学生時代に「デザインの敗北」というネットミームを目にしました。
セブンイレブンのコーヒーマシンにペタペタと案内順のテプラが貼られたり、美術館などのかっこいいトイレサインにデカデカと「男子!女子!」という張り紙が後からされた様子です。
見た目を美しくしたのは良いものの、実際のお客さんからは「わかりづらい」と思われ、結局後から案内が足されて台無しになることを「敗北」と表すのは中々面白い表現だと思います。
デザインの仕事をしていると「ここまで説明しなくちゃ伝わらないのか!?」と思うことが多々あります。でも世の中本当にいろんな人がいます。自分にとっての「こうすれば周りにも伝わるだろう」がどれだけアテにならないかは、歴が浅い私でもわかる事です。
ここで思うのは「敗北」をしたデザイナーの方々は「これで伝わるだろう」の加減を間違えたわけでなく、「伝わりやすさ」と「美しさ」を天秤にかけ、「美しさ」を優先しただけではないか?という事です。
その一方で現場は「伝わりやすさ」を優先してしまった。この意思疎通ができていないのが問題です。
敗北の代表例として語られるセブンイレブンのコーヒーマシンをデザインしたのは、佐藤可士和さんという日本で指折りのデザイナーです。ユニクロやTSUTAYA、楽天など名だたる大企業のロゴ製作、ブランディングをした人物で、彼程大衆へのアプローチが上手い人はいないと思います。そんな人物がただ単純にわかりづらいインターフェースを作ってしまうのでしょうか?
あくまで想像ですが、デザインをしている時に「この操作感だとおじいちゃんは使えないかも」ということには気づくと思います。
それでもそのデザインの方が美しいし、わからなかったら店員さんに聞けばやり方を覚えられるだろうと言う事で進めたのだと思います。
しかし、実際の現場からすると「いちいち客に説明するのは面倒」という事で説明テプラを貼ることになります。文字がベタベタと貼られた可哀想なコーヒーマシンが出来上がります。
果たしてこれは本当にデザインだけの敗北でしょうか?
セブンイレブン側から「誰でも使い方がわかる事を優先してくれ」と言われたならば間違いなく敗北です。しかしセブンイレブン内のマシンを作る側(本部?)と現場の温度差を埋められなかったというミスであり、コーヒーマシンのデザインが悪いというだけの話ではないように思います。その仕組みがうまくいっていないという広義の意味での「デザインの敗北」なら納得します。
コンビニ同士の競争が激化する中で大きな目玉であるコーヒーマシンの登場。
その物がかっこよくある事、美しくある事が、どれだけ会社のブランドイメージに影響があるか。それが回り回って未来の売上にどれだけ繋がるか。それが現場に伝わっていなかったのでしょう。
もし現場が、コーヒーマシン出始めの数ヶ月間「使い方わからない」という質問に耐え、説明を怠らずにしていれば、今頃人々は「かっこいいコーヒーマシンの使い方」をマスターしていたと思います。コンビニは人生の中で繰り返し通う場所です。自分で買ったコーヒーマシンの使い方を覚えるように、コンビニのマシンも「使い方を覚える」という時間があってもいい気がします。
まぁ忙しい現場からしたら、そんなのやってられるか!!という気持ちにはなりますね。
このように日本はとかく「わからない」物への対応が苦手です。
場所によっては20年近く前から存在していたセルフレジが、ようやくここ数年で本格的に普及しました。
これも導入初期の「わからない」クレームを恐れすぎた結果だと思います。多少文句は出るでしょうが、さっさと変化を起こせばその後は確実に世の中が効率的になると思います。
Iphoneのイヤホンジャックが無くなった時、世間でクレームの嵐が起きました。しかしAppleは自社の美意識、思想を優先しました。
その結果ワイヤレスイヤホンが普及し、「あえて」使う人以外は有線イヤホンと別れを告げました。
だからデザインは「文句が出ない」だけではいけないと思っています。しかしこの思想を自分達がただ持っているだけなので「敗北だ!」と世間から文句を言われ、時にネタにされるのでしょう。難しい職業です。