俳優にとって大切な「人間観察」を演技に活かす方法。 | でびノート☆彡

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映画監督/演技講師 小林でび の「演技」に関するブログです。

 

人間観察してますか?

 

オーディションなどで「趣味は人間観察です!」って自己紹介する俳優さんって意外と多いんですよ。でもその方々に演じてもらうと・・・ん?何を観察してきたのかな?っていうことも多く、というかほとんどで・・・。

もしかして「人間観察のやり方」を誤解している人が多いのかな?

と思うんですよね。よく考えたらボクも10代の頃とかは人間観察って街で見かけた変わった人の行動を観察することだと思ってたしw。いやいやいやw。

 

人間観察って俳優にとってものすごく大事なことなんですよ。変な人物を演じる時だけでなく、ごくごく普通の人物を演じる時にも人間観察は必要なんです。

 

というわけで今回のテーマは、俳優にとって大切な「人間観察」を「演技に活かす方法」です。

 

俳優にとって「個性」とは宝です。

なのでその個性を心身ともに磨くことはすごく重要で、多くの俳優さんが「自分はこう感じる」「自分ならこうする」を追求するのは良いことだと思うのですが・・・あれ?でもその自分自分の姿勢ってちょっと内向き過ぎないですか?とも思ったりするんですよね。

 

なぜならそれは、俳優の仕事というのが「脚本上の他人を演じる仕事」だからです。 そう、自分じゃないんですよ、他人を演じる仕事なんです。

 

自分と他人って感じることが違いますよね。

例えば・・・タバコを喫ってる人を見て不快に感じる人もいれば、自分も吸いたいなと思う人もいます。同じタバコを見てもそのタバコが意味していることが人によって真逆なんですよね。

毛皮のコートを見てステキ!と思う人もいますが、動物に酷いことを!と嫌悪する人もいます。飛びまわる蝶を見て美しいと思う人もいれば、蛾と同じだと鱗粉を避けて逃げ出す人もいます。美人が近寄ってくると嬉しくなる男性もいれば、居心地悪く感じる男性もいる・・・そう、同じものを見ても、それに対して何を感じるかは人によって千差万別なんです。

だって兄弟・親子でも好きなもの嫌いなもの、考え方や性格は全然違ったりしますよね。

 

だとしたら俳優である自分と、脚本上の人物は全く別の感じ方をする人物である可能性は高いのではないでしょうか? 俳優が自分自身の感覚で演じてしまっても良いものなのでしょうか?

 

 

よく俳優さんが脚本に書いてあるセリフをササっと流して言っちゃう時があるんですが、そういう時にその俳優Aさんにどうして流して喋ったのかを聞いてみると「だって私だったらこんな時、こんな風に思わないので、言いにくくて」みたいな返答が帰ってきたりすることが多々あります。

こんなとき演出家は「うん。でもこの脚本の人物はそう思う人だからこう言うんだよね」とか返すんですが、そういう俳優さんはしばらく考えたのちに「いやいや〜普通こうは思わないでしょ〜」とか返してきたりするんですよね。え?普通?普通ってなに?(笑)

 

これって「残念な俳優のこのセリフ言えないアルアル」なんですが、なぜこの俳優Aさんはそのセリフが言えないのか?・・・それは俳優Aさんがこの脚本上の人物を把握できていないからです。

 

俳優自身と役の人物は別の人間なんです、感じることが違っていて当たり前。そこを無理やり「もし自分だったら」と自分の感覚のまま演じようとするので、当然言えないセリフやできない行動が出てくるんです。

 

いや、その俳優Aさんは自分なりにリアリティを追求したいと思っているんだと思います。でもそれは「もし自分だったら」という自分の中だけで成立する内向きなリアリティなんですよね。その俳優が思う「普通」はあくまで「その俳優にとっての普通」に過ぎないんですよ。

 

たとえばサラリーマンやOLや公務員を演じる場合、これらの人物たちは、俳優みたいに「生活の安定を捨てて自分の好きなことに人生を賭ける!」みたいな人生観とは真逆な人生観を持った人たちなんですよね。「安定したい!」からサラリーマンをやっているわけですから。

だから俳優にとっての「普通」で彼らを演じてしまうと、サラリーマンとして、OLとして、公務員としてちょっとおかしな演技になってしまう・・・彼らとしてのリアリティがなくなってしまうんです。

 

だから俳優は俳優以外の役どころを演じる際には、俳優の思う「普通」とは違った彼らの「普通の感覚」を知る必要があるんですよ。そして、そうお待たせしました・・・そのためのツールが「人間観察」なんです。

 

 

そう。人はそれぞれ違った人生観を持っていて、だから同じ世界を違った視点で見ているんです。

ここでもう一度言いますが、俳優の仕事は「自分を演じる仕事」でも「俳優を演じる仕事」でもなく、「脚本に書かれた他人」を演じる仕事です。

 

つまり自分の視点とは違う、俳優とは別コミュニティーの人々の視点を手に入れる必要があるんです。

サラリーマンやOLの視点を、会社経営者の視点を、派遣労働者の視点を、公務員の視点を、政治家の視点を、医療関係者の視点を、板前の視点を、スポーツ選手の視点を、金持ちの視点を、貧乏人の視点を、警察官の視点を、犯罪者の視点を・・・彼らは俳優とは全く違った視点でこの世界を見ています。その視点を、彼らの感じ方を手に入れるために「人間観察」をするべきなんです。

 

だからたとえば電車の中で酔っ払いを観察して、表面的な動作や喋り方とかを真似してみても仕方がありません。もっと内面を覗いてみるべきです。グデングデンになるまで飲んだこの人はなぜそこまで飲んだのか???を。

 

忘れたいことがあったのか?腹立たしいことがあったのか?それとも飲むことが楽しすぎて飲んでしまったのか?何が一体そんなに楽しかったのか?・・・その酔っ払い個人の感覚を徹底的に観察するんです。

そして電車の中でへべれけになっているその酔っ払いの彼の中に入って、彼の視点から世界を見てみましょう。きっとあなた自身の視点や感じ方とは全く違ったものを見ることになるでしょう。・・・その酔っ払いの目からあなた自身を見たとき、あなたはどのように見えるのでしょうか?w

 

なので何かの役をもらったら、その脚本上の人物がそれまでどんなコミュニティに属して生きてきて、どんな人生観で生きてきた人物なのかを徹底的に調べましょう。

 

たとえば寿司職人の役を演じるのだとしたら、その寿司を握る手つきとか外面的なものを観察して真似るのもひじょうに大切なことなのですが、実際に彼らの話を聞かせてもらったりして彼らの内面を知ることはもっと大切です。彼らの視点からはお客はどのように見えているのか、料理はどのように見えているのか。彼らがどんな視点で何を見て、何を感じているのかを観察しましょう。

今はYouTubeという超便利なツールがあるので、彼らのドキュメンタリーやインタビュー映像とかも見たりするのもいいですし、インターネット上の彼らの日記とかを読むのもいいと思います。

彼らが毎日何を感じ、何を思っているのか、その視点を手に入れること・・・そこまでやって初めて俳優の「演技に活きる人間観察」なのだと思います。

 

 

「自分の個性を磨く」ことと同じくらい「他人のことを知る」ことは大切です。それら2つが両輪となって、素晴らしい演技が生み出されるのだと思います。

 

たとえば役所広司さんや浅野忠信さんみたいな素晴らしい俳優は、犯罪者を演じてる時はこの俳優さん素もクセの強い人なんだろうなーとか感じるし、真面目な警官を演じている時はこの俳優さん素も真面目なんだろうなーとか感じますよね。

脚本上の人物そのものであると同時に、その俳優さんの個性でキラキラと輝いている・・・一見矛盾しているようですが、良い演技とはそういうものみたいです。

 

「人間観察」でその境地に達してみましょう!

 

小林でび <でびノート☆彡>