若い者も美しい。 しかし、老いたる者は若い者よりさらに美しい。
~W・ホイットマンの言葉より抜粋~


「人の流れ」 2011年作品第1作目 原案/画 デラベッピンレベル4

おはようございます。今日もいい天気ですねぇ。

今日は少し風が強い方かな?でも太陽の光が凄く眩しい。

「あ、あの……
前から好きだったんです!!付き合ってください!!!!」

$デラベッピンレベル4の雑記☆彡

え?ボク?

「すっごく嬉しいよ!!僕も好きだったんだ!!!」

なんだ……ボクじゃないのか。
中学生くらいの男女かな?末永くお幸せにね。

「おぉーーい!!ゲンさん!!!!今日も将棋やろう将棋!!!!」
「てっちゃん!!
将棋盤と敷物は持ってきたか?今日は勝ってやるからな」

この老人二人はいつもボクの前で将棋をする。
あんまりにも毎日やってるからルールを覚えてしまったくらいだ。
でも手が出せないのでじっと見てるだけ。それでも楽しい。

「お、今日はゲンさん強いな……」

$デラベッピンレベル4の雑記☆彡

「おじちゃん達なにやってるのー??」
「あー、これ知ってる。将棋って言うんだぜー!」
「しょーぎ?」

近所の子供達だ。よくボクの周りで遊んでる子供達だ。

「よーし、おじちゃんが将棋を教えてやろう!!」
「あ!?てっちゃん、きったねぇ!!!対局途中で終わりかよ!!」

相変わらずだなぁ。ここの老人は。
町の住民はどうやらボクの周りに居るのが好きらしい。
ボクの周りに居ると癒されるんだろーか?癒し系なのだろうか?



寒いなぁ。さすがに夜は人が来ないなぁ。でも小鳥さんが
寝に来てるから寂しくはないけど。ううん?

「聞いてくれよーーー!!!女房に逃げられちまったしどうすれば。
うぅ……酒が足りねぇ」

あらら。大変。

「なぁ、お前どうすればいいと思う?」

え?ボク?うぅ~ん、とりあえず奥さんを追いかけて理由を聞くとか。
逃げられたんなら謝るのが大事だよ。ごめんなさいって。

「そうか!!そうだよな!!!!ありがとう」

あれれ?ボクの言葉は人間にはわからないはずなのに……。
偶然だよね?まぁ奥さんとまた仲良くなってね。

■ ■ ■

春になると毎年ボクの周りでお祝いをする。どんちゃん騒ぎをする。
それが凄く嬉しかった。自分を祝ってくれてるようで。

そんな春も過ぎたある日。ボクにとって一大事件が起こった。

「ソメイヨシノを今日切るだと!?」

ゲンさんの大声が響き渡った。すごい大声だった。

「切るって、あんた達は正気か?」

ソメイヨシノ?あぁボクの名前ってそういう名前なんだぁ。
素敵な名前だ。ボクを切るってどういう事なんだろう?

「ここに大型のパチンコ店を建てるんだよ。この木は全部伐採。
もう申請してあるから工事に反対とかはしないでくれよ?」

「ふざけるな!!この木は町の住民にとって大切な……!!」
「そうじゃ!!けしからんぞ!!」

「そうだ!!俺はこの木のおかげで女房とまた仲良くなれたんだ!!」

「私たちにとってはこの木は大切な思い出の木なの!!」
「頼む!!木を切らないでくれ!!」

「おねがいだよ。おじさん達!木を切らないでよー」
「僕たちにとっては遊び場なんだよー」
「遊び場なのー!」

みんなわざわざ来てくれたの……?
う、嬉しいなぁ。こんなにも想ってくれてただなんて。
ボクの事を……。

「三千人分の署名でも持ってくれば工事案は却下されるかもしれんがな。
そんな人力も無いだろ?邪魔だから帰っ……」

「あるぜ。三千人分の署名ならな」

$デラベッピンレベル4の雑記☆彡

ゲンさんは大きな紙の束を工事の人に渡した。すごい分厚い紙だった。

「な……なに?」

「おいコラ。伐採伐採とか言うがなぁ!!!
木の命を軽く見てんじゃねぇぞ!!!!
立派に成長するまで何十年かかると思ってんだ!!!!」

「……俺らだって好きでこの木を切ろうと思ってる訳じゃない!!
仕事なんだよ。女房や子供に食わせるためには……」

「桜の大木を切り倒す仕事をしたって聞いて
その女房や子供は喜ぶのか?喜ばないだろ?
この木を切らずにパチンコ屋を建てる方法だってあるはずだ。
女房や子供に堂々と胸はって自慢出来る仕事をしてこそだろうがよ!!」

「じいさん……。なんだか悪かったな」

「おぅ。頑張れよ」

「やったぞ!!
工事の人が帰った!!!ソメイヨシノは守られた!!!!」

「やったぁぁぁああああああああ!!!!」

……ボクはここに生まれて本当に良かったなぁ。
みんなには感謝だ。ありがとう。ありがとう。

「おい。ありがとうだってよ!!!この木ありがとうって言ったぞ!!!!」
「ゲンさんも聴こえたか?儂にも聴こえた!確かに聴こえた!」
「私にも聴こえたわ。ありがとうって」

ボクはこれからも何十年と生きるだろう。
この救ってくれた人達の事を忘れないであろう。

■ ■ ■

10年の月日が過ぎた。ボクは相変わらず元気だ。

「ソメイヨシノさん」

うん?

「ゲンさんとてっちゃんは天国に旅立ったさかい。伝えに来た。
儂はのぅ。ゲンの妻じゃ」

えぇ……!!?

「二人の対局をずっと見守ってくれてありがとう。
あの二人も今頃は上で一局うってるでしょう」

亡くなったなんて……。

「彼らはじゅうぶんに生きた。そんな悲しい顔をしなさんなって」

手がボクに触れる。とても暖かかった。暖かい。

「おや……あんた達もこの木になんか用かい?」

「えぇ。このソメイヨシノの前で10年前に彼に告白したんですよ。
結婚して25歳になって、子供を授かりましてね」
「僕たちにとってこの木は始まりの木なんですよ」

「かわいい赤ん坊だねぇ。ひ孫にそっくりじゃ」

出会いもあれば別れもある。こんにちは。赤ん坊。
君もボクの周りを駆け回りながら育っていくだろう。
よろしく。見守る事しか出来ないけどよろしくね。

「それにしてもこのソメイヨシノ。本当に立派な木になったなぁ……」
「そうね。10年前より大きくなった」

$デラベッピンレベル4の雑記☆彡

立派になったのは伐採から助けてくれたからだよ。
あなたたちが立派にしたんだ。ボクを。
だからあなたたちも立派だよ。立派な心を持っている。

みんなはボクの事を綺麗だ、って言うけど、
立派な心もすっごく綺麗なんだよ。

赤ん坊が手を振った。それは純粋そのものだった。

終わる物語もあれば始まる物語もある。

ボクは今後もこの純粋な世界をじっと見続けるであろう。

みんなが守ってくれたこの場所で。

おしまい。


あとがき
「なぜデラさんはそんな綺麗な物語を描けるのですか?」
前作「世界を救った、一つの絵」を読んだ知り合いにそう質問された。
「最初から綺麗な話を描こうと思って描いてるんじゃない。
結果的に綺麗な話になっていた。そんな感じです」と答えました。
綺麗な話ってなんぞや?それは私にもわかりません。

この物語にも明確なテーマを設けました。一つだけでなく様々な。
それがどんなテーマなのかは教えられません。
あなたが読んで「これがテーマかな?」と感じた事が
テーマだと思います。そういう一貫したものが綺麗さなのかもしれない。
逆に何も感じられるものが無かったよ、という事でしたら
それはこの物語を描いて大失敗だったという事です。俺の技術力不足です。

この物語は全員が主人公です。様々な人々が大木の周りを行き交う。
それぞれの人生が交錯する。大木の周りから視点が一切動かない、
不思議で狭い世界です。でもどこか暖かい。
それを感じ取っていただければ、私にとってこれにまさる喜びはありません。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

デラベッピンレベル4