騒いだ割には大きな変化がなかった2014年も終わり、
2015年も静かな年明けになった。
静かなことは良いことだが、悪い方への変化が、
一部の絶好調とはまるで無縁のごとく、静かに迫っている。
円安による物価高、実質賃金の目減り、
他、どれをとっても、生活者には暗い話題ばかりである。
その中で、少しの希望が見えたとすれば、
いわゆるブラック企業の淘汰である。
深夜に一人で店を切り盛りさせる、
いわゆる「ワンオペ」の無理がたたり、
従業員が辞めて行って、回らなくなったゼンショー、
ついに赤字に陥ったワタミなど、
今まで、もっともらしいことを言って、
安い賃金で若者を雇っていた企業が、
次々と窮地に追いやられている。
ユニクロは早々と雇用を厚くすることで、
窮地を脱しようとしている。
経済とはそもそも生活の中から生まれる。
生活で必要なモノがあるからそのモノを買う。
モノが売れれば企業は儲かる。
そして業績の企業は賃金を増やす、はずだった。
しかしもうけたお金を貯め込み、
賃金に回さなくなった。
必要なモノも買えなくなった。
モノが売れなければ企業はもうからない。
企業が儲からなければ賃金は増えない。
賃金が増えなければ、ますます消費が落ち込む。
そして今、実質賃金は減っている・・・。
実質を除いた物価上昇も、
需要があるから値段が上がるのではなく、
円安で原材料が上がっただけだ。
本当の意味でのデフレ脱却ではない。
ここまで書けば、企業の成長は、
賃金の上昇が不可欠であることが分かる。
(実はそれだけではないが、後述する。)
だからこそ、安倍政権は賃上げ賃上げと言っているのだ。
しかし、安倍政権の言うことが届くのは、
一部の大企業だけだ。
大企業が賃上げをした分、
下請け企業の納入価格を聞き下げる動きに出る。
下請け企業は逆に賃下げになってしまう。
賃下げだけでなく、正規雇用を控え、
いつでも首切れる(と誤解されている)非正規雇用でしのぐ。
正規雇用が減って非正規雇用が増え全体の4割に迫った。
いつ首切られるか分からない状況で、
思い切った消費など出来るわけない。
賃上げだけでなく、安定雇用の確保こそ、
消費回復=企業業績の向上につながる。
しかし、個々の企業はそんなリスクは抱えられない。
そんなジレンマに陥っているのが、
現在の我が国の状況なのだ。
これは、誰が悪い、アベノミクスの効果出ていない、
という次元ではない。制度上の問題だ。
ならばどうすればよいか。
以前から筆者が本欄で言ってきた、
「労働法制の大改正」である。
企業に、正規雇用を義務付けることが早道だが、
中小企業にそんな余裕はない。
ならばいっそのこと、正規・非正規の壁をなくすのだ。
そもそも正規雇用という法的な定義はない。
労働基準法で定められているのは、
雇用期間の定めの有無だ。
無い場合、定年まで勤められることになる。
正規雇用の一般的な要件の1つと言える。
その他にも、給与の違い、責任の違いなど様々だが、
非正規には、責任だけ押し付けて待遇は良くしない、
という手が使われている。先に出したゼンショーが典型例だ。
とはいえ、雇用期間の定め以外、法的に規制は事実上できない。
それに、その期間の定め以外、先の責任性など、
正規・非正規の区別も、垣根が低くなっている。
であれば、いっそのこと雇用期間の定めを
原則として無制限のみにしてしまうのだ。
予め事業自体が期限付である場合は、
都道府県労働局の認定を受けることで救済する。
それ以外の例外は、一切認めない。
期限付事業の認定は、会社単位ではなく、
プロジェクト単位でも認めるようにする。
(当然会計基準は厳しくする。)
こうすれば、正規・非正規の垣根が無くなる。
ただこれだと賃金を予め低く抑えた
新規雇用ばかりになってしまう。
それにリストラもできない。
なので企業側には、解雇の制限を今より緩くする。
ただしそれだと、雇用の不安定につながり、
従来の非正規なかりになってしまう。
従来の解雇制限は残した上で、
それ以外で解雇する場合は、
1年以上の予告期間を義務付けるのだ。
そこに「1年分の賃金を払って即解雇」は認めない。
雇った以上、従来の止むをえない事情として認められている
解雇制限の枠外で行う場合は、相応の責任を負担させる。
解雇予告を受けた労働者は、一定日数分の
無制限の有給休暇を付与する。次の職探しのためだ。
そして枠外解雇を行った企業は、
10年間、厚生労働省のホームページなどで、
その事実が晒されるようにする。
外資系のリストラのように、企業自ら転職先を
紹介し実現した場合は、その事実も併せて紹介する。
こうすることで、本当に従業員の雇用確保を考える→
従業員のやる気を出させる→企業価値の向上に、
まじめに取り組んでいる企業が生き残るようにするのだ。
もう1つ、こうすることで、硬直化した労働市場の移動が
大きく流動的になることだ。
どうせ大企業に勤めても、定年までいられるのはわずか。
放りだされるよりも、誰もがいつでもそうなってもよく、
かつセーフティネットがあれば、不安もかなり減る。
こうなると、1つ懸念が出てくる。
労働者間の格差が広がってしまうことだ。
求められる労働者は引く手あまたで高賃金となるが、
そうでない労働者は、そうならない。
しかし今ただでさえ格差は広がっている。
今のような不健全な格差の広がり方より、
不安が少ない中の方がまだ安心だろう。
また、求められる労働者になるには、
労働者自身の自己研さんが必要なことも言うまでもない。
とはいえ、育児・教育や介護に時間を取られる人もいる。
そこは別の法律になるが、労働基準法と相俟って、
今のような中途半端な援助策から大きく変更する。
育児・介護の適用範囲を広げ、休業中は100%保障するくらいの、
思い切った施策の拡充が求められる。
とにかく、今の消費が上向かないのは、将来が不安だからだ。
不安の一番の要因は、老後の年金がもらえるかどうかだ。
なので一番重要な施策はその年金拡充なのだが、
現役労働者の収入が増えない限り、それは望めない。
であれば、労働者の懐を温め、雇用不安をなくし、
消費をしやすくすることで企業業績を向上させるのが早道だ。
企業業績を向上させ、貯め込みを賃金に回した分、
税金を割り引くのである。
それも、いまのような1%というのでなく、全額でも良い。
法人税減税よりよほど効果が上がる。
賃金が上がれば年金保険料収入も増え、年金財政が良くなる。
万が一、安倍首相がこれを読んでいたら、
一笑に付す前に、ちょっとだけ真剣に検討しただきたい。