言葉を考えるより先に体が動いた。
胸ぐらを掴まれている女性が俺に気付き、小さく声を上げる。
相手が反応するよりも速く、男の無防備に晒された脇腹へと拳を撃ち込んだ。
「ぐあぁっ・・」
身構える隙がなかったのだろう、男は苦しげな声を吐きながら踞った。
「大丈夫ですか?どうして・・・」
襲われた理由を訊ねた薄暗がりの中、垣間見た女性の姿に、今がどんな状況だったのかを忘れかける。
頬を染める痛々しい痣。其れすらも忘れさせてしまいそうな強い瞳。
今、腕の中にいる女性はなんて凛としているのだろう。
その一瞬が悪かった。男の気配に気付くのが遅れた。
「邪魔すんじゃねえよっ、このジジィ!!」
男はいつ取り出したのか右手にナイフを握っていた。
薄暗い路地の中、鈍く光るナイフとギラギラした男の眼だけが浮かび上がる。
足を捻ったのか歩くのもきつそうな女性を放ってはおけないよな。
唸り声を上げこちらに突っ込んできた男に、なんの策も無いまま向かい合った。
左腕に電気が走る。気にせずに男の襟首を掴み、力任せに投げ飛ばした。
まーちゃん、俺にも出来たよ。なんてことを思ってはみたものの、予想外に痛みが酷いな。
無様にも俺はそのまま気を失っていた・・・。
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