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雑文と音楽

思いつきの散文や好きな音楽を

 

 

 修学旅行が終ると、秋は足早にとおり過ぎていった。

 優斗と杏子は、相変わらず一緒に帰るだけの日々を過ごしていて、それ以上の進展はない。互いの意思確認をしていないためか、優斗は心なしか不安もあった。これだけのかわいい子なのだから、過去にも彼氏がいただろう。今だって自分の知らない人がいるのかもしれないし、いてもおかしくないと思うのである。

 長電話を咎められてから、以前のように帰り路しか話す機会がなくなった。杏子は、優斗が訊かない限りあまり自分の話をしない。優斗は、自分のことだけあからさまに話してきてしまって、杏子のことはまだまだ知らないことが多いのである。

 もっと杏子のことを知りたいがいろいろと詮索するようで単刀直入には訊けないし、結果を知るのも怖い気がしていた。

 杏子といると、楽しい反面、もやもやもしてくるものがあった。

 

 もうすぐ期末テストが始まる。

 しばらくは、テストに集中しなくてはならない。一年生の時のように赤点をもらうわけにはいかないのだ。そう思うと、焦りと不安と杏子への想いがないまぜになってパニックになるのだった。

 テスト前は部活も休止だ。テストに備えて、皆、足早に帰っていくのである。

 そんなある日のこと、優斗が教室に置きっぱなしにしていたギターを持って帰ろうと取り行くと聞いて、杏子もついてきた。教室には、優斗と杏子の二人しかいない。

 日中、あんなにザワザワしていた教室は静寂に包まれ、一瞬、見知らぬ場所に置き去りにされたような感覚に囚われる。

 チョーク跡の残る黒板に誰かの残像が揺れながら消えていった。壁に張り出された期末テストの予定表が剥がれかかって風に揺れている。

 優斗が中途半端に開け放しにされていた窓に手をかけると背中越しに杏子が声をかけてきた。

「どうかした?」

「いや、別に・・・」

 優斗は、杏子の声にふと我に帰ると不自然に笑顔を返す。

「ならいいけど・・」

「ねえ、何か歌って」

 杏子は、優斗のどこか物憂げな様子を見て、気分を変えようとした。

「え? ここで?」

「うん、誰もいないからいいじゃない」

 杏子にねだられては優斗も断れない。

「じゃあ、やってみようか」

 優斗は、閉めかけた窓をまた少し開けると、ケースからギターを取り出した。

 窓際の机に腰かけながら何を歌おうかなと考える。やがて、何かを思い出したようにおもむろに歌い出した。


 エルトン・ジョンの「Your Song」だ。

 

It’s a little bit fanny・・・

This feeling inside・・・

 

 まだ、うろ覚えで何回かつっかえたが、杏子はじっとしたまま聴いている。

 西陽に赤く染まった杏子の左ほほに髪がなびくたびに心が締め付けられていく。優斗は杏子が自分にはもったいないのかもしれないと思えてきた。

 でも、今は、君のために歌っている。

 これがぼくの歌、君への歌だよ。

 優斗は、段々、歌に熱が入ってきた。気がつくと分けもなく涙が溢れていた。それでもかまわず優斗は歌い続けた。

 

 I hope you don’t mind・・・

 That I put down in words

 How wonderful life is while you’re in the world.

 

 途中でコードがわからなるとアカペラで続けた。

 溢れだした感情は止められない。

 

 この気持がどうか杏子に届くように・・・。

 

 すると、突然、教室の後ろのドアがけたたましく開いた。担任の菱川だった。

「何やってるんだ!」

 二人は、びっくりすると同時にせっかくの雰囲気が台無しにされて憮然としたが、担任に怒るわけにはいかない。

 確かに、俺たち何しているんだろう?優斗は、我に返ったように慌て始めた。

「もうすぐテストだろ?さっさと帰って勉強しなさい!」

 担任に窘められて、優斗はそそくさとギターを仕舞った。その間に、担任は窓を閉めたり、教室内を確認したりしながら二人が帰るのを待っている。

 二人は、バツの悪い顔で教室を後にした。

 

「いいところだったのになあ」

 歩きながら優斗が自嘲気味に笑う。

「あの曲、なんて曲?」

「ん?あれ?エルトン・ジョンの“僕の歌は君の歌”って曲だよ」

「へ~、初めて聴いた。いい曲だね」

「そうだね。あの曲、初めて聴いて好きになったんだ。たまたま買った雑誌に譜面がついててね。見たら弾けそうだったんで、ちょっと練習してたんだ」

 音楽の話になると、また優斗は饒舌になっていく。

 話に夢中になっている間に駅が見えてきた。もうお別れだ。テスト中は、こんな風にできないかなと言うと、そうだねと杏子も返す。

 優斗がバイバイと手を振ろうとすると杏子が何かを決心したように叫んだ。

「そうだ。テスト終わったらさ、うちに来ない?」

「え?」

 突然、言われて驚く優斗だったが了解したのは言うまでもなかった。

(自分の部屋に招くってことは・・・)

 優斗は、何かを期待すると急に心臓がバクバクしてきたのだった。

 

 

 

 

 

 ффффф ффффф ффффф

 

 さて、本日取り上げるアルバムは、ELTON JOHNの『GREATEST HITS』(1974年)である。

 



 エルトン・ジョンの1970年から74年までのヒット曲を集めたベスト盤である。

 もちろん、最初のヒット曲「Your Song」も入っている。というか、この曲を聴きたいために買ったようなものである。

 洋楽を聴き始めた頃に買ったシングル・レコードのひとつで、持っていたはずだが見つからないのでこの曲の入ったベスト盤CDを買ったという次第である。

 

 ベスト盤だけに、やはり、名曲ぞろい。

 この時期がエルトンの最も輝いていた時期なのだろうか。

 

 久しぶりに聴く「Your Song」。

 エルトンのソフトな声と美しいメロディが当時を思い出させる。

 

 

Elton John - Your Song (Top Of The Pops 1971) - YouTube


 

Goodbye Yellow Brick Road (Remastered 2014) - YouTube