのこともお気に入りで、彼女が訪ねてくると「恋仲だと噂されるぞ」というジョークで茶化したりする。
ちょっぴりプラトニックな恋愛感情を抱いていることも感じられるシーンがあって、ちょっと可笑しい。

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グレン・グールドが演奏するバッハの”ゴルトベルク変奏曲”を愛聴している。
血まみれでこの曲に聴き入っている様子が印象強すぎて、このCDを聴く度にこのシーンが頭に浮かぶ。
勘弁してくれよ!
物語の半分にも満たない出演時間だけど、インパクトは抜群。
アカデミー主演男優賞受賞。

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撮影監督のタク・フジモトは、通常のクローズアップよりもう一段回踏み込んだ、顔の輪郭さえわからないほどのアップを多用。
アクリル板を挟んでのクラリスとレクターの会話は、お互い向かい合わせで話しているのに、両方の顔をスクリーンに映すことで、潜在意識に直接話しかけているような感覚に驚いた。

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作曲のハワード・ショアはデヴィッド・クローネンバーグ監督とのタッグが多く、観客に不安感や焦燥感を持たせる曲をつけるのがめっちゃ得意。
作品中、音楽が流れるのは場面転換のときだけで、こけおどしだけど退屈になりがちなシーンに緊張感を上手く持たせてる。
観てる間は怖いんだけど記憶には残らない、この作品にはピッタリだと思う。
『ロード・オブ・ザ・リング』でアカデミー作曲賞を受賞した際は、こんなに雄大でロマンティックなスコアを書けるんだと感動した。


このシーンに、レクターの美意識とユーモアが集約されている。
サナギから蝶になって自由になります!って一目で分かるようにしてある。
ヒドイけど・・・
ちょっとグロテスク注意
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「いま羽根を広げて、いま飛び立つわたし
 とてもとても、とても幸せな気分だよ」

by Hannibal Lecter



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