モダンで美味しい和食の店と聞いていたので、予定が決まってからずっと楽しみにしていた。
待ち合わせ時間の前にいつものヘアサロンに立ち寄り、散髪してもらった。その時、担当のスタイリストさんに今夜行く店の話をしたら、彼もその店で飲んだことがあるそうだ。
「pontaさん、そのお店は美味しいです。期待して良いですよ」
美味しい店に詳しいスタイリストさんの話なので、期待にますます胸がふくらんだ。
ヘアサロンに入った時はまだ明るかったのに、散髪を終え外に出ると辺りは夕暮れ時。空はすっかり薄暗くなっていた。
約束まで少し間があったので、金座街の書店をひやかし、時間をつぶした。時間をつぶすつもりが、名ホテル・旅館を特集した雑誌を読みふけっていたら、いつの間にか約束の5分前に。あわてて店へ向かった。
目的のお店〔酒菜 竹のした〕は、立町の広島国際ホテルやラウンドワンの近くにある。
ビルの2階へと続く細い階段を登り切ると、そこに瀟洒な入口があった。

はじめての店の扉を開ける前は、僕はいつも期待が混じった独特の緊張感を感じる。まるで遠足の朝の小学生のような、わくわくどきどきした気持ちだ。
扉を開くと友人の笑顔が見えた。緊張感が一気にゆるみ、僕も笑顔がこぼれた。
〔酒菜 竹のした〕は、料理の美味しさと居心地の良さが人気の創作和食の店だ。間接照明がモダンな雰囲気を演出しているので、落ち着いて酒と料理を味わうことができる。当夜もほぼ満席に近い賑わいだった。5卓あるテーブル席も良いが、今回は小体なカウンターに陣取った。
この日〔酒菜 竹のした〕に誘ってくれた友人は、僕のグルメの師匠の一人。カウンター越しに包丁を握る店主の姿を眺めつつ、畏友と一献傾けながら語り合い、楽しい時間を過ごした。
当夜の宴の皮切りは瓶ビール。料理はアラカルトもあるが、事前に店主のおまかせコースをお願いして頂いた。
目にも舌にも美しい前菜を瓶ビールと共に楽しんだ後、僕は日本酒を注文した。
日本酒で唇を湿らせていると、お造りの盛り合わせが登場。鯛やカンパチは生で、たいらぎ貝、鰆、穴子は軽く炙って、そして鯖は軽く〆て。鮮度が良く、上手に手入れがされたお造りは、噛みしめると口の中で旨みが広がる。もちろん日本酒との相性は抜群だ。

その後も、和食の基本を押さえつつも、店主の技とセンスが光るメニューが続いた。
椀は、揚げた鯛の身、筍、わかめを澄まし汁で頂く、いわば若竹煮をアレンジしたお吸い物。
焼き物は、葱たっぷりの焼き牡蠣、白子の昆布焼き、タコのやわらか煮の盛り合わせ。

煮物は高級魚・きんきの煮付け。

揚げものは季節を先取りした空豆のかき揚げ。

硬軟取り混ぜつつ、旬の食材あり、走りの食材あり。舌で冬の名残と春の訪れを交互に感じることができた。
〆のご飯ものには驚かされた。出汁巻き卵のような形状に見えたが、真ん中を割ってみると中から桜色のご飯が。なんと、明太子をまぶしたご飯を卵で巻いてみたという。いわば和風オムライスだ。

酒肴と会話を楽しんでいたら、あっという間に3時間が経過した。
料理はもちろん趣深く美味しかったのだが、カウンター越しに店主の料理に対する気合が伝わってきたのも、心地良かった。店主の所作に無駄がなく、料理を提供するタイミングは早すぎず、さりとて間断なく、何とも絶妙だった。また、すべてのスタッフの接客から、お客に対する優しさと心配りが強く感じられた。
お腹も心も満ち足りて、友人と二人笑顔で店を後にした。カウンター越しに、ふと目が合った店主が、にっこりとこちらに微笑みかけてくれた。
まんぞく、まんぞく。
店を後にした後、ほろ酔いで通りを歩きながら、友人と当夜の料理の美味しさを語り合うひとときが楽しい。
長時間会話をしたのに、美味しい酒肴を楽しんだ後だと、不思議なことにもっともっと話をしたくなる。そんな時は、いつものワインバーのカウンターに場所を変えて、会話の続きを楽しもう。
気の合う友人との夜は、まだまだ長く、深い。
(2012年3月1日執筆。「WEB旬遊」にて初出)