昨年の今頃、広島の海の見える杜美術館で行われたミュシャ展の特別企画で、ミュシャ研究者の千足伸行成城大学名誉教授のギャラリートークがあった。
今回のブログでは、その時の模様を書きたいと思う。
ミュシャといえば、フランスを代表する女優サラ・ベルナールを描いた『ジスモンダ』が有名だが、他の絵画も素晴らしかった。
千足先生のギャラリートークと相まって、ミュシャの芸術世界を思う存分堪能できた。
ギャラリートークの後は、海の見える杜美術館に併設されたフランス料理店「SEIHO OMBRAGE」へ。
千足先生のミュシャに関するトークを聞きながら、小川哲男シェフの美味しいお料理を頂くという、なんとも贅沢な企画である。

緑に囲まれ、空間を広々と使っているので、ゆとりを感じることができる店内だ。

テーブルセッティングも素敵。

千足先生の素敵なトークの後で、ミュシャもパリで愛したシャンパーニュ、モエ・エ・シャンドン・ブリュット・アンペリアルで乾杯。
アミューズは、<モラヴィアへの愛>と題されたお料理。
「"クネドリーキ"とフォアグラのムースリーヌ カシスを添えて」だ。

クネドリーキとは、ミュシャの故郷であるチェコの郷土料理で、小麦粉を練って火を通したものだ。
小川シェフは、チェコの郷土料理をアレンジし、ミュシャ好みの正統派フランス料理に仕上げた。
続いては魚介類を用いた美しい前菜。
<女神たちのダンス>と題された、「マンダリン、バニラ風味ゼリー金箔でシュミゼしたサラダ"ブロンド"」だ。

小川シェフは、かつて東京「ジョン・カナヤ西洋膳所麻布」にて、"ムッシュ"坂井宏行シェフの片腕として活躍した凄腕だ。
「ジョン・カナヤ西洋膳所麻布」といえば、日光金谷ホテル創業者の長男・ジョン金谷鮮治氏がオーナーだった、いまはなき名店だ。
ジョン金谷鮮治氏は、初代シェフの坂井氏に和と洋が融合した料理の開発を指示し、坂井氏は京都の割烹で日本料理を学んだりしたという。
芸術的ともいえる盛り付けは、「料理界のドラクロワ」とも言われた坂井氏の片腕だった小川シェフの独壇場といえるだろう。
続いては、<サラ・ベルナールへ>と題されたスープの登場だ。

「コンソメ・ジスモンダ」と題された通り、スープのカップの下にナツメヤシの葉が敷かれている。
また、スープの実はデーツ(ナツメヤシの種子)が用いられている。
言うまでもなく、ミュシャの代表作『ジスモンダ』で、サラ・ベルナールが手にしているのが、ナツメヤシの葉である。
それはともかく、小川シェフのコンソメが、とんでもなく旨かった!!!
小川シェフのお料理は薄味との噂で、「味がない」と言う話も聞いたことがあり、正直心配もあった。
僕の舌にも確かに薄味だと感じられたが、「味がない」とは全く感じられず、美味しく頂くことができた。
フランスの郊外のオーベルジュのような贅沢な空間、オールドファッションドなフランス料理をベースにした独自のお料理、そして"ムッシュ"坂井譲りの絵画的な盛り付け。
次回のブログでは、そんな小川シェフが奏でる見事なメインディッシュをご紹介したい。
(次回に続く)


