大皿料理に佇まい -満月(鷺ノ宮) | 丁稚烏龍帳

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today,detch stood live on the earth,too…

                                       5月23日(土)二軒目
 秋元屋さんをあとに、野方の商店街散歩と洒落込みましょうか。新宿線の各駅前はどの駅の周りも個人商店の連なる商店街が、本当に元気。また、道も入り組んでいて、猫も多い(…関係ないか)という、散歩にはうってつけの土地柄です。

 野方から路地伝いに歩いてくると、もう鷺ノ宮の駅前商店街。昔ながらのパン屋さんや定食屋さん、おやつに立ち寄りたくなるのをぐっとこらえて、駅前の踏切から眺めると、ありゃ鷺ノ宮の駅が見えてるよ。こんなに近かったかしらんと、開店準備中の竹よしさんの前を通り過ぎ、急ぎ足で向かったのが先ほど見えたお隣の鷺ノ宮駅です。


丁稚飲酒帳-満月  駅前踏切を北側に出てすぐの路地を左折したところに、めざすお店の赤ちょうちんが灯っています。おでん満月さん。以前江古田で友人の劇を見たあとに、散歩がてらお邪魔して以来、ファンになってしまったお店です。初見ながら、お話好きのマスターにおかみさん、それに常連のご婦人にやたらと声をかけていただき、すんなりと雰囲気に馴染めたのでした。その時、ご婦人に「土曜日は人気だから早めに来ないと、座れないかもよ」と言われていたもので、自然速足にもなろうてもんです。


 僕の入る直前にお兄さんが一人、提灯向こうの入口から入っていきます。その後の学習で、提灯奥のスペースは土曜は競馬帰りの方々の寄り合いになると承知していましたので、あたしは手前の引き戸を開けて、「こんにちは~」。

 「いらっしゃ~い」と独特の節回しでご主人。ありゃ店内には、今のお兄さんとあたし、それにマスターにママの四人だけですか。いつも活気のある店内で、こんなに少人数なのは珍しいですね。どうも競馬組がまだ来てないようで。



丁稚飲酒帳-大皿料理と佇まい  店内は両の入口から奥に向かって逆L字型の独特のカウンター構成。全体としてはY字になるんでしょうか。お兄さんの側にはカウンターの後ろに、テーブルが二卓ほどで店内は両側合わせても20人も入れば満席という小体なお店です。

 カウンターの上にはママの調理した大皿料理がずらり。壁には外国の古銭や歴史を感じる色あせた飲み物の短冊が雰囲気を醸しています。ここでもまずはホッピーからお願いします。それにあては…と、箸から蕪と牛筋の煮物、玉こんにゃく、カレイの煮つけ…なかには想像がつかないものもあって、カウンター上に所狭しと並べられた大皿の数々を見渡しながら、あれはなんですか?、これはなに?とマスターにお尋ねするのがまた楽しい。


 さて、その中から目に留まったのは、ハンバーグ状の一皿。よく見ると、銀色に光る青魚の皮目が覗いていますね。背中のメニューにも目を向けてみると、サンマのつみれ焼きとありますね、これお願いしましょう。

 マスターが鼻歌を歌いながら、電子レンジで温めること少々、そうしている間にも件のお兄さんと、二時間ドラマのチャンネル変えようよ、「暇だからずっと見てたんだよ、今最後だから待ってよ」とお父さんとのやり取り。なんだかそのやりとりがユーモラスで思わず吹き出してしまいました。


丁稚飲酒帳-握りこぶし大  温められたお皿にマスターが「合うかどうかわからないけど」とマヨネーズを添えてくれます。なにせインパクト大、僕の握りこぶしと同じくらいですから、直径15cmくらいはあるでしょうか、ふっくらと分厚く焼きあげられた、いわばサンマのハンバーグです。周りには味噌ベースと思われるソースが敷かれて、さて中身を割ってみると、ほぐれる感じはまさにお魚。

 ハンバーグのように肉汁がじゅわーというわけにはいきませんが、味噌だれと合わせて口に運ぶと、青魚の旨みが口の中に広がります。また噛むほどにお魚が口の中で踊りだすよう。味噌ベースということもあり、房州の郷土料理さんが焼きに近い感じなのかな。

 
 
丁稚飲酒帳-身もほっくりサンマバーグ  また、マスターの添えてくれたマヨネーズがややもするとパサつきがちな魚の身をしっとりつなぐ、つなぎの役割を果たしてくれて、これまたいい仕事してくれてます~。
 迫力満点の一皿に、サンマどれだけつかってるんですか?とママに聞いてみると、「サンマだけじゃなくて、マグロとかいろいろなお魚が入っているのよ」とのお答え。なるほど、それでこの複雑な味わいになっているのね、これはホッピーが進まないわけがない。中身をお代わりすると、またこれがあわのす級の臨界点ホッピー。いやあ幸せ幸せ。


 そうこうするうちにお客さんたちが一人二人と入ってらして、春場所が結びを迎えるころには店内満席。隣に座られたおじいさんと、白鳳・日馬富士の全勝対決を見ながら、手に汗を握ったりして。こういう酒場で見る相撲って、なんでこんなに楽しいんでしょう。

 続いて入ってらしたお客さんは、明日初ウィンズに行くんだなんて話をマスターにされてますが、府中に直接行った方が馬がみられていいよ~とおじいさんに勧められています。いいなあ、この肩寄せ合ってる雰囲気、これもマスターとママの人柄なんでしょうね。とにかく、このマスターの話好きなところが、あたしがファンしてる理由でありまして、思わずもう少しこの佇まいに浸っていたいと、レモンハイをお代わり。あてにはしっとり美味しいおからをもらいましょう。


 この極上の雰囲気、大皿料理のどれをとっても美味しいこと、加えて酔いも回って、なんとも楽しい土曜日の夜になりました。しかもお会計は1600円でよかとですか…なんて満足度の高いお店でしょう。ちょいとお家から遠いのが難点ですが、また阿佐ヶ谷か中野から散歩していきま~す。


満月 16:00~ 日・月定休