二、 プットオプション


まずは売りオプション(プットオプション)の買い手から、


また別の、飴の製造販売会社にご登場いただこう。
社長の名前をE氏とする。


E氏はA氏とは違ってイケイケである。 
良く言えばプラス思考の塊、悪く言えば少々おっちょこちょいである。


E氏は南西諸島のサトウキビ栽培面積が激減しているというニュースをA氏と同じように見て、全然別の感想を持った。

砂糖の値段が安くなる!と思ったのだ。



その理由は、以下のごとく


まず、南西諸島でサトウキビが収穫出来なければ、いよいよ輸入を増やさざるを得ないと思う。


三ヵ月後は、さらに円高が進むことが予想される。

円高となればサトウキビは今よりもっと安く輸入出来る。

ゆえに、砂糖の値段は、もっと下がると考えたのだ。



でも逆に上がってしまえば、ダブルパンチ(本業でも損をする)となるので、
ここは手堅く、プットオプション(売りオプション)を買っておくことにした


つまり、租糖(砂糖と同じ値動きをする商品)を、現在の値段で三ヵ月後に10トン売る権利を買っておくことにしたのだ

租糖10トンを140万円で三ヵ月後に売る権利を買ったのである


で、オプション料を7万円とすれば、133万円より値段が下がれば、利益が出る。
その際には、140万円で空売りした後に133万以下になってから買い戻せば利益が出るわけだ。


反対に、値段が上がれば権利を放棄するだけでよい。
その場合は7万円の損失である。



さて、次はプットオプション(売りオプション)の売り手である。 
買い手の名前をY氏とする。

Y氏は、E氏とは反対に、現在の値段で三ヵ月後に10トン売る権利を売ったわけである

その代金(オプション料)は7万円である。

租糖の値段が三ヶ月間据え置き、もしくは上がれば、7万円のオプション料はY氏にとって丸儲けとなる。

もし、下がったとしても133万以上であれば利益は残る。
しかし、133万円を超えて下がり続ければ損失は無限大となる。


つまり、Y氏は租糖の値段がおそらくは上がるであろう、もし下がるにしても三ヶ月以内に133万円以下という急激な下がり方はありえないだろうと思い、プットオプションを売ったのである。




以上、四者の思惑の違い、おわかりいただけたであろうか?
リスクヘッジが目的の人とマネーゲームが目的の人が両方絡んでいるのが特徴である。



コールオプション(買いオプション)は、オプションを買う権利を買う人と、オプションを買う権利を売る人の二種類が
あること。
プットオプション(売りオプション)は、オプションを売る権利を買う人と、オプションを売る権利を売る人の二種類があること。



売買の権利を買う人は権利を行使するか?放棄するか? 自由度を与えられていること、その結果、損失が限られていること。

売買の権利を売る人は、必ずオプション料という果実を得られるが、損失無限大の可能性があること。



以上、おわかりいただけたであろうか?

何っ?
ややこしゅうて、余計わからんようになった?
うーむ!

オプションには売りオプション(プット)と買いオプション(コール)がある。


それぞれのオプションのどちらにも売り手と買い手があり、全部で四種類の人の思惑が交差する。



事実の立方体を4人が4面から眺めていることになるわけだ。




何やて?

わからへんやて?

大丈夫! すぐわかるようになる。





一、 コールオプション




まずは買いオプションの買い手から。



ここで、もう一度飴の製造販売会社社長のA氏にご登場願おう。



A氏は南西諸島でサトウキビの栽培面積が激減しているとニュースで聞き愕然とする。

「まずいっ!」

「飴の原料である砂糖の生産量が落ちて、値段が上がるかもしれない。」




砂糖の現在価格は1kg当たり150円!

三ヵ月後に10トンの仕入れを予定している。


「それまでに、1kg200円を超えれば赤字や!」




ここでA氏はリスクヘッジをするために、買いオプションの買い手となる。

砂糖と同じ値動きをする租糖を三ヵ月後に10トン、現在の価格で買うことが出来る権利を買うのである



ここがミソ。

10トンの租糖を買うわけではない。 

10トンの租糖を現在の価格で買うことが出来る権利であって、決して義務ではないのだ




この権利を買う料金がオプション料である。




租糖の現在の料金を1kg140円と仮定すると総額140万円になるから、オプション料は約定代金の5%で計算すると、大体7万円ぐらいだろう。




こうして、A氏は7万円の保険料という感覚で、原料値上げのリスクヘッジを行う。



不幸な予想が的中し、実際に砂糖が値上がりすれば権利を行使すればよい。


当初に約束した安い価格で租糖を10トン買い、その時の価格で転売すれば本業での損失を補填できるだろう。




この際、オプション料の7万を上乗せした147万を超えて値が上がっていれば、リスクヘッジのメリットを享受できたことになる。。



反対に、当初の予想が取り越し苦労となり、砂糖の値段が下がれば何もいうことはない。

その時は、買う権利を放棄すれば良いだけである。 損失はオプション料の7万円のみとなる。





さて、次はオプションの売り手である。 この人は最初からマネーゲームが目的である。 


名前を仮にX氏とする。





X氏は租糖を三ヵ月後に10トン、現在の価格で買うことが出来る権利を売る

権利を行使するかどうかは相手次第である。 いや、相場次第である。



この場合、X氏はオプション料の7万円だけを、買う権利を売った料金として受け取る。 

しかし、租糖の値段が上がった場合、損失は無限大となる。




X氏が何故、売り手になったかといえば、租糖の値段が上がるとは思っていないからだ。 

たとえ上がるとしても、短期間に147万円を超えてまで値上がりはしないだろうと予測したからだ。


147万を超えて値上がりが続けば、X氏が無限大の損をすることは自明の理である。




次回ではプットオプションの買い手と売り手について述べる。

営業パターン2
オプションをお客様に買わせる。




ここではもう一度、アイスクリーム屋の社長にお客様としてご登場願おう。




営業マン : 「社長お! もうすぐ夏の甲子園でんな!アイスクリームの稼ぎ時でんなあ?」
お客   : 「おお!そやねん!甲子園ではバリバリ稼いだるでえ!8000個売ったるでえ!」




営業マン : 「偉い鼻息でんなあ! そういや甲子園いうたら16年前、育英が優勝した時は、8月やのにぎょうさん雨が降りましたなあ!」
お客   : 「おお!そやった。そやった。あの年はアイスクリームが売れ残ってしもてなあ!えらい目に合うたで!」




営業マン : 「そうでっか!まあ今年は大丈夫やろ思うけど、ぎょうさん雨降ったらえらい事でんなあ! 何や、冷夏やちゅう噂もあるし。冷夏やったら、社長!8000個どころか3000個も売れまへんで!」
お客   : 「驚かすなや!心臓に悪いで!あっ!オマエまた何ぞ買わすつもりやな?」



営業マン : 「かなわんな社長には! でも、ここは念には念を入れて軽く保険を掛けときませんか? 取り越し苦労かもしれんけど。」
お客   : 「ど、どないせえ言うねん? うさんくさい奴っちゃで!オマエは!」




営業マン : 「冷夏になって、売り上げが落ちても困らんような逆転の発想ですわ! 冷夏になったら、値段が上がって得する商品を今のうちに買っておくんですわ。ほんなら、アイスクリームで大損しても、その商品を転売したら儲けが出ますやろ!本業の損を取り戻せますやろ!」

お客   : 「オマエはアホか? そんなことして実際に8月が猛暑やったらどないすんねん! アイスクリームが例年よりぎょうさん売れて儲かるのに、相場でいらんことして、折角のワシの儲けが吹っ飛ぶやないか!」




営業マン : 「さすが社長や! 確かに冷夏が来て、収穫が落ちて、値段の上がる商品は、反対に夏が暑かったら値が下がりますわな。下がった商品を売ったら、社長は損しますわな。 ホンマがめついお人やで!

よろしおます。  もし、猛暑が来て、値段が下がりそうやったら、その商品を買ったり売ったりする義務を放棄させてあげます。 で、冷夏やったら、その権利を使ったらよろしいがな!  社長には権利だけ残って義務は放棄出来るわけや!いや、かなわんな!社長はホンマ強欲やで。 僕はお人よし過ぎますわ。」


お客   : 「ホンマに自分の都合のエエ時だけ売り買いして、都合の悪い時は売り買いを放棄してもエエんか?」



営業マン : 「そら出来ますて! せやから、僅かな保険料や思て払とってください。 もう社長にはかなわんわ! また損してしもた。 僕が会社をクビになったら雇ってくださいよ。」
お客   : 「アホお!誰がオマエみたいなモン雇うか! 」




こうして、一人の営業マンはアイスクリームが売れるか売れないか? 冷夏になるか暑い夏になるか? 雨が降る
か降らないか?

一つの事象のA面(表面)とB面(裏面)をそれぞれ別々のお客様に販売することが出来、両方から手数料をいただいた。

一方のお客様には不安感を煽り、もう一方のお客様へはスケベ心(不労所得)を煽り、刺激することに成功した。