「ドリトル」で、ピンときた人の推測は当たりです。


 「動物音声変換器」です。


 以前、電子情報通信学会誌に今世紀に達成した科学者の夢、達成しなかった夢の一覧が紹介されておりました。

 現在のTVなどは当時の妄想のひとつでしたが、やはり実現しなかった装置がいくつかあったようです。そのひとつに、動物との会話変換器が掲げられていました。これを「ドリトル・コンバータ」と勝手に名付けましたが、どうすれば実現可能でしょうか。また、その用途は何でしょうか。


 ドリトル先生は、動物と会話ができました。
 ドリトル先生でなくても、ムツゴローさんのように、動物の反応様式を体系化し知識データベースにすれば会話はできるのではないでしょうか。要するに、その犬やネコはいまどんな気持ちか、いろいろな場面を考慮し、ありうる心理状態の候補を示せば、正確でなくても大体想像がつくと思うのです。私は犬もネコも飼っていないので、気持ちが全然想像できませんが、飼い慣れるとどの程度、会話が可能なのでしょう。


 人名や地名は人間独特の言葉なので、そんな固有名詞はおそらく表現できない、理解できないと思います。しかし状態や動作を示す意志、「おなかが空いた」とか「眠たい」「便意をもよおした」「結婚したい」「でていけ」「なかよしだ」「食べ物がある」ぐらいは、いつも表現しており、翻訳できるのではないでしょうか。動物の顔やしぐさから、そのありそうな項目をリストアップできると思います。


 犬やネコなどの人間と生活した習慣のある動物は、そう難しくなくコンバータが作れると思います。では、牛や馬はどうでしょうか。まあ可能性はあると思います。ウサギや鳥はどうでしょう?しつこいですが、カエルやヘビは?


 これまで、好きなペットというと、犬やネコに限られていました。


 ドリトルコンバータを使うと、いろいろな動物との会話が広がり、見た目のかわいさや従順さだけでなく、飼い主の気持ちによくお似合いのペット、といいますか、「お友達」作りも流行することでしょう。


 ヘビやカエルなんてとても、と言っていた人が、コンバータで話した結果、いちばん仲良くなれたよ、なんてことになる可能性もあるものと空想します。ヘビ・カエルの、いわれなき汚名挽回です。


 さて、応用例です。

 このドリトル・コンバータを人間に対して用いたら、どうなるのでしょうか。


 縁がなければ、無関係・無関心の顔でふるまう都市生活者どうしは、考えようによってはネコや犬よりももっと遠い存在、例えていえば、カエルやヘビのようなものかもしれません。

 そう思っていたほうが楽なのですが、そうもいかない場面もあるでしょう。電車の中の傍若無人な態度、深夜の街の徘徊・・・


 動物の意志が推測できるくらいなら、人間だって推測可能なはずです。「話せばわかる」のに、こんなコンバータを使ったとしましょう。いろいろな声が聞こえてくると思います。


 「かったるいんだよ、そこの人。どうしようと、俺の勝手じゃないか」


と、意外と上品な高齢者のしぐさから聞こえるかもしれません。


「万全を尽くして、この難局を絶対切り抜けます」


と力説する政治家の顔から、


「あーあ、だますのも飽きたな」との翻訳の声・・・


 人間のコミュニケーション習慣では、一応、声に出したりメールで表明したりしない限り、「何も主張しない価値中立」であることが保証されています。

 しかしこんなコンバータが開発されると、応えないノンバーバルな姿勢の中に、それなりの意志や主張を推測できると思うのです。言わぬが花、は、関わらないことの利益を意味しましたが、将来ともそうかどうかはわかりませんね。


 ドリトル・コンバータは、人間関係に大きな影響を及ぼすかもしれません。


 だから、これまで開発できなかった、ではなく、

しなかったのかもしれません。