「テレビゲーム」というジャンルは進化した。
膨大な記憶容量を誇る脳波のコードと大量生産された薬。
アクション、格闘、恋愛、ホラー、アドベンチャー、シューティング、
大脳を張り巡らす毛細血管のように細分化されたジャンル。

「今日はどれにしようかな?このゲームにしようっと」

近未来。ゲームハードというものは無くなった。プレイステーション3も
ニンテンドー3DSも姿を消していた。ハード(機種)は廃れたのだ。
あるのはゲームを供給する開発・販売メーカーのみであった。
時代は変わった。この日々忙しい中、ゲームをする人はあまり居ない。
ゲーム離れが加速していく中、出された起死回生のアイディアは
「寝ながらゲームをする」というものであった。人は夢を見る。
その夢をコントロールしてゲームのようにさせるというもの。
無害な睡眠薬によって脳波を調整、あたかもファンタジー世界や
パズルゲームの世界などを作り出す。FPSでは実際に銃を持って
撃ち、そして仲間と行動する。疑似体験。それは痛みも無い。
このゲームの「革命」とも言えるものにより、爆発的に
ゲームソフト(睡眠薬)は増えていった。昼寝するついでに
ゲームが出来る。人の三大欲求の内の睡眠欲までも満たされる。

「じゃあ、おやすみなさい。今日はここら辺まで進もう」

彼女はアドベンチャーゲームを選んだ。登場人物の一人になりきり、
情報を収集しながら世界の謎に挑んでいくというゲームだ。
疑似世界の東京を駆け回って情報を集めていく。
それでは彼女がどうなっていくか?ゲームを追っていこう。

「情報ありがとうっ!!」

簡単なゲームだ。これなら今日中にクリア出来るかも。
結構高いゲームだったから損しちゃった気がする。まぁいいけど。
階段を駆け下り、そんな事を思いながらも次の情報提供者の元へと
向かう。街を歩いていて感じる事があった。リアル(精巧)だ。
それにしてもリアルだった。ビル群や背景が。とても疑似とは思えない。
どれだけ開発費を掛けたのであろう?確かに大手開発メーカーだけど。
モブキャラ(NPC)もとてもよく作られている。現実の人と変わらない。

いいね。大作ゲームをやってるって実感があるよ。

今、グラフィックに関しては最高峰のゲームを
自分はやってるかもしれない。そんな高揚感、感動があった。

「んぐっ!?」

ゲーム画面、いや目の前が歪んだ。ゲームが途切れたのである。
バグか?いや違う。では薬が切れたのか?どうやら違う。

「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「もう!ママったらゲームしてたのに起こさないでよっ!!」
「ちょっと早く起こしちゃったわね。まぁでも学校に行く準備しなさい」

ふざけんな、と思った。こういう予測不可能な事があるから困る。
昔のゲームで言うと急にゲーム機のリセットボタン押されたとか、
ゲーム機をずらされて画面がバグったりとかああいうのに似てるのかな。

「美樹ちゃんそれでさー、ママのおかげでゲームが途中で終わったの」
「それはそれは御愁傷様。南ちゃん、御愁傷様」
学校に行く通学途中。私は友達の美樹ちゃんに愚痴をこぼしていた。
「あぁ、そうだ」
「?」

「南ちゃんに情報を提供しなくちゃね。
えーっと、世界の謎を解くには……、次は大崎駅に行ってね。
ホームの駅員さんに喋りかければいいよ」

「え……?」
「南ちゃんに情報を提供しなくちゃね。
えーっと、世界の謎を解くには……、次は大崎駅に行ってね。
ホームの駅員さんに喋りかければいいよ」
背筋がぞくっとするのを感じた。嘘?え?
私は走った。急いで家に戻った。まさか?これは夢だ!!
いや……、昨日の夜はゲームして寝てるんだから夢を見るはずがない。
じゃあこれは何だ?何が起こっている?

「お母さんっ!!!!」

「あらどうしたの?早く学校に行きなさい」
「お母さん!!おかしいの!!なんかね……美樹ちゃんがっ!!」

「あらどうしたの?早く学校に行きなさい」
「あらどうしたの?早く学校に行きなさい」
「あらどうしたの?早く学校に行きなさい」
「あらどうしたの?早く学校に行きなさい」
「あらどうしたの?早く学校に行きなさい」
「あらどうしたの?早く学校に行きなさい」

「ひぃっ!!??」
なに!?なになになに!!??これは……ゲームなの?
でも私のお母さん。正真正銘の私のお母さんなのに?
身体の震えが止まらなかった。涙がこぼれそうになる。
もう……、お母さんではない別の「何か」だ。
まさこれはゲームなのだろうか?私の頭がおかしくなったのか?
しかしゲームらしきインターフェース(体力ゲージなど)が見当たらない。
視界のどこにも無い。ゲームなのか?ゲームではないのか?

「……っ!!」

検証する方法を思いついた。死ねばいい。
もし、死んでもゲームだったら視界が切り替わって再スタートを
するはずである。出来るだけ痛くない死に方……、そうだ。
漂白剤と洗剤を──、

「あちゃ~、BAD ENDになっちゃったよ。死んじったー」
「このノベルゲー、つまんねーな。まぁ最後までやるけど」
「だな」

青年二人がPCのノベルゲームをやって「南」というキャラを操っている。
近未来という世界はゲームで、それで彼女自身がゲームキャラだった。
だがこの青年二人も「ゲームのキャラ」でこれも「ゲーム」である。

「なんだよ、ゲームのキャラを操ってるキャラを操るゲームかよ。
なんだよこのゲーム、糞だな」

そしてこのゲームをやっているこの人もゲームのキャラでゲームである。

「ゲームのキャラを操っているキャラを操るキャラを操るゲーム?
斬新だなー。面白いゲームだなぁ」

そしてこのゲームをやっているこの人もゲームのキャラでゲームである。

「ゲームのキャラを操っているキャラを操るキャラを操っているキャラを
操るキャラを操っているキャラをををををををををおおををををを







お」

ゲームはコンピュータである。そしてコンピュータが人類の脳の
処理能力を超える日が来るかもしれない。その時、ゲームはゲームでは
なくなり、精神を破壊するだけのものになるかもしれない。

部屋には睡眠薬が転がっていた。
無音でとても静かな部屋に。

~END~

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