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とんとんとんドン

伝統芸能、和楽器、舞台と農業を勉強する「地力塾」での日々。
毎月20日の23時58分頃更新。

 

話は少しさかのぼりますが、一昨年の秋に車上荒らしに遭ってしまい、当時使っていた中棹の三味線を含め、弟子入りしてから集めた楽器のほぼ全てを盗まれてしまいました。

お師匠さんや先生方が楽器や道具を再び揃え始めるサポートをして下さったおかげで、お稽古を止める事なく素早く立ち直れたのですが、その中でも特に三味線はすぐに買い戻せる物ではなかったので、続けられるかが心配でした。

 

そんな時、私の三味線の先生、小野越郎さんが太棹の三味線を貸してくださると仰り、不幸中の幸いとでも言いましょうか、初めて念願の津軽三味線を手にする事ができたのです。

それまで中棹の三味線を津軽風に演奏しようとし、どこかもどかしさを感じていた私にとって、その津軽三味線のドシっとした重みと、部屋中にギンギン響く音が、「諦めるな、この先には良い事があるぞ」と言っているかの様に、沈んでいた心を励ましてくれました。

 

それから一年半程ずっとお借りしているのですが、改めて振り返ると、太棹を弾ける様になってからお稽古に対する気持ちも、自分の技術も、大きく変わったと言えます。良い楽器と触れる事は、それだけで成長させてくれる。

 

いつまでもお借りするわけには…と思いながらも、自分の三味線を手に入れる事ができるのは当分先になると思っていました。

 

それが最近なんともありがたい事に、色んな方とのご縁が繋がり、「もう弾かないから…替わりに頑張って沢山弾いて」と言って下さる方から譲って頂ける事になりました。

 

三味線は皮の張り替えが必要なのでまだ弾けていないのですが、一緒に頂いた撥は早速お稽古で使い始めています。両方を交互に使いながら何度も何度も同じフレーズを繰り返し、新しい音色に耳を傾ける。

 

今までお借りしていた撥は、ツーンと澄んだ、繊細な響き。日の出直前の清々しい空の様な、湧水の様な、スーッと染み渡る音色。

 

それにそれに比べて新しい撥は、角が取れた、少し丸みのある音色。ポカポカした日にユッサユッサと田んぼの中を歩く水牛の様な、安定した重みを感じる。上手に使えれば、そんな、のどかな優しさも出せるかもしれない、と思った。

 

弾いているとなんとなく感じる、その素材や作りの特性。それが音色や持った感覚などに現れるのでしょう。

 

慣れている音色と新しい音色の違いに、初めは、どっちの方が良いか、どっちの方が好きか、などと判断しようとしていた。

 

でも弾き続けていると、大事な事に気が付きました。

暑い夏の日、乾いた喉にジュワ〜っと染み渡る湧水と、何もする事のない休日にポワ〜ンと肌を温めてくれる日光を比べて、「どっちの方が良い」、なんて言えるでしょうか。

 

両方の撥にはそれぞれの特性があり、それをどう活かせるのか、どの場面に合っているのか、自分はその曲をどう表現したいのか。大事なのはそこなんだ。

人と同じで、「違い」は比較と批判の的になりやすいけれど、本当はその違いがあってこそ、それぞれ活躍できる場面があり、それぞれの特性を生かせれば、「良い味」にする事ができる。

 

姉弟子の久美ちゃんも今年に入ってから自分の三味線を手に入れた。

それも色々なご縁の繋がりで、吹雪の中東北まで車を走らせた本人に迎えられ、ようやく地力塾の稽古場へたどり着いた。

 

その楽器達が私たちの手元に来るまでのストーリーは違うけれど、最終的にはここ地力塾の稽古場へ辿り着き、それぞれの物語や繋がりを背景に、毎朝音を響かせている。

いつかそんな楽器二つを並べて、舞台で一緒に音色を響かせたいです。