「これから雪が降るらしいよ」

彼女は携帯の天気予報を見て言った。

仕事帰りに食事でもしようと2日前に約束していた。

いつも行くお店がある。月に何度か。ただ食事をして帰る、そんなお店だ。

お店のドアを開けると

「いらっしゃいませー」と元気の良い声が聞こえた。

いつもの窓際の席に案内され、いつもの料理を注文した。

食事をしながら外を眺めていると、通り過ぎる人たちはみな寒そうだ。

「やっぱり降るのかな」僕は言った。

雪のことを考えていたら、昔の思い出が次々と浮かんできた。

「小学校の時に雪を女の子に投げて泣かせてしまった」

という話から始まり、卒業式の日が雪だったとか、成人式の日が雪だったとか

受験の日が雪だったとか…

2月生まれの彼女は誕生日の日の前後に必ず雪が降るのだと言った。

雪…雪…雪…

そう考えると雪が降る日は、東京にいる人間にとってはやっぱり特別な日なのだ。

雪にまつわる話をあれこれして食事を終え、店を出た。

そして結局、雪は降らなかった。

「降らなかったね…」と残念そうに彼女は言った。

帰りの方向が違う彼女と僕はそこで別れ、僕は地下鉄の階段を下りていった。

電車に乗り、吊革につかまり、今日1日をぼんやりと振り返った。

いつもより穏やかな1日。クレームの電話があり、ヒヤヒヤしたけど、

意外にあっさりと解決してしまった。

この時期の電車の中は厚着をしている人ばかりで

なんだか混んでいた。

押し出されるように電車を降り、

人ごみと共に階段を上っている途中彼女からメールが届いた。

「雪、降ってきたね」

駅を出ると白い特別な雪が舞っていた。

こんな普通の雪の日があってもいいかもしれないと思った。