SSS 「出来損ないのクラウン」 後編
そう、あの子を笑顔にするということはとても簡単なことだった。
あの子は何かをして欲しいわけではなかった、ただ見ていること読んでいることが好きであの子は誰かに対して望むということをしていなかったということ。
僕は今まであの子に何かをあげてばかりしていた。だからあの子はこちらを見てはいたものの笑顔にはならなかったのだ。
「気を取り直してもう一度」
僕はまたお手玉で大きな輪を作ろうとテンポ良く投げようとする。けれどあの子の方に気を取られて全く上手くいかずまた顔に直撃する。
「うぷっ」
目の前にいるあの子はまた笑っていた。
そうやって何度か失敗を繰り返していた僕を見かねたのか、あの子は本を静かに閉じて僕に手を差し伸べ初めて声をかけた。
「貸してみて」
あの子の手はとても白く、そして細く、あの子の声はフルートの音色のように大人しく流れるようで聞いていて心地が良かった。太陽に照らされたその手はほんのりと光を纏っているかのようで、僕は少しぼーっと見とれながらあの子にお手玉を渡した。
あの子はそのしなやかな手で器用にお手玉をする。綺麗な輪を作り一定のリズムを刻みながら流れるように回していく。あの子の目はとても穏やかで、口元を少しほころばせ微笑んでいた。
そうして僕はあの子を笑顔にする方法をやっと見つけ、様々な人に芸を聞いては練習しあの子の前で失敗を繰り返す道化をするようになった。
滑稽でいいところでいつも失敗する道化として僕はあり続けた。
失敗するたびにあの子は笑ってくれた。それがとても嬉しくあの子だけの道化としてあったことを嬉しく楽しく思っていた。
それからどれだけたったのか良く覚えていない。あの子が退院する日がやってくる。
それはわかっていたことだった。様々な人に芸を教えてもらっているときに聞いていた。あの子の病気は精神的なものであり、僕が笑顔にすることでどんどん良くなっていっているということを。
別れは辛いけれども僕はあくまでもあの子の道化としてあり続けている。それはもう誇りだった。だから最後もあの子を笑顔にしようと僕は道化を演じる。
「ありがとう、とても楽しかった。時間があるときお見舞いにくるね」
そうあの子は笑顔で言い、僕の前からいなくなった。
観客のいなくなった道化は一体どうすればいいのだろうか、その答えは簡単だ。幕を降ろせばいい。たったそれだけのこと。
僕は無理をしていた。あの子がいる時間、それが僕の辛さを苦しみを忘れられている時間だった。そもそも僕に残された時間は少なかった。けれどあの子のために頑張ることで楽しみを見つけることで、喜びを見つけることで僕は生きていられた部分がある。人間という生き物の神秘の一つ。
誰かのために生きた道化への神様からのプレゼントだったのかもしれない。
あの子は何度かお見舞いに来てくれた。その度に僕は道化になってあの子に笑顔を見せてもらう。とても幸せだった。幸せなことだった。
ただ、一度幕を降ろした道化に再びスポットライトが当たることはほとんどない。そのことを象徴するように僕の時間は止まりかけていた。
道化が多くの人に笑顔と素晴らしい時間を与えるように僕もあの子に笑顔と素晴らしい時間をあげることが出来たのだろうか。
そのようなことを考えながら僕の時間は最後のときを刻んでゆく。
そうして何日かが過ぎた頃、もう終わりは見えていて、暗闇の中に僕はいる。その中であの子の震える声がした。
「楽しい時間を、笑顔を、ありがとう。出来損ないの道化師さん」
そうして僕という一人の好きになった人のために生きた道化師の幕は閉じる。
出来損ないの道化師の物語。
SSS 「出来損ないのクラウン」前編
最初はあの子を笑顔にすることが目標だった。
話しかけても答えがなく、絵を描いても興味をしめさず、花をあげても喜ぶことはなかった。
そう、何をしてあげても結局彼女は黙ったままで僕の方をちらりと見るだけ。
あの子はいつも一人ぼっちで、誰とも言葉を交わさず、病院の裏庭にあるベンチでいつも同じ本を読んでいる。その光景がとても綺麗で、僕の目にとまった。ただ、あの子のその横顔はとても寂しそうで、今にも消えてしまいそうな感じがした。
あの子がいる光景が好きになっていき、あの子は僕とは違い笑顔で人を幸せに出来ると思った。
だから、何をしてあげればあの子に興味を持ってもらえるのか、笑顔に出来るのか、僕はそのことだけを考えるようになる。
話しかけ、絵を描いて、花をあげた。
ほかにもたくさんのことをしてあげたけれどあの子が興味を示すことは無かった。
あの子は僕のことを変なやつだと思っているだろう。でも、それでもいいんだ。僕の目標はあの子に笑顔になってもらうことなのだから。
そうやって毎日毎日、僕はあの子にいろいろなことをしてあげていた。そして、ある日してあげることがなくなってしまった……。
僕は考えた、僕があの子に出来ることは大体全てやってしまったから、次はどうすればいいのかと。
あの子に何かをしてあげられることはなくなったけれど、僕自身があの子に対して何かをすることが見せるということが出来ることに気づいた。病院にいる様々な人に話を聴き、教えを受けた。
すごいことは出来なくても簡単な芸なら出来る、そう考えて僕は練習する。
もともと、器用な人間じゃなかった僕は上達することが無かった。
それでも僕は練習して練習してあの子に見せに行く。
あの子は僕をちらりと見るとすぐに本のほうを向いてしまったけれど僕はかまわず覚えたての芸をすることにした。
それはいわゆるジャグリングというやつをやろうと思ったのだけど、あいにくここにはそんなものが無かったから、僕の手にあるのはおばあさんからもらった小さなお手玉。
「さぁさぁこれからはじまるのは滑稽な道化師のお手玉ショーです。どうぞ楽しんでいってください」
僕はそういって一つまた一つと全部で4つのお手玉をテンポ良く投げ大きな輪を作る。
あの子が顔を本に向けたままそっと僕のほうを見ていることに気づいた。
『あっ』
僕とあの子がそろえて声を上げたとき、お手玉はするり軌道を外れ僕の顔に直撃する。
「うぷっ」
お手玉は大きな輪の軌道から次々外れてその輪を崩していく、僕はお手玉の直撃の勢いのまま後ろの芝生に倒れこんだ。僕は頭をかきながら上体を起こして顔を赤くしながらへらへら笑ってごまかす。
気づくとあの子は本で少し顔を隠しながらクスクスと笑っていた。
おしらせっ!!
まず、いつもこのブログに来て作品を読んでくださっている皆様へお礼を申し上げます
ありがとうございます(*・ω・)*_ _))ペコ
そしてこれから読んでみようかなと思っている方も含めてのおしらせです!!
現在、このブログで書いている
「After World's End」
を小説家になろう!というサイトの方でこれからまとめてUPしていこうと思います
基本的な流れは
ブログで書く→書き溜める→一気に小説家になろう!にUP
という流れになりますが
この場合、どちらかでいいじゃんということになると思います
ですが、小説家になろう!にUPする際、修正・訂正または文章の追加などもやっていきます
ですのでブログで書かれていてもUPしたらなくなっているということも
その逆もあります
今のところ完全改定予定の部分としては第5話 ~言葉そのものに意味は無い~のこの部分を完全に書き直す予定です
下書きはブログで、本書き訂正は小説家になろう!の方でという形になりますので
いっぺんに読みたい方は小説家になろう!の方で
とりあえずどんどん次の話が読みたいという方はブログの方で
どっちも気になるという方は両方楽しんで行ってくれると嬉しいです
これからよろしくお願いします(*・ω・)*_ _))ペコ
ちなみに掲載ページはこちら です
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