吹替こそ、身体で演じるべし! | でびノート☆彡

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映画監督/演技講師 小林でび の「演技」に関するブログです。

 

こんにちは、小林でびです。

そろそろボクが演出する吹替作品のオーディションが始まったり、そのオーディションに向けてのワークショップが進行中だったりするので、今回の「でびノート☆彡」はボクが日本語吹替えの音響監督をしているなかで、声優さんの仕事に対してリスペクトしていることや思っていることなどを、つらつらと書いてみようかと思います。

 

結論から言うと、ボクがこの人ホントにいい声優さんだなーと思うのは、たいてい「身体性を伴ったパフォーマンス」をしている声優さんです。

 

 

逆に苦手なのは「声帯」と「頭」だけでパフォーマンスしようとする声優さんなのですが・・・声色の工夫とかイントネーションの工夫とか、小手先感を感じてしまうんですよねー。そしてだいたいそういう声優さんは画面上の俳優さんとのシンクロ率が低いです。パク(口の動き)が合ってたとしても印象がフィットしない。声が浮いてしまうんです。

あたり前ですよね。だって画面上の俳優さんは全身を使って、心も使って演じているのだから。シンクロするはずがない。

 

若手の声優さんや声優志望の方がよくやる 声色の工夫とかイントネーションの工夫のみで演じるカッコいい喋り・・・「いわゆる吹替風の喋り」というやつ・・・これに対しては賛否両論あるようですが、この「いわゆる吹替風の喋り」で声をアテてしまうと、映画全体の印象が元の映画とは別モノになってしまうんです。その映画のファンとしてはガッカリですよね。

実際「好きな映画は吹替で観ない!イメージ崩れるから!」ってひとって結構多くて・・・じつはボクもその一人なんですが・・・70年代〜80年代のテレビ洋画劇場の吹替え黄金期には吹替の大ファンだった人間としては、そんな状況がひじょうに残念なんです。70年代〜80年代って、基本舞台俳優さんたちが掛け持ちで外画(外国映画)の吹替をやっていらした時代で、なので声だけで芝居をしていないんですね。

 

では「身体」と「心」を使ってパフォーマンスするとはどういうことか、具体的に説明してゆきましょう。

 

 

 

「頭で考える」ということと「心で感じる」ということは、演技をする上でまったく違うことです。

 

たとえば「大嫌いな上司が自分に近寄ってくる」というシーンがあったとしますね。その上司に対して頭で「嫌だ」と考えて演じる声と、心で「うわー」と感じて演じる声では、出る音がまったく違ってくるんです・・・なぜか。

 

それは身体の状態がまったく違っているからです。

 

現実世界で大嫌いな人が近寄ってきた時って、身体がすくんだり、首や背中が緊張したりしませんか?それが声の出方に大きく影響するんです。

緊張した声が出ちゃいますよねー。さらにそれを相手に悟られてはマズいので隠そうとして無表情ぎみになってしまったり、そんな感じですよね。その時の声が「心」と「身体」を使った状態の声になります。

 

それに対して「頭」で「私はこのひとが嫌いだ」と考えながら演じた場合、いくらそう考えても身体はリラックスしたままです。なので出る声の音は通常のままです・・・だからそのままでは嫌っている表現にならないので、「声帯」(声色)を使って、説明的に嫌がっている風の言い回しで喋らなければならなくなるわけです。

現実世界の職場では普通、嫌いな人に嫌ってるのがバレバレの言い回しで喋ったりしないですよね。でもそういう現実にはありえない演技をしてしまうんです。

 

「頭で考えながらしゃべる声」と「心で感じながらしゃべる声」ではこのように音がまったく違います。

「頭で考えたこと」は身体の状態にほとんど影響を及ぼさないんですが、「心で感じたこと」は身体の状態にストレートに影響が出てしまう。だからこそ「その声」が出るんです。

 

一般的に声優さんって、マイクの前でじっと動かずに声だけエモーショナルに演じているというイメージがあると思うんですけど、でも実際ベテラン声優さんたちの仕事を生で間近で見るとすごいんですよ。喋るとコップの水が揺れたりしますからね(笑)。昔やったゲームの音声収録で、いろはすのペットボトルがビリビリ音を立てるんでNGになったことあります(笑)。すごいエネルギーなんです。

 

もちろんどんなにエモーショナルに演じたとしても、口とマイクとの位置関係は一定をキープする必要があるので、あまり動かないで演じるのですが、その声優さんの内臓というか、身体の内側はじつは画面上の俳優さんと同じように揺れ動き続けているんです。

感情が大きく動くときに、身体が緊張したりリラックスしたり、心拍数が上がったり、鳥肌が立ったり、やはりアドレナリンやらドーパミンやらなんらかの脳内物質とかが実際に分泌されてるんだと思うんですよねー。そんな風に身体の内側が、画面上の俳優さんと同じ状態になっているので「まさにその声」が出るんだと思うのです。

ではどうしたらマイクの前で、身体に影響が出てしまうほど「心で感じる」ことが出来るのでしょうか。

 

それは画面をもっともっとよく見ることです。

自分が演じてる役を見るという意味ではありません。逆です。「自分が演じてる役の人が見ているもの」・・・相手役のことをもっとしっかりと観察するんです。

 

画面の中の相手役のことやその状況をもっとよくよく観察して、自分が演じる人物がその相手の具体的になにをどう嫌っているのかを「身体で感じる」ことです。(「頭で考える」のではなくね)

なんだろう。具体的には相手の目が嫌いなのかもしれない、ファッションセンスが嫌いなのかもしれない、声が嫌いなのかもしれない。だから相手役の目を見てみましょう、ファッションを見てみましょう、声を聴いてみましょう。そして実際に嫌悪感や恐怖感を感じましょう。

 

だからボクが信頼する多くの声優さんは、悲しいシーンを演じた後はしばらくダメージを受けているし、怒るシーンを演じた後もしばらくダメージを受けています(笑)。単に悲しい声を出したり怒号を出してみせているわけではなく、本当に「心を使って」演じているので、録音スタジオの中で本当に悲しんだり怒り狂ったりしているからです。

もちろんプロだし大人ですからスタジオから出てくるとニコニコしていますが、身も心もダメージを受けているのは見ればわかります。彼らがそんな風に出した声だからこそ、観客の心を揺り動かすのだと思います。

 

そうそう。先日NHK朝ドラ『おちょやん』の主人公を演じる杉咲花さんがインタビューで、彼女の父親役を演じるトータス松本さんのことを語っていました。

「ふたりの悲しいシーンの撮影で、前室に戻るたびにトータスさんがつらいつらいって言うんですよ。わたしは悲しくならなきゃって一生懸命なのに、トータスさんは本当に傷ついていて、すごいなぁと思って」

この境地に似ているのかもしれませんね。本職の俳優ではないトータスさんはテクニックで演じるのではなくライブパフォーマーとして「心」と「身体」をつかって全身全霊で演じている。だからこそあんなにも迫真にダメな父親を演じて視聴者の心を動かすことができるんです。

 

 

おっと、そろそろまとめましょう。

じつは今回の声優についての演技ブログ、ノートに下書きをした段階ではこの3倍の量はあったんですが(笑)、コレは1回のブログではまったく入りきらないぞと(笑)・・・なので今回は「身体性」の話に絞って、あと残り2回分はまたの機会にまた書くことにして・・・今回の「優れた声優の身体性」についてのブログをそろそろまとめたいと思いますw。まとめます!

 

「心で何を感じたか」は「身体の反応」に変換され、結果それが声優さんがセリフを喋る声の声色や喋り方に大きな影響を及ぼします。

だって我々は苦手な人とコミュニケーションを取るときは身も心も緊張したり、大好きな人とコミュニケーション取るときは嬉しくなるものだから、身も心も。

 

なので芝居をする上では、「心とは身体のことである」と認識してしまっていいのではないかと思います。

画面上の俳優と同じように、声優さんも身体ごと悲しみましょう。身体ごと喜びましょう。それが結局画面上の人物とシンクロするパフォーマンスへの一番の道なのかもしれません。

 

これが、来週オーディションにやってくる新人声優さんたちのパフォーマンスへのヒントになったら嬉しいです。

 

小林でび <でびノート☆彡>