アッシュに届いた過去からの手紙 3通目 | la vie en rose

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アッシュ お元気ですか

僕は最近また 寝られない日が続いているよ
そんな夜はどうしてもキミのことを考えてしまうんだ
真っ暗な部屋の天井に
あの頃のキミの仕草や表情のひとつひとつが
映像のように浮かび上がる
そうするとなぜかほっとして
ほんの少しのまどろみを得ることができるんだ


初めてキミと二人だけでデートした日のことを思い出すと
今でも笑いがこみ上げてくるんだよ
ごめん でも本当にあれはおかしかった


「今度の日曜日 よかったらデートしない?」
僕は ごく軽い気持ちで誘ったんだ
キミは驚いた顔をしながらも OKしてくれた
どこか行きたいところはあるかと聞くと
「海へいきたい」と言う


運良く晴れた次の日曜日
僕は先輩から借りたサニーを運転して
キミを迎えに行ったよ
助手席に座ったキミは なぜかずっと無口で
車内には ラジオから流れるアップテンポなミュージックだけが
やかましく響いてたね

(つまらないのかな・・)
僕は不安で仕方なかったよ
初めてのデートでドライブなんて 無謀だったかと
それほど会話上手でない僕は少し後悔したんだよ


海に着いても
キミはそれほど嬉しそうでもない
初秋の海からの湿った風が髪に絡むのを手で抑えながら顔をしかめている
砂浜に打ち寄せる波ではなく もっと遠く
遥か水平線のその先にあるものを探すように見つめ じっと佇んでいる 


いたたまれなくなった僕が
「帰ろうか」と言うと
キミは真っ直ぐに車に向かったね
そして
「帰りは私が運転する」と言って
さっさと運転席に乗り込んで座席やバックミラーを調節し始めたんだよ
僕があっけに取られて 呆然としていると
「早く乗って」だって

キミは先輩のおんぼろサニーのハンドルを握り 軽くギヤチェンジしながら
物凄く饒舌に いろんなことを話したね

優雅に操るシフトレバーの操作方法 とか
サニーは黄色じゃなきゃね  とか
ラジオのDJの選択するレコードの趣味が私好み とか

本当に他愛もないおしゃべりを僕に聞かせた
それから
海にまつわる悲しい思い出と
海がそれほど好きでもない と言うことも

それならなぜ 海に行きたいなんて言ったの?
キミはさらっと答えたね
「だって 恋人同士の初めてのデートは海に行くものなんでしょ?本に書いてあったもの」

僕はおかしくておかしくて
ずっと笑ってたよ
キミが運転する車の助手席で
おなかを抱えてずっと笑い続けていたよ 





ねえ
もしかして
あれがキミにとって 生まれて初めてのデートだったのかい?
男の人と二人だけであんなに長い時間過ごすことも初めてだったんだね










なんだか眠くなってきたよ

キミが迷惑でなければ また手紙を書くよ




追伸

アッシュ
今夜はキミの夢を見られそうだよ

おやすみ