
人間が人間として生きていくのに一番大切なのは、
頭の良し悪しではなく、心の良し悪しだ
~中村 天風の言葉より抜粋~
「絵本や昔話って好きですか?私は好きです。
なんだか心が洗われるような気がするんです。私に心は無いけれど……」
僕は彼女が必死に喋るのをずっと見ていた。
「お友達のあなたならきっと聞きたいはず。私の昔の出来事を」
僕は感じた。彼女はすっごく今、幸せなんだなと。
「聞いてくれると嬉しいな」
僕は聞く事に決めた。彼女の、その物語を。
原案/脚本 デラベッピンレベル4
「Robot」
むかしむかし、あるところに博士とロボットが居ました。
博士は自分で作ったロボットを可愛がりました。
運動も出来ない、計算も出来ないロボットでしたが博士は可愛がりました。
この幸せがずっと続きますように、と願いました。
ずっと……ずっと……。
「また失敗したーーー!!うわぁーーーー!!!」
「失敗は誰にでもある。いいか?こうやってお皿を運ぶんだ」
博士はお手本を見せました。お皿をテーブルまで運んでいきます。
「なぁ、お前はやれば出来る子なんだから。
私は出来るまで気長に待つよ。さぁ、割れたお皿を片付けよう」
「うん……博士」
博士は苦労して私を造りました。でも私は能力が低かった。
他の技術者が造ったロボットの方が断然、凄かったのです。
博士はお金が無くなって学校も行けなくなりました。
お洒落な洋服を買う事も、美味しい物を食べる事も出来なくなったのです。
「美味しい!!な!!」
「うん……」
美味しくなくても美味しそうな顔をしてた博士は今でも忘れません。
博士は17歳の女の子です。すっごく頭が良く、そして綺麗な人。
「出かけるか!!」
「う、うん」
いつも出かけるのはこの公園。お金が無くても遊べるから。
「さぁ!!キャッチボールだ。ロボットだからといって容赦はしない!!」
「お、おおー!」
必死に掛け声を張り上げる私。へなへななボールを投げます。
ぽてんぽてんと転がるボールを優しく受け止める博士。
「うん。良いボールだ」
にっこりと博士は笑いました。
「今日は料理を教えよう。フレンチトーストだ」
「ふれんちとーすと?」
「お手本を見せよう」
「博士は料理上手なんだね。すごいよ」
台所にすごく良い匂いがたちこめる。
「お前にもいつか出来る時が来るさ。だから
出来る事を信じ続けるんだ。
私はそう信じてきて博士になれたんだ」
「うん!」
博士は優しく私の頭を撫でました。
「頼む!!!もう少し、もう少し返済を待ってくれ!!!」
博士はトイレに行くと言ってたけど部屋に居ました。
誰かに必死に謝ってました。なんだか胸が少し痛んだのです。
ある時、私は博士に聞いちゃいけない事を聞いてしまった事がありました。
「博士……。私を造って後悔してない?」
「あのなぁ……後悔してたらスクラップにしてる」
「怒ってるの……?」
「怒ってはいないけどさ。もっと楽しい話題をしようじゃないか。
例えばお前が割った皿の枚数を数えるとか」
「博士のイジワル……」
「はははははっ!」
そしてあの事故の日がやってきたのです。
「犬だ……」
「え?なんですか博士」
「道路の真ん中に犬が歩いてる。あのままじゃ危ないな」
「わんこ……」
「お、おい。お前も危ないぞ!そっちへ行くな!!」
「博士……。ロボットはこんな時こそ役に立たなきゃいけないと思うんです」
「お前……!!そんなかっこいい事言うんじゃない!!
いいか!?戻るんだ!!!!」
「壊れたら直してくれるのか不安ですが、行ってきます」
「なんでお前泣いてんだよ……。ロボットなのに……」
「うぅ……お母さんのおかげ……お母さんがっ、私を育ててくれたから……」
「なんだよ!!最後の最後でお母さんなんて呼ぶなっ!!呼ぶなよ……」
「私の身体の奥には人を助けるプログラムが埋め込まれている。
私の行動が人を助けるんだよ?それをプログラムしたのはお母さん。
立派なプログラムを……ありがとう」
私は犬を助けて機能停止しました。修復不可能なほどの傷を負ったのです。
でも博士は諦めませんでした。
「お前はたった一人の娘なんだよ!!!
もう……家族なんだよ!!」
博士はご飯も食べず、寝る事もせずに私の修復をしました。
一日が経って犬の飼い主が来ました。
「ぜひともそのロボットを大量生産してほしい。資金援助は出すぞ」
お金が手に入る。それは博士の今までの苦しみが無くなる事でした。
お洒落な服も買えるし、おいしい物も食べれる。学生にも戻れる。
「今はそれどころじゃないんだよ!!!!」
博士は声を張り上げました。
「たった一人の娘が死ぬか生きるかの瀬戸際なんだよっ!!!!」
部屋が静まりました。飼い主はきょとんとしています。
「あ……、ごめんなさい」
謝る博士に飼い主は「頑張って」と肩を叩きました。
二日が経ち、博士の友人が来ました。学校の古い友達です。
「大丈夫……?休んだ方がいいわよ?」
「休んだらダメだ……。こいつを……こいつを直してやるんだ」
友達は博士に「あまり無理しないようにね」とご飯を置いていきました。
「あいつ……、最近はあまり会ってなかったのに
私の好きな食べ物憶えていてくれたんだな」
そして事故から三日が経ち、もう博士には気力が残ってませんでした。
「……お前いつか私に『後悔してないか?』って聞いた時があったよな」
博士は思い出したかのようにゆっくりと喋り始めました。
「……逆に聞きたい。お前は私の元で造られて後悔してないか?
別の技術者の元で高性能なロボットになる事も出来たかもしれないんだぞ」
博士は冷たい金属の私の頭を撫でました。
「結局は私とお前はお似合いだったのかもしれないな……。
お前に友達をつくらせてやりたかった」
なんだ……何を弱気になってるんだ。
私はこいつに教えたじゃないか。
信じ続けろって。こいつがまた元気に皿を割って、へなへななボールを投げて。
そんなふうに前の生活のように……なれるように信じろよ私。
博士はまたスパナを握りました。
そして……、
「おぉーーーーーーい!!」
「あ、お母さんが来た!!お母さん、紹介するね私の友達!!」
僕は挨拶をした。この物語の主役に。
「フレンチトーストを作るのが得意な娘だがよろしくな。
じゃあ、私は忙しいからまたな。学校に行って設計しなきゃならん。
犬の世話を頼むよ。上司が世話しろって言うんだよ」
「わんわん!!」
「うん!!」
彼女は微笑んだ。僕も微笑んだ。
この幸せな公園の光景に。
~END~
キャラ設定&あとがき

