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雑文と音楽

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 運動会の競技の中で最も盛り上がる種目、フィナーレを飾る100メートル・リレーが間もなく始まる。

 優斗は、この時を待っていた。出場選手の中に北村杏子がいるからである。北村が出場すると知ったときは、意外に思った。そんなに脚が早かったのか。テニス部に入っていたのは当然知っていたが、駆足が早いとは知らなかった。自ら立候補したわけではなく、推薦で選ばれたのである。一年から一緒にいたのに、推薦されるほど駆足が早かったことを自分が知らなかったことに内心ショックを覚えていた。

 杏子は、2番手を走る。ちょうど、7組の前を走るのである。自陣でカメラを構えていれば杏子の写真を撮ることができる。こんな格好なチャンスはない。杏子の写真を撮る大義名分ができたわけである。

 優斗は、リレーがスタートする前からカメラを構え、ピントを合わせる練習に余念がない。カメラを回していると、突然、大きな顔がレンズを覗いてきた。

「いえ~い!優斗~ 撮ってえ!」

 ファインダーから目を離すと、すぐそばに橋口が立っていた。隣には大林加奈子もいる。カメラに収まろうと既に二人ともポーズをとって待ち構えていたのである。

「OK !」

 快く引く受けたふりをしたもののここで余計にフィルムを使うわけにはいかない。優斗は2度シャッターを切ったが、そのうち1回はズームにしてフレームには加奈子だけを残していた。

 

 いよいよ、100メートル・リレーのスタートである。まずは、女子選手の登場である。

 優斗は、逸る気持ちを抑えながらカメラを抱えていた。

 スターターの合図とともにスタートが切られた。始めは肉眼で自分のクラスの順位を確認する。選手が走る速度に合わせながらファインダーを覗き始めて、まずはシャッターを切る。

 二番手の杏子にバトンが渡された。杏子がカーブにさしかかると今度はこちらに向かってくる。迫ってくる被写体をフォーカスするのは難しいがピントが合っているか確認している余裕はなく、とりあえずシャッターを切った。目の前を横切るときにはレンズを広角にしてカメラを流しながらシャッターを切る。そうすることにより、背景がぼやけながら横に流れ、スピード感が生まれるのである。

 うまく撮れただろうか。

 杏子の写真に集中した後は、とりあえず当たり障りのないように何枚か写真を撮っておいた。

 ファインダーを覗いていると意外に周りの状況がわからないものだ。リレーの結果が惜しくも2位だったことは橋口から聞いた。

「おつかれ~」

 応援部隊が戻ってくる選手たちに慰労の言葉をかける。

 優斗は、またカメラを構えた。そして、ファインダーの中で杏子を探した。あ、いた。

 すかさず、シャッターを切る。体操着姿の杏子は可愛いと思った。長い髪をポニーテールにして、上から鉢巻をしている。いつもの雰囲気とは違う杏子がファインダーの中をゆっくりと走ってくる。

 

 運動会が終ると、優斗はフィルムを現像してもらうためカメラの巻き戻しクランクを回し始めた。すると、2、3回転したところで手ごたえが無くなり、スルスルと回ってしまう。優斗は、ドキッとした。やってしまったか。念のため、一定の回数を巻き戻して、裏蓋を開けてみたが、わからない。フィルムをセットしたあと、フィルムを空巻したときにクランクも同時に回転するはずだが、確認するのを忘れていた。初歩的なミスを犯してしまったか。フィルムを巻いても空回りしてきちんと巻かれていなかったに違いない。

 念のため、カメラ店に現像を依頼してみたが、案の定、何も映っていなかった。

 やってしまった。あれほど、出来上がりを楽しみにしていた沼田にどう言い訳したらよいのか。 それよりも杏子の写真も撮れていなかったことが悔しくて情けなく、優斗は、かなり落ち込んでしまった。何よりもあんなに夢中になってシャッターを切っていた自分がアホのように思えたのだ。

 運動会の代休明けに登校すると、真っ先に沼田に謝罪した。沼田も相当がっかりしたが、仕方ないとむしろ優斗を慰めてくれたのであった。

 

 放課後、借りたレンズを返しに写真部の部室を訪れた。

「どうだった?いい写真撮れたかい?」

 青木がレンズを受け取りながら訊いてきた。

「大失敗だったよ。フィルムがきちんとセットできていなかった。空回りしていたの、全然気づかなかった」

「ああ、初心者がよくやるミスだな」

 レンズをチェックしながら青木は笑った。

「もう、がっかりだよ」

「そんなに落ち込むなよ。ま、いい経験したと思ってあきらめな」

「それにしてもな・・・悔やまれるよ」

「何が撮りたかったの?」

「ん?」

 優斗は、躊躇したが他に誰もいなかったので白状した。

「いや、実はね、北村の写真を撮りたかったのさ」

「北村か、あの子かわいいよな・・・」

 青木は笑っていたが何かを思い出した。

「ああ、そうだ、北村の写真ならあるよ」

「え?どういうこと?」

「ちょっと、待って」

 青木は、暗室に入ると少し経ってから一枚の写真を持って戻ってきた。

「これ、欲しけりゃあげるよ」

 渡された写真には、恥ずかしそうに少しうつむいた北村杏子の上半身が映っていた。

「え?こんなのいつ撮ったの?」

「1年の時だよ」

「よく撮らせてくれたね?」

「カメラマンは遠慮してたらいい写真撮れないよ。そこは多少強引にね。でも、北村、嫌そうじゃなかったよ」

 青木がカメラを構えている先で照れながらも写真に収まろうとしている杏子、そんなシチュエーションを想像した優斗は少し不愉快になったが、写真を撮らせてくれと言い出す勇気もなく、隠れて盗撮まがいの撮り方しかできない自分が情けなかった。

 優斗は、青木からもらった杏子の写真を大切に定期入れにしまい込んだ。これで、いつも杏子と一緒だ。

 

 

 

 

 

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 さて、本日取り上げるアルバムは、JOHNNY WINTERの『ROOTS』(2011年)である。

 



 ジョニー・ウィンターのスタジオ録音盤としては7年振りにリリースした作品で、アルバムタイトルどおり、ジョニーが聴いて育ったという全曲ブルース・ナンバーのカヴァー集である。

 

 お馴染みのクラシック・ナンバーばかりで演奏はお手の物という感じであるが、ソニー・ランドレス、ウォーレン・ヘインズ、デレク・トラックスなど多彩なゲスト・ミュージシャンが1曲1曲個性的な演奏で花を添えている。

 

 この頃は、ジョニーもまだまだ元気だったな。

 

 ビルボードのブルース・アルバム・チャートでは4位まで達したとのことである。

 

※feat. Susan Tedeschi

Bright Lights, Big City - YouTube

 

※feat. Derek Trucks

Dust My Broom - YouTube