が、京都は夜だけが楽しい訳ではないし、背伸びして訪問するお店だけが美味しい訳ではない。
京都は普段遣いのお店もレベルが高い、と思う。千年の古都の伝統が産み出すレベルの高さだろう。
今回のブログでは、京都で味わった朝食、昼食を紹介したいと思う。
まずは朝食。京都で朝食といえば、和朝食を思い浮かべる方が多いかも知れない。
ただ、京都は喫茶店のモーニングのレベルも高い。百万遍〔進々堂〕、寺町御池〔スマートコーヒー〕、四条烏丸〔前田珈琲〕など老舗も多いが、僕は京都に来ると必ず訪れる〔イノダコーヒ〕の朝食を頂いた。
いつもは三条堺町〔イノダコーヒ本店〕を訪問するのだが、今回は初めて〔イノダコーヒ清水店〕へ。

メニューはいつもと同じ「京の朝食」。オレンジジュース、クロワッサン、ハム、スクランブルエッグ、サラダ。究極の朝食、という訳ではないが、心から安心できる美味しさだ。

そして珈琲。珈琲通が唸る挽き立て、入れ立ての珈琲ではない。数十杯分を一気に抽出する創業当時からのスタイルの珈琲だ。かつて谷崎潤一郎や吉井勇も目を細めて味わったことを想像させるような、〔イノダコーヒ〕ならではの、ノスタルジーを誘う風味と味わいである。懐かしさという風味が、僕にはたまらなく愛おしい。
〔イノダコーヒ〕で珈琲やモーニングを味わうと、不思議なことに、普段よりちょっとだけゆっくり時間が流れるような気分になる。何とも贅沢な気分だ。
朝食後は宿をチェックアウトし、腹ごなしに錦市場を歩いた。
新鮮な魚介類や、様々な種類の京野菜を商う店舗が、道幅の狭いアーケードの両側に連なっている。
いつ見ても、食材の素晴らしいディスプレイに、惚れ惚れする。

昼食は軽めに、麺類を食べることにした。京都はそば、うどんの老舗も多いが、今回は錦市場の中にあるお店で頂くことにした。
錦市場の中には、そば、うどんを供するお店が数軒あるが、どこも美味しい。
それら飲食店は、買物に訪れる一般人だけでなく、錦市場で食材を求める料理人も訪れるはずだ。料理人は忙しく、手短に昼食を済ませたいので、麺類を選ぶことも多いだろう。彼らは舌が肥えているから、飲食店も不味いものは出すことはできない。また、商売人はコストパフォーマンスにも敏感だから、旨くとも法外に高いものも出せない。そう考えると、錦市場のそば、うどん店が旨くてコストパフォーマンスが良いのも納得できる。
中でも、僕が好きな〔まるき食堂〕は、寺町通と御幸町通の間にある。尊敬する「酒場ライター」バッキー井上さんが経営する漬物店〔錦・高倉屋〕が、至近に店を構えている。
〔まるき食堂〕は何を食べても旨いが、僕のおすすめは「鳥なんば」。鶏肉とねぎが具になった温かいそば/うどんで、僕はいつもそばをチョイスする。

そばは京都風のつなぎが多い目のそばだが、鶏肉、ねぎ、そして関西風の甘めで薄口のお出汁が旨い。鶏肉の火の通し方が絶妙で、肉は柔らかく肉汁を湛えている。ねぎも新鮮だ。
京都での食事は、ワンコインランチから、高級日本料理店の晩餐まで、他の土地ではなかなか味わえない楽しみを与えてくれる。だから何回も、何十回も通っても、また京都へ行きたくなる。飽くことがない。千年の伝統が培った魔性の魅力だ。
さあ、帰りは大好きな老舗の漬物屋〔村上重本店〕で漬物を買い、近隣の豆腐屋〔近喜〕で名物のおぼろ豆腐を買うとしよう。

京都を離れることは寂しいが、帰宅後の晩酌が待ち遠しいという、何とも複雑な心境だ。
(2012年8月19日執筆。「Web旬遊」初出)