一瞬「小料理屋」のことだと思ったが、「小料理屋」だと粋な女将がお酌をしてくれるような古くからある業態のお店なので、それとは明らかに違う。
では「居酒屋以上、割烹未満」とはどんなお店だろう?
具体的には、次のような特徴のある飲食店が該当するとのこと。
①看板料理は、鮮度の良い食材を、生、焼く、煮るなどシンプルに調理したもの。
②器や盛り付けはスマートに。
③日本酒、焼酎の品揃えが豊富。数種類の日本酒をちょっとずつ味わえる「利き酒セット」も用意している。
④和食をベースとしつつも、洋風の要素を取り入れた創作料理を取りそろえている。
⑤割烹ほど高級過ぎず、居酒屋ほどざっくばらんでなく、すっきりしてお洒落な店内。
⑥軽く飲んで食べて、1人5,000円でおつりが来る。
結局のところ、大切な商用やデート、友人との食事で使うには「居酒屋」では雰囲気がイマイチ。だからといって「割烹」では敷居が高すぎる。
そういった顧客のニーズが、「居酒屋以上、割烹未満」というコンセプトを産み出し、流行させたようだ。
東京や関西の「居酒屋以上、割烹未満」な飲食店は、大手飲食チェーンから個人経営まで百花繚乱。玉石混淆といっていいほど、様々なお店が乱立している。
では広島はどうだろうか?
個人経営のお店はあるが、大手飲食チェーン経営の大バコはほとんど見受けられない。
東京や関西では、高層ビルの上層階に一流デザイナーがインテリアを担当した「居酒屋以上、割烹未満」のお店が多く、人気が定着している。
上層階にありがちな高級レストランと比べるとリーズナブルで、和食をベースにした創作料理中心なので敷居も高くない。
しかも、素晴らしい夜景とシックでお洒落な内装を楽しめるから、客層を問わず人気があるのだろう。広島にも同様のお店が出来れば盛況になると思うが、高層ビルが少ないから難しいのだろうか?
それはともかく、まさに「居酒屋以上、割烹未満」というコンセプトにぴったりの、いや、まさにお手本のような個人経営の飲食店が存在する。
中町の〔田心(でんしん)〕だ。
先日、久しぶりに〔田心〕を訪問した。

雰囲気のある白木の格子戸を開くと、カウンターに設置されている見事な燗銅壺(かんどうこ)に目が釘付けになる。もちろん特注品だ。

カウンターには、炭火焼用の焜炉が置かれ、新鮮な野菜がディスプレイされている。印象的な舞台装置だ。

インテリアも白木を基調とした清々しさで、京都の割烹のような粋な風情がある。
全員坊主頭の若い板前さんのきびきびした動きも、心地良い。
つき出しのじゃがいものすり流しを味わいながら、生ビールをぐいっとあおった。
つき出しって、ありきたりのものだと「金返せ!」って思っちゃうけど、こういう洒落た一品が供されると、逆に気分が浮き立ってくるから不思議だ。

続いては、三原・梶谷農園の有機野菜と自家製燻製のサラダ。燻製にしたサーモンの旨味に、梶谷野菜が全く負けていない。

当夜の料理の白眉は、旬のアスパラガスの炭火焼。ソテーや茹で上げも良いが、炭火焼きにしたアスパラガスの甘みは鮮烈だった。

パンに載せられたカニ味噌チーズは、燗銅壺で適温に温めた燗酒と共に楽しんだ。

素材の持ち味を活かしたシンプル・イズ・ベストなお料理。
そして、美味しい生ビールと、品揃え豊富な日本酒、焼酎の数々。
こだわりの酒と肴を、京都の割烹のような粋な空間で、リーズナブルに味わう幸せが〔田心〕にはある。
(2012年4月26日執筆。「Web旬遊」初出)