放課後、優斗が写真部の部室を訪れると今日は6組の淵本隆がいた。優斗にオールマン・ブラザーズ・バンドを教えてくれた男である。
ちょうどギターを弾きながら歌っているところであった。隣に座って聴いているのは、小山であった。
歌っていたのは、ニール・ヤングの「Heart of Gold」だ。淵本がギターを弾くことを知らなかった優斗はびっくりしてその場に立ちすくんでいた。
というのも、ギターが上手いのである。耳コピしたというニール・ヤングの独特のフィンガー・ピッキング奏法が実に上手かった。淵本にもこんな“芸”があるとは知りもしなかった。
橋口も拓郎の歌が上手かったし、淵本もギターは優斗より上手い。二人ともこんな“腕”を持っているのに出し惜しみをする意味がわからなかった。なぜ自分のように人前で披露しないんだろうと優斗は思うのだった。
むしろ、さほど上手くもないのに出たがりの自分の方が恥ずかしくさえ思える。
ただ、救われたのは淵本の歌が少し貧弱だったことだ。歌なら自分の方が勝ってるな、自分はギターより歌で勝負するからいいと動揺を鎮めようとした。
「ギター弾けるんだ?上手いね。」
優斗は、淵本が歌い終るのを待って正直に褒めた。
「隆ちゃん、ほんと上手いよね」
小山も相変わらずダルそうだが同じように褒める。
「これ必死でコピーしたよ」
ギターを抱えたまま淵本が答える。
「聴いただけでよくコピーできるもんだね。ギターはいつごろから弾いてたの」
「前からやってたよ。でも、部活があるとね、なかなかできなくてね」
「それにしても上手いよ。他にも何かできる?」
優斗が催促すると、今度は「Don’t Let It Bring You Down」を歌い出した。
「ちょっとキーが高いや」
淵本は歌い出すとすぐに咳き込み、辞めてしまった。ちょっと、考えると「Cowgirl In The Sand」を歌い出した。
よくよく聴いていると、淵本の貧弱な歌も、か細い声で歌うニール・ヤングの曲にフィットして悪くないのではないかと思えてきた。
「文化祭でやれば?」
クラブや同好会に所属していなくても“有志”として実行委員会に申し出れば、出演枠がもらえるのだ。試に優斗がふってみた。
「いいよ、俺は」
「でも、もったいないじゃん」
「いや、こうやって個人でやっていた方が性に合ってるよ」
「そう?」
淵本の演奏を聴いているうちに、優斗は段々自信を失っていく自分を感じていたが、淵本が文化祭にでないということがわかると内心安心したのだった。淵本のように上手な奴が出ると自分がチープに見られてしまうと思ったからである。
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雨が降ったり風が吹いたりで思うように大掃除がすすまないので、カセット・テープの整理を始めたが収拾がつかなくなってしまった今日この頃である。
さて、本日取り上げるアルバムは、NEIL YOUNGの『HARVEST』(1972年)である。
ニール・ヤングの4作目となるソロ・アルバムで、超有名な作品だから説明するまでもないくらいの名盤である。
全体的にアコースティックなサウンドとハーモニカの音色がゆったりとしたムードを漂わせる。
※お馴染みの曲「Heart of Gold」、ライブ映像で
※重いテーマに思いサウンド「Alabama」
https://www.youtube.com/watch?v=EVG7U9UDi2E&list=PLliPCDRfP6LJFgyuE6O7AMU2es1zJZ2Jb&index=8


