【妊娠と仕事-10-】

妊娠検査薬で妊娠を知り、
産婦人科で
胎嚢確認→心拍確認

までの話。


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【7週~8週】


一日泣いたら翌日には吹っ切れた。


入社間もなく妊娠した私が悪い。


私が雇い主でもクビにしたい。




その人の底力なんて興味がない。

あと数ヵ月で使い物にならなくなる。

ようやく使えるようになるかなという時期に去るのが確定している。


誰が雇いたいか。


嫌味の一つでも言ってやりたいだろう。

代わりなんていくらでもいる。





選んでいただき、有難うございました。

期間が過ぎても止まない応募の電話。
「優秀な人材を確保いたしましたので」
嬉しかったです。

大事な場で堂々と紹介していただいたこと、嬉しかったです。

一度でも期待をかけてくれたこと、嬉しかったです。





出来ることなら、期待に応えたかった。
ただの駒かもしれないけれど、せめて使える駒になりたかった。

私はもっと頑張れた――。





でも口では何とでも言える。




実体は…




無力だ…








あっさり引き下がろう。


今回ばかりは相手が悪い。
あの人を敵にしても得はない。



むしろお世話になったお礼を兼ねて、菓子折でも持っていこうか。やはりそれは止めておこう。







賢く煙に巻いたと思えばいい。

馬鹿な女と思えばいい。



そして、



私のことなんて忘れればいい。



あぁ…もう忘れているかもしれませんね。

あなたの記憶に残らなくて結構です。





日に日にキツクなるつわり。仕事を辞められて調度良かった…なんてね。


一応社会人経験を積んだっぽい気分になれたし…。






念願の専業主婦に
待望の赤ちゃん。



他に何もいらない。



本当に大事なモノは分かってる。







翌週、8週目にしてようやく心拍が確認された。



ありがとう
ありがとう
ありがとう



解放感と充実感が込み上げる。



こんな嬉しいことはないよ…。



全ての方に…ありがとうございました。

注意原則注意
結婚したことや妊娠したことを理由に退職を勧奨したり、解雇することはできない。
妊娠・出産するのは、女性のみであり、そのことを理由にして不利益に取り扱うことは典型的な女性差別と言える。



事実上、契約期間中の解雇通告

今回の場合、医師の診断で働いても問題ないとされていて、本人にも働く意思があるわけですから、これは妊娠を理由にした不当な解雇で、違法行為です。例え法律に違反していなかったとしても、社会的な地位を持つ企業やその一員の行為としては、人道にもとる最低のものと言えます。

妊娠=即解雇という、法律に違反し、人間的にも社会的にもおよそ道から外れた対応をする企業が実に多いのが現実なのです。



解雇を行うには

解雇を行うには、解雇事由を就業規則に定めておく必要があります。解雇事由を列挙した場合、就業規則に定めがない事由で解雇はできませんので、不当解雇となります。
そのため会社としては該当事由を広くすることができるように、就業規則の解雇事由に「その他前記の事項に順ずる理由」という解雇事由を明記しておくのが一般的です。

しかし、無謀な解雇はそれ自体無効となります。また、同じ理由で、ある人は減給なのに、ある人は解雇というような差別的な処置も認められません。

また以下の項目については法律で解雇を禁じています



・社会的身分、信条、国籍を理由とする解雇

・労働組合の活動を理由とする解雇

・労働基準監督署に会社の労働基準法違反を申告したことを理由にする解雇

・女性であることを理由とする解雇

・年次有給休暇を取得したことを理由とする解雇

・産前産後休暇中とその後の30日間の解雇

・業務上の怪我や病気の療養中とその後の30日間の解雇

女性労働者の結婚、妊娠、出産を理由とする解雇

・産休、育児休業、介護休業を申告したことによる解雇


また整理解雇を行う場合は、これを回避するために配置や部署転換などあらゆる措置を講じた上でなければ不当解雇となります。


解雇予告制度

試用期間中でも雇入れの日から14日が過ぎると、解雇予告制度(1ヶ月前に通知)が適用されます
解雇予告制度とは、
(1)使用者は労働者を解雇しようとするときには、「30日前の解雇予告」か「30日分の平均賃金(解雇予告手当)」の支払いが必要。
(2)1か月を越える日雇い労働者、契約期間が2か月を越える者、4か月を越える季節労働者、14日を越える試用期間中の者にも解雇予告制度が適用になることに注意すること。

【妊娠と仕事-9-】

妊娠検査薬で妊娠を知り、
産婦人科で
胎嚢確認→心拍確認

までの話。


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【7週目】


翌日、同じように出勤した。


その日は大雨で、転ばないように細心の注意を払い、ようやく職場に着いた。


いつも通りの職場。
いつも通りのメンバー。


少し変わったことと言えば、ボスが「誰か10円持ってない?」と聞いていることくらいか。






今日は郵送する書類があるという。
スタッフの誰か行って来てとのこと。




――雨だし、嫌だな。転ぶわけにはいかない。




「私行きますよ。」
スタッフの一人が言った。


要領のいい先輩は
「いいえ♪私が♪」


「何言ってるんですか。妊婦さんが。危ないから私が行きますよ。」
スタッフが返す。


ボスも「危ないからあなたはダメよ。」と言う。




…こう返って来るのは分かってたはずだ。




相変わらず彼女は賢い。



そのスタッフが行くだろうと思った私は、媚びに便乗することなく、昨日の続きを始めようとしていた。



その時、

「そうだ!!Nanaちゃんにお願いしようかな。」
ボスが言った。




え…?

何のために昨日言いにくい報告をしたんだろう…。

先輩には「危ないからダメ」と言ったじゃないか。




理不尽に思いながらも、断るわけにもいかない。



大雨の中、足元の悪い道を歩いた。



その日の郵便局はすごく混雑していて、思いの外時間がかかった。


また雨で歩きにくい。


いつもより遅くに職場に戻った。


「いつもより遅いから心配したよー。」
駆け寄るボス。


もう完全に心を閉ざしていた私は言葉通り受け取れない。


社交辞令の心配を示した後、ボスはまだ「誰か10円持ってない?」と聞いていた。


私も自分の財布を探すが、あいにくこの日は小銭がない。


「そうだ♪ここから出せばいいじゃないですか♪」
先輩が、職場の募金箱から10円を出す。


え…?


ボスもそれは名案だと言う。


は…?


無事10円を手にしたボスは、仕事の続きを始めようとする私に

「ちょっと待って」と制止する。




「はい、これ。」
給料袋を差し出す。




ようやく分かった。










――クビ。








私も鈍感になったもんだね…。




言葉は優しかった。
あたかも私の身体を心配しているように言う。

余程、後々のトラブルを避けたいのだろう。






10円…。
私の給料に10円足りなかったのだ。



私の財布を探しても、意味がないね…。
私が小銭を探している間、どんな気持ちで私を見てたのかな…。



さぞかし馬鹿な女だと思ったことだろうね。



解雇の準備をするために私を外に出したんだね…。



なかなか「私行きますよ」と言わない私に、さぞかしイライラしたことでしょうね。






あまりに急で…
うまく言葉を返すことが出来ない。



あれよあれよと
帰り支度が進み、気付けば私は玄関にいた。



職場のみんなに「おめでとう」と拍手される。




――もう、居られない。



いつものように出勤した。
いつもならまだ仕事をしている時間…。



こんな時間にもう帰路を辿ることになるなんて…。





何…この気持ち…。









――惨めだ。