私は……歩けない。だから歩いてる人とか見ると腹が立つ。
腹が立つと同時にうらやましい。自由に歩けてうらやましい。
私はずっと……ベッドの上だ。
一日はベッドの上だけで終わる。ずっと寝たきり。
前までは普通に歩けてたけど、12歳の時の交通事故で全てが変わった。
下半身不随。
それに2歳年下の妹を亡くした。両親は無事だったが、
長女の私だけがこうして生きている。いや、生かされている。
何の楽しみも無いこの世の中を。
中学校生活も、そしてこれからの高校生活も……私は病室で過ごす。
ずっと。大人になってもここで過ごすのだ。
拷問に近い。生き地獄だ。──そう思っていた。
だが、思いもしない楽しみが出来た事でそれは変わっていく。
「クリスマスにサンタさんと出会う事」が楽しみになったのだ。
そう。サンタさんは実在すると思っている。
まぁとりあえず、サンタさんと初めて出会った時の話でもしようか。
「クリスマスの夜に」 デラベッピンレベル4


■ ■ ■
13歳。4年前の12月24日深夜。
病院に入院して半年ぐらい経った頃。私は荒れに荒れていた。
かろうじて動く腕を動かしては暴れ、「今すぐ殺せ」とか
「さっさと足を動かせられるようにしろっ!ヤブ医者め!!」と
とにかく周りに当たり散らしていた。今思うと申し訳ない事だ。
世間はクリスマスとか言うが、病室にサンタなんて来ない。
プレゼントも貰えないだろうと思っていた。
そう思っていたが、サンタは来たのである。
「いやっほーーーー!!!お元気ー!!!!??」
その大きく、テンションの高い声で私は起こされた。何だ?何が起こった。
個室の扉の方を見るとサンタの衣装を着た、小柄な少女が一人。
ぶかぶかな衣装を着て、大きな大きな白い袋を肩にしょっている。
「お元気してるぅ?」
なんだこいつ……。いきなりなんだよこいつは……。
それが第一印象だった。なんだこいつ。
「お元気してるぅー?」
「うるさいから静かにして」
そんな一蹴する言葉に彼女は一瞬きょとんとしたが、
途端にほっぺを膨らませる。
「せっかく会いにきたのになんだよそれ。
あーぁ、プレゼント欲しくないの?とびっきりのプレゼントだよ?」
袋をぱんぱんと手で叩きながらこちらに近づいてくる。来んな。
「私の顔の近くに来ないでよ……。プレゼントってなにさ?
あんたはサンタって訳?私よりちょっと幼そうなのに?」
「イエスイエス!マイネームイズサンタさん!!」
サンタという名前なのか?こいつは。
しかし、さっきから笑顔の絶えないやつである。
でもプレゼントという言葉には惹かれた。肩に担いでいる大きな白い袋。
いったい何が入ってるんだろう?
「まぁとにかくプレゼント置いたら、さっさと帰ってよね」
ベッドに横になったまま彼女を見上げる。ホントにさっさと帰ってほしかった。
トラブルでも巻き起こしそうなこの雰囲気。オーラが彼女にはあった。
「プレゼント下さいって言ったらあげるよ。さっきからそんな言葉遣いじゃ
だーめ!悪い子にはプレゼントあげちゃダメって規則あるからね」
どんな規則だよ。サンタの業界も厳しいな。
「はいはい。プレゼント下さいな」
「それが人に物を乞う態度かなー?この尿道カテーテル引っこ抜こうか?」
「やめろ!!!!」
カテーテルは痛い。引っ張られると痛いし、抜く時は更に痛いのだ。
どうやら選択権は無いらしい。仕方ない……。
「……プレゼント下さい。サンタさん」
「よーし、良い子良い子。じゃあプレゼントはこれだよ。どーぞ」
靴だった。白いスニーカー系の靴。
「ふざけんなあああああああ!!!!!!」
深夜の病院でも関係無い。私の大声が狭い病室に響き渡った。
「ふざけてないよ?」
またきょとんとしたその表情がイライラを募らせる。
「私は歩けないんだよ!!!!靴なんて……っ!!!!」
「いつか歩けるようになった時のためだよ。
まさか君は最初っから諦めてるのかな?もう自分は歩く事が一生出来ないと」
「なに……?」
「人間の寿命は80年だよね?まだまだ君は時間もたっぷりある。
それに医療技術もこれから進むでしょう。人間は未知な部分も多い。
歩けるようになれる可能性は最初からゼロなのかな?そうじゃない」
彼女は私の目を真っすぐ見ながらひたすら言葉を並べていく。
まるでスイッチが入ったかのように言葉を流していく。鮮やかに。
「ゼロというのは変化が起こる事も無い。永遠のゼロ。全くの無。
でも君はどうだい?今、呼吸をし、私の言葉を聞き、理解しようとしている。
君はゼロじゃない。可能性があると言っているんだよ」
彼女が私の手をぎゅっと握った。
「冷たい!!!」
「あっ、ごめんごめん。知ってる?手が冷たい人は心の中はあったかい」
今のはゾッとする冷たさだった。この子はなんだよ。深夜の病院に……。
「まぁ、とりあえず……1年後の24日にまた会いましょう」
彼女はそう言って颯爽と病室の外へ歩き出した。
「おいっ!!待て!!!!」
私の手元に残ったのは靴だけ。何とも言えない不思議な体験である。
■ ■ ■
14歳。3年前の12月24日深夜。
「いやっほーーーー!!!お元気ー!!!!??」
彼女は1年前と変わらない姿で現れた。相変わらずのサンタコス。
「ちょっと髪伸びた?う~ん、まだ病室に居るって事は靴が履けてないって事ね」
確かに髪は伸びた。セミロングからちょっとロング気味になっている。
でも今はそんな事より……。
私は彼女の胸ぐらを思いきり掴んで引き寄せる。
「うわっ!!??」
「……待っていたよ。説教サンタ。お前をギッタギタにするために
腕の筋力は相当鍛えた。とりあえず殴らせろ」
「……殴ったらカテーテル引っこ抜くよ」
「……」
私は手を離した。そうされちゃ敵わないからだ。
「なんだか懐かしいねぇ。1年ぶりだねぇ。って事で今年のプレゼントは」
彼女はすごくニヤニヤしていた。気持ち悪いくらいのニヤニヤ。
「はいはい。プレゼント下さいな。サンタさーん」
「ひどい棒読みだなぁ。でもあげるよ。今年のプレゼントはこれ」
スカートだった。オレンジ色の。
「……ふざけんな、っていう言葉も出ないわ」
見ての通り、私は四六時中パジャマだ。スカートなんて履く機会も無い。
「君はなんとか1年を過ごしたみたいだね。どう?なんか進展はあった?」
「腕の筋力が上がった。あと暴れるのはやめた。趣味で絵描くようになった」
「絵?ちょっと見せてよ!!!!すっごい気になるなぁ!!!!」
「……そこの引き出しにキャンパスノートがある。私の傑作さ」
「ふふ~~ん……。どれどれ……」
彼女はごそごそと引き出しを漁る。目が輝いてるなぁ……。
目的のノートを発見し、真剣な目で見始めた。
「どうだ?上手い絵だろう」
ぱらぱらとめくっていき、最後まで読み終わって満足したのか、
バンッ!と勢いよく両手でノートを閉じる。
「あはははは!!こりゃ、すっごく下手くそだ!!!!」
「てめぇ!!!!!」
胸ぐらを掴もうとしたが、間合いの外だった。糞が。
「もっと上手くなって私を見返してよ。1年後に」
にこにこと笑いながら、あっけらかんとした口調。本当にいらっとする。
「このやろぉぉ~~~。お前のような小学生に言われるとは」
「私も来年は中学さ!!サンタでも中学!!」
「……お前はずっとこういう嫌みな仕事をしてるのか?」
「失礼な。こういう嫌みなプレゼントは君だけだよ。知ってる?
好きな女の子には嫌がらせしたくなる心理を」
「私の事が好きなのかよ?お前とはあんまり知らない仲なのに?」
「いや知ってるよ私は……。君の事を昔からよく知ってる。
君は頭が良い事も、交通事故でこうなってる事も」
「気持ちの悪いやつだ」
「よく言われる」
彼女はへへへっと笑った。なんだこれ……どこか懐かしい雰囲気だ。
「まぁ、とりあえず……1年後の24日にまた会いましょう」
「おいっ!!待て!!!!もっと話がしたい!!!!」
彼女は病室を出ていった。相変わらずの決め台詞だなぁ。
手元にはこれで靴とスカートとなった。着る日は来るのだろう?
■ ■ ■
15歳。2年前の12月24日深夜。
「いやっほーーーー!!!お元気ー!!!!??ってアレ……?」
「……」
私はこの時期、相当危ない状態であった。肺炎を患い、集中治療室に居た。
彼女がこうして来た事もほとんど知らない。
「……苦しいの?大丈夫?」
病室内に響き渡る人工呼吸器の音と心音計の音。それ以外はほとんど無音。
「……ちょっと引き出しの中を失礼。わっ!絵上手くなってる……!!」
彼女はパラパラとめくりながら椅子に座っていたと思う。
「なんだこれ?日記??」
12月22日
あともう少しであの説教サンタと会える。楽しみだ。皮肉だけど私にとって
1年で楽しみな行事となってしまっている。今年は何をくれるんだろうか?
どうせ帽子とかに違いない。あいつはアウトドア系にしたいみたいだしな。
「……帽子。当たりです」
彼女は袋からオレンジ色の帽子を取り出した。値札も付いている。
「1200円だけど値札はそのままでいいや。ペンちょっと借りるよ」
クリスマスプレゼントです。サンタより。
「えへへへー。喜んでくれるかな?」
12月21日
初めて車いすに乗った。まだ歩けないが自由に動けるのは楽しい。
説教サンタに会うのが楽しみだ。きっと驚くだろう。
「えっ!??車いす乗れるの!!??」
「ごほん!ごほん!!」
「あっ……大声出してごめん。凄いなぁ。君は凄いや。
生きようとする気力があるんだから君はきっと大丈夫だよ。
だから死なないで。こんな所で死なないで……生きて……」
彼女の手がおでこに重なる。冷たい。相変わらず冷たい手だ。
「まぁ、とりあえず……1年後の24日にまた会いましょう」
またしても決め台詞を吐き、彼女は病室を出ていった。
■ ■ ■
16歳。1年前の12月24日深夜。
「いやっほーーーー!!!お元気ー!!!!??」
彼女は2年前と変わらない姿で前に現れた。
「2年ぶりだな。サンタさん元気してたか?」
「2年?1年前にも来たんだけど君は寝てたからさ」
「あぁ、この今被ってる帽子をくれたんだろ?ありがとな」
「君がお礼を言ったのは初めてだね。嬉しいなぁ」
私は足に力を入れた。ゆっくりとゆっくりと
松葉杖でベッドから立ち上がる。
「うそ……」
「うそじゃねー。マジだよ。ここまで回復したんだ」
よろよろと近づいた。
「お前、意外と背が小さいんだな。ざまーみろ!はははは!!!」
「君に言われたくないなぁ!!プレゼントあげないよ!!?
なーんてねっ!!」
2人で笑い合ったのは初めてだった。いつの間にか……、
こいつと私は友達になっていた。不思議だ。
「では今年のプレゼントはこれ」
「なんだこれ?鍵……?」
「部屋の鍵。私の部屋の」
「はぁ?お前の部屋の鍵??」
「1年後のクリスマスになれば、その鍵を使う時が来るよ」
「来年はお前の部屋へご招待って訳か?そりゃ楽しみだ」
「それと今年はオマケでこれもあげます。カジュアルな白い服」
「やけに大サービスじゃないか」
「こんなちっぽけな鍵1つじゃ怒るかな?って」
「……べつに怒らないけどな」
「まぁ、とりあえず……1年後の24日にまた会いましょう」
「おいっ!!待て!!!!」
「何?」
「お前、名前は?そして一体何者なんだ?
前に会った事がある気がする。お前と居るとなんか懐かしいんだ」
「……1年後に教えてあげるよ。だからそれまでにちゃんと退院してね?」
頑張る事にした。絶対に退院すると。
■ ■ ■
17歳。12月24日昼。
急遽、退院する事になった。急いで退院の準備をする事になったのだ。
しかし外へ出るのに着ていく服が無い。いや、あった……。
白いスニーカーの靴、オレンジのスカート、
オレンジの帽子、白いカジュアルな服、
この4年間で貰った物で病院を退院する事となった。なんだか感慨深い。
不思議とこれらの服はサイズも合っていた。そして似合っていた。
……不思議だ。あ、帽子の値札は取っておこう。
5年ぶりの我が家。入院中に外泊も出来たのだが、家には帰らなかった。
この時のために楽しみはとっておきたかったからだ。
嬉しい。ものすごく嬉しい。そしてすごく懐かしい。
真っ先に家に帰ってした事は妹の仏壇に線香をあげる事だった。
「……」
「そういえば梓。香菜の部屋の鍵知らない?見つからないんだけど」
親の言葉にゾクッとした。今なんて言った。
香菜の部屋の鍵……?
「その鍵を知ってる」かもしれない。ちょうど1年前に渡された鍵。
もしかしてそれが……。
部屋の鍵が開いた。
……開いた。5年ぶりに入る妹の部屋。
私は思い出していた。そういえば交通事故で妹が死ぬ前に……、
「今年のクリスマス会は私がサンタさんの役をするね」と言っていた事を。
「ぴんぽーーーん!!!当たりでーーーっす!!!!」
「うわっ!?」
説教サンタが扉から入ってくるとおじぎをし、
彼女はぶかぶかの大きいサンタ帽を脱いだ。
ぶぁさっと長い髪が、帽子で見れなかった綺麗な髪が姿を現す。
交通事故から5年経ち、15歳の妹そのものの姿があった。
「退院出来て良かった!!おめでとう!!!サンタは嬉しいです!!!!」
彼女はにっこりと笑った。これまでとは違う。温かい笑顔。
「良かった!!!私が亡くなってもお姉ちゃんはこうして頑張ってくれた!!!」
ダメだ。私は……涙を我慢出来ない。
妹はこうして私を元気づけてくれていたのだ。
そして私を信じていた。
必ず歩けるようになって退院する事が出来ると。
「香菜……お姉ちゃんとしてお礼を言わせて。ありがとうね。
私の事をずっと想っていてくれた。ありがとう。うぅ……」
「うん。私はもうこの世には居ないけどさ。
それでもお姉ちゃんはこれからも頑張って。生きていって。
だって、お姉ちゃんはゼロじゃない。可能性があるんだもん!」
私はサンタを信じてる。
誰がなんと言おうと居ると信じてる。
──サンタは大切な友人であり、家族なのだから。
今でも毎年のクリスマスプレゼントを楽しみにしている。
今年のプレゼントは「退院」という素晴らしいプレゼントだった。
来年はどんなプレゼントなのだろう?私はそれを楽しみに、
今日もこの青い空の下を、元気に歩くのだった──。
~END~
あとがき
「時の流れ、1つの舞台上での必要最低限キャラのやりとり」
デラベッピンレベル4のセンスとはここにあると思います。どうでしたか?
元々は「ブログで画力向上スレ」での2009年冬コミ合同、
同人誌計画が立ち上がった時にこの物語は考えたんです。
もっとギャグを混ぜた4ページ形式の4コマで進む予定でしたが、
同人誌の計画はおじゃんとなり、お蔵入りに。
それももったいないので、2年ぶりにこれを修正し、
小説っぽくしたのが今回となります。
家族であり、そして大切な友人のお話。
これは僕にとって、ものすごく毎回描きたいと思っているものです。
「サムライ烈風MOMO」や「No Stoly」や「二人の魔法使い」もそうです。
家族、そして友人を軸としたストーリー。キャラクターがもの凄く頑張る。
そして最後は念願の欲しかった物が手に入る。笑顔になる。
彼女は歩く楽しさを再び取り戻す事が出来ました。彼女1人では出来なかった。
妹が居たからこそ、出来た事なのです。亡くなっても姉の事を想い、
元気づけていた。すごく健気な妹です。
ちなみに尿道カテーテルってマジで痛いよ?これはマジで。
この物語が皆様の心に残ればよいと思います……。長くなりましたが、
「君はゼロじゃない。可能性がある」この台詞が全てですね。
ご感想コメントお待ちしております。励みになりますので……。
腹が立つと同時にうらやましい。自由に歩けてうらやましい。
私はずっと……ベッドの上だ。
一日はベッドの上だけで終わる。ずっと寝たきり。
前までは普通に歩けてたけど、12歳の時の交通事故で全てが変わった。
下半身不随。
それに2歳年下の妹を亡くした。両親は無事だったが、
長女の私だけがこうして生きている。いや、生かされている。
何の楽しみも無いこの世の中を。
中学校生活も、そしてこれからの高校生活も……私は病室で過ごす。
ずっと。大人になってもここで過ごすのだ。
拷問に近い。生き地獄だ。──そう思っていた。
だが、思いもしない楽しみが出来た事でそれは変わっていく。
「クリスマスにサンタさんと出会う事」が楽しみになったのだ。
そう。サンタさんは実在すると思っている。
まぁとりあえず、サンタさんと初めて出会った時の話でもしようか。
「クリスマスの夜に」 デラベッピンレベル4



■ ■ ■
13歳。4年前の12月24日深夜。
病院に入院して半年ぐらい経った頃。私は荒れに荒れていた。
かろうじて動く腕を動かしては暴れ、「今すぐ殺せ」とか
「さっさと足を動かせられるようにしろっ!ヤブ医者め!!」と
とにかく周りに当たり散らしていた。今思うと申し訳ない事だ。
世間はクリスマスとか言うが、病室にサンタなんて来ない。
プレゼントも貰えないだろうと思っていた。
そう思っていたが、サンタは来たのである。
「いやっほーーーー!!!お元気ー!!!!??」
その大きく、テンションの高い声で私は起こされた。何だ?何が起こった。
個室の扉の方を見るとサンタの衣装を着た、小柄な少女が一人。
ぶかぶかな衣装を着て、大きな大きな白い袋を肩にしょっている。
「お元気してるぅ?」
なんだこいつ……。いきなりなんだよこいつは……。
それが第一印象だった。なんだこいつ。
「お元気してるぅー?」
「うるさいから静かにして」
そんな一蹴する言葉に彼女は一瞬きょとんとしたが、
途端にほっぺを膨らませる。
「せっかく会いにきたのになんだよそれ。
あーぁ、プレゼント欲しくないの?とびっきりのプレゼントだよ?」
袋をぱんぱんと手で叩きながらこちらに近づいてくる。来んな。
「私の顔の近くに来ないでよ……。プレゼントってなにさ?
あんたはサンタって訳?私よりちょっと幼そうなのに?」
「イエスイエス!マイネームイズサンタさん!!」
サンタという名前なのか?こいつは。
しかし、さっきから笑顔の絶えないやつである。
でもプレゼントという言葉には惹かれた。肩に担いでいる大きな白い袋。
いったい何が入ってるんだろう?
「まぁとにかくプレゼント置いたら、さっさと帰ってよね」
ベッドに横になったまま彼女を見上げる。ホントにさっさと帰ってほしかった。
トラブルでも巻き起こしそうなこの雰囲気。オーラが彼女にはあった。
「プレゼント下さいって言ったらあげるよ。さっきからそんな言葉遣いじゃ
だーめ!悪い子にはプレゼントあげちゃダメって規則あるからね」
どんな規則だよ。サンタの業界も厳しいな。
「はいはい。プレゼント下さいな」
「それが人に物を乞う態度かなー?この尿道カテーテル引っこ抜こうか?」
「やめろ!!!!」
カテーテルは痛い。引っ張られると痛いし、抜く時は更に痛いのだ。
どうやら選択権は無いらしい。仕方ない……。
「……プレゼント下さい。サンタさん」
「よーし、良い子良い子。じゃあプレゼントはこれだよ。どーぞ」
靴だった。白いスニーカー系の靴。
「ふざけんなあああああああ!!!!!!」
深夜の病院でも関係無い。私の大声が狭い病室に響き渡った。
「ふざけてないよ?」
またきょとんとしたその表情がイライラを募らせる。
「私は歩けないんだよ!!!!靴なんて……っ!!!!」
「いつか歩けるようになった時のためだよ。
まさか君は最初っから諦めてるのかな?もう自分は歩く事が一生出来ないと」
「なに……?」
「人間の寿命は80年だよね?まだまだ君は時間もたっぷりある。
それに医療技術もこれから進むでしょう。人間は未知な部分も多い。
歩けるようになれる可能性は最初からゼロなのかな?そうじゃない」
彼女は私の目を真っすぐ見ながらひたすら言葉を並べていく。
まるでスイッチが入ったかのように言葉を流していく。鮮やかに。
「ゼロというのは変化が起こる事も無い。永遠のゼロ。全くの無。
でも君はどうだい?今、呼吸をし、私の言葉を聞き、理解しようとしている。
君はゼロじゃない。可能性があると言っているんだよ」
彼女が私の手をぎゅっと握った。
「冷たい!!!」
「あっ、ごめんごめん。知ってる?手が冷たい人は心の中はあったかい」
今のはゾッとする冷たさだった。この子はなんだよ。深夜の病院に……。
「まぁ、とりあえず……1年後の24日にまた会いましょう」
彼女はそう言って颯爽と病室の外へ歩き出した。
「おいっ!!待て!!!!」
私の手元に残ったのは靴だけ。何とも言えない不思議な体験である。
■ ■ ■
14歳。3年前の12月24日深夜。
「いやっほーーーー!!!お元気ー!!!!??」
彼女は1年前と変わらない姿で現れた。相変わらずのサンタコス。
「ちょっと髪伸びた?う~ん、まだ病室に居るって事は靴が履けてないって事ね」
確かに髪は伸びた。セミロングからちょっとロング気味になっている。
でも今はそんな事より……。
私は彼女の胸ぐらを思いきり掴んで引き寄せる。
「うわっ!!??」
「……待っていたよ。説教サンタ。お前をギッタギタにするために
腕の筋力は相当鍛えた。とりあえず殴らせろ」
「……殴ったらカテーテル引っこ抜くよ」
「……」
私は手を離した。そうされちゃ敵わないからだ。
「なんだか懐かしいねぇ。1年ぶりだねぇ。って事で今年のプレゼントは」
彼女はすごくニヤニヤしていた。気持ち悪いくらいのニヤニヤ。
「はいはい。プレゼント下さいな。サンタさーん」
「ひどい棒読みだなぁ。でもあげるよ。今年のプレゼントはこれ」
スカートだった。オレンジ色の。
「……ふざけんな、っていう言葉も出ないわ」
見ての通り、私は四六時中パジャマだ。スカートなんて履く機会も無い。
「君はなんとか1年を過ごしたみたいだね。どう?なんか進展はあった?」
「腕の筋力が上がった。あと暴れるのはやめた。趣味で絵描くようになった」
「絵?ちょっと見せてよ!!!!すっごい気になるなぁ!!!!」
「……そこの引き出しにキャンパスノートがある。私の傑作さ」
「ふふ~~ん……。どれどれ……」
彼女はごそごそと引き出しを漁る。目が輝いてるなぁ……。
目的のノートを発見し、真剣な目で見始めた。
「どうだ?上手い絵だろう」
ぱらぱらとめくっていき、最後まで読み終わって満足したのか、
バンッ!と勢いよく両手でノートを閉じる。
「あはははは!!こりゃ、すっごく下手くそだ!!!!」
「てめぇ!!!!!」
胸ぐらを掴もうとしたが、間合いの外だった。糞が。
「もっと上手くなって私を見返してよ。1年後に」
にこにこと笑いながら、あっけらかんとした口調。本当にいらっとする。
「このやろぉぉ~~~。お前のような小学生に言われるとは」
「私も来年は中学さ!!サンタでも中学!!」
「……お前はずっとこういう嫌みな仕事をしてるのか?」
「失礼な。こういう嫌みなプレゼントは君だけだよ。知ってる?
好きな女の子には嫌がらせしたくなる心理を」
「私の事が好きなのかよ?お前とはあんまり知らない仲なのに?」
「いや知ってるよ私は……。君の事を昔からよく知ってる。
君は頭が良い事も、交通事故でこうなってる事も」
「気持ちの悪いやつだ」
「よく言われる」
彼女はへへへっと笑った。なんだこれ……どこか懐かしい雰囲気だ。
「まぁ、とりあえず……1年後の24日にまた会いましょう」
「おいっ!!待て!!!!もっと話がしたい!!!!」
彼女は病室を出ていった。相変わらずの決め台詞だなぁ。
手元にはこれで靴とスカートとなった。着る日は来るのだろう?
■ ■ ■
15歳。2年前の12月24日深夜。
「いやっほーーーー!!!お元気ー!!!!??ってアレ……?」
「……」
私はこの時期、相当危ない状態であった。肺炎を患い、集中治療室に居た。
彼女がこうして来た事もほとんど知らない。
「……苦しいの?大丈夫?」
病室内に響き渡る人工呼吸器の音と心音計の音。それ以外はほとんど無音。
「……ちょっと引き出しの中を失礼。わっ!絵上手くなってる……!!」
彼女はパラパラとめくりながら椅子に座っていたと思う。
「なんだこれ?日記??」
12月22日
あともう少しであの説教サンタと会える。楽しみだ。皮肉だけど私にとって
1年で楽しみな行事となってしまっている。今年は何をくれるんだろうか?
どうせ帽子とかに違いない。あいつはアウトドア系にしたいみたいだしな。
「……帽子。当たりです」
彼女は袋からオレンジ色の帽子を取り出した。値札も付いている。
「1200円だけど値札はそのままでいいや。ペンちょっと借りるよ」
クリスマスプレゼントです。サンタより。
「えへへへー。喜んでくれるかな?」
12月21日
初めて車いすに乗った。まだ歩けないが自由に動けるのは楽しい。
説教サンタに会うのが楽しみだ。きっと驚くだろう。
「えっ!??車いす乗れるの!!??」
「ごほん!ごほん!!」
「あっ……大声出してごめん。凄いなぁ。君は凄いや。
生きようとする気力があるんだから君はきっと大丈夫だよ。
だから死なないで。こんな所で死なないで……生きて……」
彼女の手がおでこに重なる。冷たい。相変わらず冷たい手だ。
「まぁ、とりあえず……1年後の24日にまた会いましょう」
またしても決め台詞を吐き、彼女は病室を出ていった。
■ ■ ■
16歳。1年前の12月24日深夜。
「いやっほーーーー!!!お元気ー!!!!??」
彼女は2年前と変わらない姿で前に現れた。
「2年ぶりだな。サンタさん元気してたか?」
「2年?1年前にも来たんだけど君は寝てたからさ」
「あぁ、この今被ってる帽子をくれたんだろ?ありがとな」
「君がお礼を言ったのは初めてだね。嬉しいなぁ」
私は足に力を入れた。ゆっくりとゆっくりと
松葉杖でベッドから立ち上がる。
「うそ……」
「うそじゃねー。マジだよ。ここまで回復したんだ」
よろよろと近づいた。
「お前、意外と背が小さいんだな。ざまーみろ!はははは!!!」
「君に言われたくないなぁ!!プレゼントあげないよ!!?
なーんてねっ!!」
2人で笑い合ったのは初めてだった。いつの間にか……、
こいつと私は友達になっていた。不思議だ。
「では今年のプレゼントはこれ」
「なんだこれ?鍵……?」
「部屋の鍵。私の部屋の」
「はぁ?お前の部屋の鍵??」
「1年後のクリスマスになれば、その鍵を使う時が来るよ」
「来年はお前の部屋へご招待って訳か?そりゃ楽しみだ」
「それと今年はオマケでこれもあげます。カジュアルな白い服」
「やけに大サービスじゃないか」
「こんなちっぽけな鍵1つじゃ怒るかな?って」
「……べつに怒らないけどな」
「まぁ、とりあえず……1年後の24日にまた会いましょう」
「おいっ!!待て!!!!」
「何?」
「お前、名前は?そして一体何者なんだ?
前に会った事がある気がする。お前と居るとなんか懐かしいんだ」
「……1年後に教えてあげるよ。だからそれまでにちゃんと退院してね?」
頑張る事にした。絶対に退院すると。
■ ■ ■
17歳。12月24日昼。
急遽、退院する事になった。急いで退院の準備をする事になったのだ。
しかし外へ出るのに着ていく服が無い。いや、あった……。
白いスニーカーの靴、オレンジのスカート、
オレンジの帽子、白いカジュアルな服、
この4年間で貰った物で病院を退院する事となった。なんだか感慨深い。
不思議とこれらの服はサイズも合っていた。そして似合っていた。
……不思議だ。あ、帽子の値札は取っておこう。
5年ぶりの我が家。入院中に外泊も出来たのだが、家には帰らなかった。
この時のために楽しみはとっておきたかったからだ。
嬉しい。ものすごく嬉しい。そしてすごく懐かしい。
真っ先に家に帰ってした事は妹の仏壇に線香をあげる事だった。
「……」
「そういえば梓。香菜の部屋の鍵知らない?見つからないんだけど」
親の言葉にゾクッとした。今なんて言った。
香菜の部屋の鍵……?
「その鍵を知ってる」かもしれない。ちょうど1年前に渡された鍵。
もしかしてそれが……。
部屋の鍵が開いた。
……開いた。5年ぶりに入る妹の部屋。
私は思い出していた。そういえば交通事故で妹が死ぬ前に……、
「今年のクリスマス会は私がサンタさんの役をするね」と言っていた事を。
「ぴんぽーーーん!!!当たりでーーーっす!!!!」
「うわっ!?」
説教サンタが扉から入ってくるとおじぎをし、
彼女はぶかぶかの大きいサンタ帽を脱いだ。
ぶぁさっと長い髪が、帽子で見れなかった綺麗な髪が姿を現す。
交通事故から5年経ち、15歳の妹そのものの姿があった。
「退院出来て良かった!!おめでとう!!!サンタは嬉しいです!!!!」
彼女はにっこりと笑った。これまでとは違う。温かい笑顔。
「良かった!!!私が亡くなってもお姉ちゃんはこうして頑張ってくれた!!!」
ダメだ。私は……涙を我慢出来ない。
妹はこうして私を元気づけてくれていたのだ。
そして私を信じていた。
必ず歩けるようになって退院する事が出来ると。
「香菜……お姉ちゃんとしてお礼を言わせて。ありがとうね。
私の事をずっと想っていてくれた。ありがとう。うぅ……」
「うん。私はもうこの世には居ないけどさ。
それでもお姉ちゃんはこれからも頑張って。生きていって。
だって、お姉ちゃんはゼロじゃない。可能性があるんだもん!」
私はサンタを信じてる。
誰がなんと言おうと居ると信じてる。
──サンタは大切な友人であり、家族なのだから。
今でも毎年のクリスマスプレゼントを楽しみにしている。
今年のプレゼントは「退院」という素晴らしいプレゼントだった。
来年はどんなプレゼントなのだろう?私はそれを楽しみに、
今日もこの青い空の下を、元気に歩くのだった──。
~END~
あとがき
「時の流れ、1つの舞台上での必要最低限キャラのやりとり」
デラベッピンレベル4のセンスとはここにあると思います。どうでしたか?
元々は「ブログで画力向上スレ」での2009年冬コミ合同、
同人誌計画が立ち上がった時にこの物語は考えたんです。
もっとギャグを混ぜた4ページ形式の4コマで進む予定でしたが、
同人誌の計画はおじゃんとなり、お蔵入りに。
それももったいないので、2年ぶりにこれを修正し、
小説っぽくしたのが今回となります。
家族であり、そして大切な友人のお話。
これは僕にとって、ものすごく毎回描きたいと思っているものです。
「サムライ烈風MOMO」や「No Stoly」や「二人の魔法使い」もそうです。
家族、そして友人を軸としたストーリー。キャラクターがもの凄く頑張る。
そして最後は念願の欲しかった物が手に入る。笑顔になる。
彼女は歩く楽しさを再び取り戻す事が出来ました。彼女1人では出来なかった。
妹が居たからこそ、出来た事なのです。亡くなっても姉の事を想い、
元気づけていた。すごく健気な妹です。
ちなみに尿道カテーテルってマジで痛いよ?これはマジで。
この物語が皆様の心に残ればよいと思います……。長くなりましたが、
「君はゼロじゃない。可能性がある」この台詞が全てですね。
ご感想コメントお待ちしております。励みになりますので……。